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イヌに教え、教えられ 第27回 大事なこと

イヌに教え、教えられ

第27回 大事なこと


もう何年も前、神奈川県平塚市にある動物愛護センターから飼い主に捨てられた当時推定8歳のスピッツ「ロビンソン」を保護した。
彼は、体を長く触られることが苦手で、時に我慢できずに咬んでしまうことがある。
「エヘヘ」と笑っていることが多く、ロビンソンが好きな人には懐っこい態度を見せてくれるのに、一転、咬んでしまう。
撫でることが難しいイヌと一緒に暮らし続けることは、簡単ではない。
それを分かった上で、ロビンソンを家族に迎えたいと言ってくれたKさん家族のトレーニングフォローに、私は通いました。

リードの付け外し、散歩のさせ方、散歩後の脚の拭き方…。
毎日の世話に必要なことは、練習を重ねていくうちに、次第に上手にできるようになっていきました。
大変だったのは、家族とロビンソンとのコミュニケーション。
自分から体をぴったりくっつけ、ぺちゃっと隣で伏せて身を預けてくるロビンソン。
家族にとって、こんな態度はロビンソンを撫でたくなる最大級の誘惑だろう。それでもロビンソンとって、撫でられたり、抱っこされたり、膝の上にのせられることが、苦手なことは変わらなかった。

「一度でいいからギュッと抱きしめてみたい」

Kさんが抱っこしようとするたびに、ロビンソンに怒られる。。。
惚れた弱みか、それでもKさんにとってロビンソンはかわいくて仕方がないようだった。

そんなロビンソンも、家族の頑張り、一緒に過ごし暮らす時間、トレーニングなどを通して、少しづつ少しづつ撫でさせてくれる時間が増えるようになっていった。
そんな小さな変化もうれしかったKさん家族。 
ロビンソンがいないことなんて想像できないくらい、隣にいることが当たり前で、「一緒にいられる空間が愛おしい」と話してくれたKさん家族。

2年3カ月を家族と共に暮らした後、ロビンソンは病により天国へ旅だった。

その5日前、手術のため病院に行くロビンソン。
仕事があり、一緒に行けないママが手を広げて「おいで」と誘った。
ママに近づき膝に乗ったロビンソンを思わずギュッと抱きしめてしまったママ。
この時のロビンソンは、抱きしめられることを嫌がらず、怒らず、なすがままにしていてくれたそうです。
後日その話を聴いた私は、何とも言えない気持ちになった。 
ただ元気がなかっただけかもしれないし、何かを悟っていたのかもしれない、そのときのママの様子に何かを感じたのかもしれない・・いくらでも考えようはある。
私の都合のいい解釈でもいい・・きっとそれは、ロビンソンから家族へのポジティブな意思表示だと感じました。

ドッグコーチとして、犬の訓練に携わっていると「躾ける」「トレーニングする」必要性を強く求めたり、優先し過ぎてしまうことがある。
そんな私に、「何があってもこの仔は家族」「自分の仔が一番かわいい」と思う気持ちがいちばん大事なこと、人と犬が家族となり暮らすなかで大事なことなのだと、Kさん家族とロビンソンが教えてくれました。
 
―――――――――――――――*――
 
ロビンソンが旅立ち、
今、Kさん家族は保護犬を迎えて共に暮らしている。

 


 

2016年7月22日掲載

 

イヌに教え、教えられ 第26回
難しいときは、視点を変えてみる

イヌに教え、教えられ
第28回 互いに成長する関係

里見 潤

里見 潤

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(さとみ じゅん)

ドッグコーチ

1975年、横浜市生まれ。2004年、警察犬訓練校に入学、出張トレーニング会社を経て、保護活動団体「Dog shelter」の専属スタッフとして、保護犬のトレーニング、一時預かり家庭と里親家庭の間に入り、アフターフォローを担当する。
2012年7月より独立。出張、及び預託トレーニングを柱に活動する傍ら、保護犬の一時預かりを継続中。
 
日本警察犬協会公認訓練士
ジャパンケネルクラブ公認訓練士
東京都動物愛護推進員

 保護犬預かりを主に、トレーニングのことを書いている里見潤さんのブログ
 「イヌと歩けば。」http://setahachidog.blog.fc2.com

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