進由紀

落ち込んでも、馬に乗ると元気になれる理由

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は感情と姿勢、そして馬との繋がりについてです。

「気分が落ちていたのに、馬に乗ったら少し元気になれた気がする。」
そんな経験、乗馬をする人なら一度はあるのではないでしょうか。

実はこれ、気のせいではありません。
馬に乗ることには、身体の動きや姿勢を通して、心の状態を変えていくチカラがあるのです。

私たちの心と身体は、想像以上に深くつながっています。
たとえば、気分が落ち込んでいるとき、自然とうつむいて、背中が丸まり、呼吸も浅くなっていきます。
逆に、嬉しいときや前向きな気分のときには、胸が開き、目線が上がり、呼吸が深くなる。

つまり、感情が姿勢を変え、姿勢が呼吸を変えるのです。そしてこのつながりは、一方向ではなく、姿勢から感情を変えることもできるというのが興味深いところです。
背筋を曲げた姿勢はよりネガティブな意識状態。背筋を伸ばした姿勢はよりポジティブな意識状態。感情によって姿勢が変化するだけでなく、特定の姿勢を保った結果として感情が作られることがわかっています。

乗馬のとき、私たちは無意識にバランスを取ろうとします。
馬の揺れに対応するために、自然と背骨は伸び、骨盤は立ち、目線が前に向く。

これは「正しい姿勢にしよう」と意識しているわけではなく、馬の上で安定するために、身体が本能的に整おうとしている動きです。

この“伸びようとする”身体の感覚が、結果として背筋を伸ばしたポジティブな意識状態へ導き、呼吸を深め、心を少しずつほぐしてくれるのです。

また、馬という動物自体が「呼吸の大きな存在」でもあります。

馬の肺は人間と比べて前後に長く、特に背中側(背側)に広く広がっているため、馬が大きく呼吸するたびに、背中そのものが“波打つ”ように動きます。乗っている人は、無意識のうちにこの呼吸の波にゆだねられて、揺れと一緒に、自分の呼吸やリズムも整っていくのです。

だからこそ、馬に乗ると、どんなに気分が落ち込んでいても、いつの間にか心が軽くなっていたり、思考がクリアになっていたりすることがあります。

「馬に癒される」と言うこともあるけれど、実は、馬と一緒に動くことで、身体が変わり、結果として心も整うというのがその正体なのかもしれません。

馬は、ただの移動手段やスポーツパートナーではなく、私たちの“感覚”を通して、心と身体のバランスを整える存在。
乗馬は、ある意味で「自分自身をチューニングする時間」とも言えるのです。

気持ちが沈む日も、なんとなくうまくいかない日も。
馬の背中に揺られているうちに、少しずつ、整っていくものがある。

それが、馬と一緒に過ごす時間の、かけがえのない価値だと感じています。

進 由紀

進 由紀

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(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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