しつけ・ケア

馬たちにとって危険な夏の虫

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は、かゆいだけじゃ済まない、馬にとって命にも関わる怖い夏の虫の話です。

夏の馬房、外乗、放牧地。馬の周りにいつの間にか集まってくる小さな虫たち。
人間にとっては「うっとうしい」程度の存在でも、馬にとっては命に関わるリスクになることがあります。
今回は、馬の健康を脅かす“虫”たちについて、そして人間にできる対策を紹介します。

馬にとって有害な代表的な虫たち

① アブ(horse fly)

黒くて大きく、ブーンと低音で飛ぶアイツ。刺されるとかなりの痛みを伴い、馬がパニックになることもあります。
→ 傷口から感染症を起こしたり、騎乗中に暴れて事故につながるケースも。

② ブヨ・ヌカカ(midges)

見た目は小さくても、皮膚を刺して吸血します。特に尻尾の付け根や顔まわり、耳などが狙われやすく、かゆみから掻き壊し・脱毛・炎症になることも。
→ かきむしる→出血→そこにまた虫が…という悪循環に。

③ ハエ(house fly, stable fly)

単なる不快感だけでなく、目や鼻、傷口に集まることで感染症のリスクに。特に馬の目に集まるハエは、結膜炎や角膜炎を引き起こすことも。
→ 小さな目ヤニが出ていたら、よく観察を。

④ 寄生バエ(ボットフライ)

見落としがちだけど要注意。産卵された卵が馬の体毛に付き、馬が舐めることで口や胃腸に入り込む寄生虫になることも。
→ 前肢や喉元に黄色っぽい卵を見つけたら、即除去!

虫刺されがもたらす“二次被害”

馬の皮膚は意外と敏感で、刺されて炎症を起こした部分を自分の歯や足で掻いたり噛んだりします。
そこから出血・細菌感染が広がり、蜂窩織炎(ほうかしきえん)や皮膚潰瘍などに発展することも。

また、虫がストレスになることで常同障害(ウォーキングや壁蹴りなどの反復行動)が悪化する馬もいます。
「虫くらい我慢してよ」では済まされない状況、意外とたくさんあるんです。

私たちができる、虫対策のいろいろ

虫よけスプレーの活用

  • 市販の馬用スプレー(天然成分のものも)
  • 日中と夕方で塗り直すことも◎

マスク&ブーツ

  • フライマスクで顔・耳・目をガード
  • 虫除けブーツやゼッケンタイプのカバーも有効

馬房まわりの清掃と環境改善

  • 水たまりや汚れた餌桶は虫の発生源に
  • 扇風機の風も虫除け効果あり◎

放牧の時間帯に注意

  • 虫が最も活発な朝夕の薄暗い時間帯を避ける
  • どうしても出すなら短時間+フル装備で

「よく見る」が最大の予防策

  • 「目ヤニが多い」「顔を壁にこすりつけている」
  • 「尻尾をずっと振ってる」「皮膚が赤い」
    そんなちょっとしたサインに、早く気づけるかどうかが馬を守るカギになります。

特に高齢馬や皮膚の弱い馬、放牧時間の長い馬は、虫の影響を受けやすいです。虫によるストレスやかゆみが慢性化すると、食欲や気分にまで影響することも。

自然の中で生きる馬たちにとって、虫との遭遇は避けられないもの。でも「ただの虫刺され」で済まされないこともあるからこそ、馬の小さな変化に気づける人でありたい。

汗をかく馬の夏は、人が思う以上に過酷です。
その体に止まる小さな虫の影にも、ちゃんと目を向けていたいですね。

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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