しつけ・ケア

お悩みグセ解消エクササイズ 3時間目 お手入れが苦手

お悩みグセ解消エクササイズ

3時間目「お手入れが苦手」

里見 潤 (ドッグコーチ)


健康維持のためにも、欠かせない大切なお手入れ。
しかし、お手入れをされることが苦手な犬もいます。嫌がる犬に無理にすると、余計お手入れが苦手になるだけでなく、嫌なことから逃れるために威嚇したり、咬むようになることもあります。
子犬のうちから慣らしていくことがベストですが、既に少し苦手になっている犬には、我慢をさせるのではなく、お手入れされることが楽しいと思わせるような練習を少しづつ行っていきましょう。

 

1. 犬の好きなものを準備しましょう。

ふやかしたドッグフード(以下フード)を入れたコングを用意する。

普段食べているフードを沸騰したお湯に浸し、ふやかします。
お湯の量は皿に入れたフードがちょうど浸るぐらいです。量が多過ぎると水っぽくなるので注意が必要です。
ふやけたフードをスプーンなどで潰し、コングが満タンになるまで詰めていきます。

 
▲コング / 中が空洞になっているゴムのオモチャ

脚先・耳・顔周り・尻尾など、犬は身体の先端部分がとても敏感で、触られることが得意ではありません。飼い主さんがお手入れをしているつもりでも、犬からすれば「敏感な部分をしつこく触られている・・」気持ちがよくないということもあります。
また、ブラッシングに慣れていない犬は「異物で身体を触られている」と感じているかもしれません。
初めてのこと・慣れないこと・苦手になりやすいことは、犬が好きなことと一緒に行い、その練習していくことが、慣れるための近道です。

 

2. お手入れをしやすい環境をつくる。

リードを固定して、1人でもお手入れしやすいようにする。

犬に付けたリードを柱などに結び、両手が空くようにしましょう。リードは少し弛むぐらいの長さにします。片手にコング、片手にお手入れ道具を持ちましょう。

そして、いきなりお手入れを始めるのではなく、まずコングを犬に与えます。コングは、中が狭い空洞になっているため中身が食べずらく、ふやかしたフードは1口では食べられません。時間が掛かるので、食べている間は慣れてないことや苦手なことより、犬の好きな「食べる」ことに意識が向きやすくなります。

 
 

3. お手入れ練習の順番

嫌がりづらい所から練習をしていく

◎ 脚拭き

犬の前脚は、後脚より敏感で嫌がりやすいので、まず後脚から拭く練習を始めます。
コングを食べさせながら後脚を拭きます。初めて練習するときは、グイグイと長くやらずに、優しく短い時間で終わりましょう。最初は、脚を拭くことよりも、脚を拭かれることに慣れることが目的です。

次は、前脚です。前脚は敏感なため、最初は軽く持つことから始めます。嫌がらずコングに夢中になっているならば軽く短い時間拭きましょう。拭きやすいからといって前脚を自分の方に引っ張ると関節に無理が掛かり、より嫌がることがあります。持った前脚は関節の可動に逆らわず、そのまま真上に引き上げるようにすると受け入れやすいでしょう。

練習の初期段階は、
 
  「お手入れをしているその時にだけ、コングを食べさせる」
  =「いいことがあるのは、お手入れしている時」
  →「お手入れされることを期待し、好きになっていく」

と、教えていきます。
 
脚を拭く間・目ヤニを取る間・耳を拭く間・ブラシをする間など、お手入れをしている間は必ずコングを食べさせ、お手入れをしない時は、必ず一旦コングを下げるようにしましょう。

 

4. お手入れの3要素

犬の様子を観察しながら練習しましょう

どのお手入れも3つの要素があり、それぞれに段階(レベル)があります。
  ① 強さ(刺激)
  ② 時間の長さ
  ③ お手入れする部分
どれも犬にとって優しいレベルから始めていきます。ステップアップの目安は、
  ・コングに夢中
  ・緊張や我慢をする様子が無く
  ・お手入れされていることを気にしていない
などが判断基準です。
大丈夫であれば、1段階上げて練習します。
その時、犬に緊張や我慢の様子があるならば1段階を下げて、復習をしましょう。適切な判断をするには、お手入れ中の犬の様子をよ~く観察しながら、無理なく進めていくことが最も重要です。

 

5.ご褒美を与えるタイミング

慣れはじめたら、できたことへのご褒美に変えていく

お手入れに慣れてきたら、「ご褒美(コング)」を最初からではなく、段々後出しにしていきましょう。最終的には、お手入れができた時のご褒美に変えていきます。
[ステップアップのイメージ]
Step1  コングを最初に与え、食べているうちにお手入れを始める。
Step2  コングを与えるのと同時に、お手入れを始める。
Step3  お手入れを始めてから、コングを与える。
Step4  お手入れを始め、コングを与えるタイミングを遅らせていく
Step5  身体の1箇所のお手入れが終わってから、コングを与える

「お手入れが終わればいいことがある」という期待感を犬が持てるように、上記のステップを気長に少しづつ練習していきましょう。時間が掛かり遠回りのように感じて、実はいちばんの近道なのです。

 

具体的なお手入れ方法

◎ 耳掃除

コングを食べさせながら、耳周りを優しく撫でることから始めましょう。
耳周りが大丈夫なようなら耳の内側、内側、耳の穴と段階を踏んで撫で拭いていきます。

◎ 目ヤニ取り・顔周りを拭く

顔の中心部を触れられることを嫌がる犬もいます。中心から離れた耳のお手入れから練習し、耳掃除に慣れてきてから顔周りを拭く練習をした方が犬のストレスになりにくく、うまくいきやすいでしょう。

◎ ブラッシング

触られる事を嫌がりにくい部分から、練習していきましょう。
身体の側面・背面 → 後脚 → お腹、前胸 → 首回り → 尻尾 → 顔周り
犬によって嫌がりやすい部分は個体差があります。ブラシが苦手な犬の場合は、まずは刺激が弱いブラシ部分がない裏面を使って練習するようにしましょう。

※ ブラシ選びのポイント
ブラシの先端がゴムで覆われているものがいいでしょう。先端が剥き出しのもので強くブラシをすると皮膚が傷付き痛いことが多く、犬がより嫌がる原因の一つになります。
使う前に自分の腕にブラシを掛けてみて、どのぐらいの強さでやると痛いのかを分かった上で始めるといいでしょう。


▲左:先端剥き出し 真ん中:先端ゴム付き 右:ブラシの裏

 

WAN!ポイント

 

◎「綺麗にすることではなく、慣れることが目的」

最初から綺麗なお手入れを目的にすると、いつのまにかブラシに力が入り・・長く時間をやっていたり・・刺激が強すぎて、犬が嫌がり・・・それではお手入れを苦手になるように教えているようなものです。綺麗に拭く、しっかりと毛を解かすのではなく、
優しい刺激で短い時間お手入れし、好きになる、慣れることを第1の目標としましょう。

 

◎「疲れている・お腹が空いているとき、お手入れしやすい」

お手入れの練習を始めたばかりの犬、運動量が多い犬、落ち着きがない犬の場合はもう一工夫するとよりよいでしょう。
犬業界には「疲れている犬はいい犬」という言葉があります。人間でも十分に運動、遊びをした後はお腹もすきますし、ゆっくりとしていたくなります。疲れた犬は落ち着きやすく、コングへの反応もよく、静かにお手入れを受け入れやすい状態になりやすいのです。ご飯前の散歩、運動、遊びをやった後にコングを使ってお手入れの練習・・そんな習慣ができればお手入れもうまくいきやすくなるでしょう。

 

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里見 潤

里見 潤

投稿者の記事一覧

(さとみ じゅん)

ドッグコーチ

1975年、横浜市生まれ。2004年、警察犬訓練校に入学、出張トレーニング会社を経て、保護活動団体「Dog shelter」の専属スタッフとして、保護犬のトレーニング、一時預かり家庭と里親家庭の間に入り、アフターフォローを担当する。
2012年7月より独立。出張、及び預託トレーニングを柱に活動する傍ら、保護犬の一時預かりを継続中。
 
日本警察犬協会公認訓練士
ジャパンケネルクラブ公認訓練士
東京都動物愛護推進員

 保護犬預かりを主に、トレーニングのことを書いている里見潤さんのブログ
 「イヌと歩けば。」http://setahachidog.blog.fc2.com

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