乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は馬が教えてくれる、心のゆるむ瞬間。
犬や猫の気持ちは、しっぽや耳、鳴き声などでわかりやすく表現されます。
そのため、ペットと暮らしている人にとって、動物との“気持ちのやりとり”はとても身近なものではないでしょうか。
では、馬はどうでしょう。馬の気持ちを読むには、耳の向き、鼻の穴、姿勢や動き、そして、まばたきにも注目してみてください。
意外に思われるかもしれませんが、馬のまばたきには「緊張と緩和」が表れているのです。
馬はとても繊細な動物です。
初対面の人間には警戒し、周囲の環境にも敏感に反応します。
そのため、緊張しているときには、まばたきの回数が極端に減ることがあります。
じっと一点を見つめ、耳を立てたまま、長いあいだまばたきをしない。
そんな姿は、まさに警戒状態そのものです。目を見開いている感じがする、あの目です。ところが、ふとしたタイミングで、馬がゆっくりとまばたきをすることがあります。
これは安心したときのサインです。
相手に対して「大丈夫そうだな」と感じたり、緊張がほどけたりすると、まばたきが戻ってくるのです。
とても小さな変化ですが、それを見逃さないことで、馬の“今の気持ち”を知るヒントになります。また、馬のまばたきは副交感神経が優位になったときに出る反応でもあります。
つまり、リラックス状態への切り替えを知らせる仕草なのです。
「気が抜けた」のではなく、「ここでは安心してもいい」と、馬が判断した証とも言えます。馬が息を吐いたり、口をくちゃくちゃするチューイングサインと同じですね。
以前、私が担当していた神経質な馬がいました。
人のちょっとした動きにもすぐに反応し、なかなか落ち着いて近づくことができなかった馬です。
ところがある日、夕方の静かな時間に馬房へ入ったとき、その馬がふと、ゆっくりとまばたきをしてくれました。
それまでとは違う、柔らかな目つき。ほんのわずかな瞬間でしたが、「いま、この子は私を受け入れてくれたのかもしれない」と感じたのをよく覚えています。もちろん、すべての動きに意味を求めすぎるのは危険です。
けれど、こうしたサインを「かもしれない」と受け取ることで、一方通行ではない関係が生まれることもあるのです。
犬のようにしっぽを大きく振るわけでも、猫のように喉を鳴らすわけでもありません。
けれど馬は、まばたきや視線といったごく静かな方法で、確かに感情を伝えてくれます。
「見てるよ。感じてるよ。」
まばたきには、そんな小さな声が宿っているのかもしれません。
次回、馬にあった時には、ぜひ馬のまばたきに注目してみてくださいね。