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イヌに教え、教えられ 第12回 まわりの大人が注意する
週に1度、仕事で茨城県の土浦まで通っている。
朝、都内に向かう電車は満員だが、茨城方面に向かう電車は座れることが多い。
この日も、秋葉原からの始発電車で座席に座れた。
向かいの席には座る年配の男性、数駅後で乗ってきた小さい女の子とお母さんも向かいの席に座った。親子の様子から遠くにお出かけするようだった。
しばらくすると、お母さんが女の子の髪をゴムで結び直してあげようとするが、機嫌が悪いのか女の子はだだをこね結び直すことができないお母さん。
髪を結ぼうとすると嫌がり、「じゃあ結ばないからね」と言うとそれも嫌がる。
どうやら結ぶ結ばないは関係なく、お母さんにわがままを言っているだけの様子に見えた。
お母さんは、女の子を優しい言葉でなだめてみたり、言い聞かせてるように少し強く話してみるが、話せば話すほど女の子は嫌がり、遂には床に座り込むように座席からお尻をずり落とした。お母さんも段々とイライラして来ているように見えるが、周りの目も気になるだろうからそれはしょうがない。
子供を育てたことがないので想像になってしまうが、、、
お母さんは、周りの目やうまく子供を抑えられないことに難しさを感じるだろう。
子供は子供で、自我が芽生えた頃の年齢だと「ぐずる」ことも仕事のうちなんだろう。
愛犬が興奮した時、飼い主が愛犬にいうことを聞かせられない・静かにさせられない飼い主と犬の関係に似ている。
「犬の躾」と「子育て」は似ている面が多くある。
だから相互に活かせることがあるのではないかと思う。
ぐずる女の子と困るお母さんを見て、お母さんの隣に座る年配の男性が一言、
「お母さんの言うことは聞かなきゃいけないだろ」
怒鳴り声ではない、優しく宥めるような声でもない、毅然としたピシっとした口調で言った。
お母さん以外から声を掛けられると想像していなかっただろう女の子はもちろん、お母さんも周りの人もビックリし、驚いていた。
年配の男性が、女の子に「お母さんの言うことは聞かなきゃいけない」ともう一度はっきりと伝えると、女の子はキョトンと目を丸くしながらも、ぐずりはぴたりと止まった。
お母さんが、改めて髪を結んでも嫌がらない女の子を見ながら、「おりこうさんに出来るじゃないか」と、今度はゆっくりと誉める口調で話し掛ける年配の男性。そして、それから静かにお利口にしていた女の子。
愛犬は、自分のいちばん近くで共に暮らし、お世話をしてくれる飼い主に、甘える・ワガママを出しやすくなる一面がある。
だからこそ、家族が愛犬を躾けることがいちばん難しい。
第3者として犬を教える「訓練士」と「犬」は、「教師」と「生徒」のような関係になり、人の指示ことが伝わりやすいことがある。
親から叱られることは大事だ。
しかし、周りの大人に叱られることで、分かることや学ぶこともあるんだろうと思う。
年配の男性と女の子のやり取りを見て、犬と暮らすことは子育てに通じるところがあると感じました。
そして、自分も子供の頃に周りの大人に叱られたことがあったと思いだした。
降車駅に着き電車を降りてゆく親子に、「じゃあね」と言いながら手を振る年配の男性。
その男性を見ないようにするためか、抱っこされたお母さんの胸に顔を埋める女の子だったが、その小さな右手で何度か手を振りかえしていた。
微睡みながら仕事に向かう自分は、その微笑ましい様子に目が覚めた。