乗馬インストラクターがお伝えする馬の話。今回は厩舎で見かけた、小さな友情のかたちのお話です。
馬と猫
体の大きさも、性格も、暮らし方もまったく違うこのふたつの動物が、実はとても良い関係を築くことがあるのをご存じでしょうか?
乗馬クラブや牧場では、ときどき猫の姿を見かけます。
もちろん野良猫がふらりと立ち寄ることもありますが、なかには「看板猫」としてスタッフや馬たちに愛されている存在もいます。
私がかつて働いていた乗馬クラブでも、猫がいました。
小柄で人懐っこく、気がつけば馬の足元で丸くなっていたり、鞍置き場の隅でのびていたり。ときには馬房の窓から、馬の顔をぺろりと舐めに行く姿まで見られました。
馬は本来、草食で警戒心の強い動物です。動きの速いものや大きな音に敏感に反応し、「安全かどうか」を常に探っています。
でも、猫のように静かに歩き、気ままなテンポで近づいてくる動物は、馬にとってあまり“脅威”と感じにくいようです。
特に、慣れた猫がそっと近づいてきた場合、馬はその存在を受け入れやすく、鼻先を近づけて匂いを嗅いだり、じっと目を合わせたりと、まるで「君、何者?」と対話するような仕草を見せます。
また、馬は群れで暮らす動物です。誰かと一緒にいることで安心を得る性質があるため、厩舎で日常的にそばにいる猫に対して、“仲間”としての認識を持つことがあるとも言われています。
猫の方は本来単独行動が基本ですが、マイペースで過ごせる空間があるなら、馬のそばでリラックスすることも可能です。
特に夕方〜夜の時間帯、厩舎に静けさが戻り、馬がゆっくりまどろむタイミングでは、猫もその空気感に乗るようにそっと現れ、穏やかに寄り添っている場面も見られます。
互いに“副交感神経優位”な時間を共有しているとき、動物同士の気配がシンクロするような不思議な調和が生まれるのです。
こうした関係は、人にとっても心が和む光景です。
忙しない日常の中で、動物たちが自然に寄り添い合う姿を見ると、私たちも「違いを受け入れる優しさ」や「そばにいる心地よさ」といった感覚を思い出させてもらえます。
さらに現実的な面でも、猫がいる厩舎にはネズミの被害が減るというメリットがあります。猫の存在が、馬にとっても人にとっても、ちょっとした安心と癒しを運んできてくれるのです。
もちろん、すべての馬と猫が仲良くなれるわけではありません。個体差や相性もあるため、無理に接触させることは避けたほうが良い場面もあります。ただ、馬と猫がゆっくりと、互いの存在に慣れながら、静かな関係性を築いていく様子は、私たち人間にとっても深い学びがあるように感じます。
馬と猫。
その小さな交流は、私たちが忘れがちな“優しさ”と“余白”を思い出させてくれる存在なのかもしれません。