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ペットと共に暮らすために考えたいこと 第11回 犬の咬傷事故における飼い主の法的責任

ペットと共に暮らすために
考えたいこと

第11回 犬の咬傷事故における飼い主の法的責任

    


ドッグランや散歩中に愛犬が他の犬に咬み付かれた、雷や花火でびっくりして家から飛び出したペットや放し飼いにしているペットが人に咬み付いたなど、咬みつき事故(咬傷(こうしょう)事故)は、犬と人・犬同士の事故の典型です。
ペット自体に問題があるのではなく、飼育者の管理や飼育方法に問題がある場合が圧倒的であり、だからこそ、人間社会を規律する法律の適用となります。

 飼い主の法的責任

飼い主としては、「被害者が刺激を加えたから」、「番犬だから」、「普段はおとなしい犬である」など、言い分はあるでしょう。
しかし、動物愛護法7条1項は、「動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、または保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。」とし、また、民法718条1項は、「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定し、飼い主に重い責任を負わせています。
 
犬の咬傷事故における飼い主の法的責任について、まとめました。

犬の法的地位

日本の法律上、動物は「物」として扱われます。迷い犬を保護して警察に届ければ、「拾得物」として扱われます。したがって、犬は法的責任を負うことができません。

飼い主の法的責任

飼い犬が、他人(他犬)を咬んで怪我(死亡)させた場合、刑事責任(傷害罪、過失傷害罪、過失致死罪、器物損壊罪など)、民事責任(治療費、慰謝料などの損害賠償)、行政責任(行政の規定に違反した場合の罰金など)が発生します。

① 刑事責任

個人と国家の間で問題となる、対国家的(社会的)責任。
刑罰(死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料など)を科される可能性がある。
◇関係する法律:刑法、動物愛護法関連(家庭動物等の飼養及び保管に関する基準)など
    【例えば】
    散歩中、飼い犬が通行人を咬んで怪我させた→過失傷害罪
    他人のペットを傷つけたり、死亡させたり、逃がした→器物損壊罪

② 民事責任

個人的責任。
損害賠償責任など、他人の権利、利益を違法に侵害した者が私法上負う責任。
◇関係する法律:民法など
 
民法第718条1項「占有者責任」
動物の占有者(飼い主)は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその保管をしたときはこの限りでない。
    *他人に加えた損害とは
    他人の身体に加えた損害だけでなく、他人の所有物などに加えた損害も含む。
    飼い犬が他人のペットを咬んで負傷(死亡)させた場合は、損害賠償の対象となります。
    *損害賠償の範囲とは
    不法行為(咬傷事故)と相当因果関係のある損害。
    【例えば】
    他人に怪我させた場合→治療費、休業補償、慰謝料など
    他人のペットを死亡させた場合→同等動物購入代金相当額、葬祭費用、慰謝料など

③ 行政責任

個人と国家の間で問題となる、対国家的(社会的)責任。行政刑罰(懲役、禁錮、罰金、拘留、科料など)、秩序罰(科料)などが課される可能性がある。
◇関係する法律:地方自治体の動物愛護条例等
 
動物愛護管理法
「動物は命あるもの」であることを明確に規定し、人と動物の共生、虐待禁止、適正飼養義務、飼い主の管理責任などを定めています。
 
    <関連法律等>
    動物の愛護及び管理に関する法律 (昭和48年10月1日法律第105号)
    動物の愛護及び管理に関する法律施行令 (昭和50年4月7日政令第107号)
    動物の愛護及び管理に関する法律施行規則 (平成18年1月20日環境省令第1号)
    家庭動物等の飼養及び保管に関する基準(平成25年環境省告示第82号)
 
    家庭動物等の飼養及び保管に関する基準の関連部分
    第3 共通基準
     7 逸走防止等
     逸走防止、逸走の際の捜索、捕獲義務など
     8 危害防止
     逸走対策、飼養施設の点検補修、施錠確認
     逸走の際の措置義務(関連機関への通知、周辺住民への通知、逸走動物の捕獲)
    第4 犬の飼養及び保管に関する基準
    放し飼いの禁止、適切な係留、しつけ義務、危険犬の口輪装着義務

 
環境省自然環境局のHP内に、動物愛護管理法に関するサイトがあります。
「動物の愛護と適切な管理」
http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/index.html

 

④ 地方自治体の動物愛護条例

各自治体によって多少の違いはあります。
おおむね「動物による事故が発生した場合の措置」、「事故が発生した時の措置命令」、「事故が発生する恐れがあるときの措置命令」などについて規定しています。

 飼い主の責任の減免

いかなる場合にも飼い主が重い責任を負わされる訳ではありません。
飼い主の責任が軽減、あるいは免除される場合もあります。

 飼い主の無過失

飼い主が、動物の種類及び性質に従って、通常払うべき程度の注意義務を尽くして動物を飼育していたこと(無過失)を立証できた場合には、損害賠償責任を免れます(民法718条1項但書)。
 
民法第718条1項「占有者責任」
動物の占有者(飼い主)は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその保管をしたときはこの限りでない。
    *相当の注意で免責とは
    加害者が相当の注意を払って犬を保管していたことを立証しなければ免責されません。
    過去の裁判例でも免責を認められた事例はほとんどありません。
    犬を見て驚いた老女が自分で転んで怪我をしても、飼い主の管理義務違反があるとされます。

 
民法第722条「過失相殺」
飼い主が損害賠償責任を負う場合であっても、被害者(側)に過失がある場合には、裁判所はこれを考慮して損害賠償の額を定めることができます(過失相殺、民法722条2項)。
 
    【例えば】
    立ち話に夢中になった母親の手から離れた幼児が繋留中の犬に咬まれた場合。
    被害者が散歩中の犬に対して不必要な刺激を与えた場合には、被害者の側にも過失があるので、裁判所は損害賠償額を減額することができます。

 

どんな飼い主も、加害者にも被害者にもなる可能性があります。
まずは、事故が起こらないように愛犬の飼育・管理を行うことが大切です。しかし、万が一事故が起こってしまったときは、どちらの立場になっても、事故後の対応方法や法律の知識があれば安心です。

 

2014年6月20日掲載

 

 

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 GORON 吉川奈美紀 

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