狂犬病予防接種の基礎知識
第2回 「予防と処置」
前回は狂犬病の症状と、発症するまでの過程についてお伝えしました。狂犬病の恐ろしさがわかっていただけたかと思います。今回は、狂犬病に対する応急処置と、事前に防ぐ方法についてお伝えします。
狂犬病ウィルスを持つ恐れのある動物に咬まれてしまったときは、応急処置として、すぐに傷口をきれいな水とせっけんで洗い流し、適切な消毒をしてください。狂犬病ウイルスは、消毒に弱いウイルスです。
しかし、それだけでは足りません。洗浄は有効ですが、不充分な場合もあります。応急処置をしたら必ず即座に病院へ行ってください。現在では発症を抑える方法が確立しています。万一があってはならないと考えてください。
発症前にワクチンを |
狂犬病が発病してしまった場合、治療法はありません。アメリカで1例、治療成功の例が報告されていますが、まだ確実な方法は存在していないのです。しかし、狂犬病は潜伏期があり、また、感染しても発症しないままでいる場合もあり、ウイルスが体内に入ることが即座に死につながるわけではありません。狂犬病ウイルス保菌の可能性が否定できないような動物に咬まれたら、早急に病院を受診し、適切な処置を受けましょう。暴露後免疫という方法があり、それにより発病を予防することができるのです。暴露後免疫付加には狂犬病ワクチンを、病原体と接触してしばらくの間(受傷日を0日として、3、7、14、28日目に接種する、など。複数回の長期的な接種が必要。状況により日数、期間は前後する)、医師の判断により決められた接種日にきちんと接種することが必要です。暴露の強度により、抗狂犬病ウイルス免疫グロブリンの使用も必要となります。
ここで気をつけなければならないのは「犬に咬まれた」だけが病原体との接触理由ではないということです。コウモリやねずみ、猫などにも狂犬病は感染しますので、海外で哺乳類に咬まれた、様子のおかしい動物の唾液と接触したなどの条件でも気にしなければならないのです。狂犬病を撲滅できている国のほうが少ないのですから。
大事な予防接種 |
狂犬病を事前に防ぐためには、まずは予防接種が大切です。日本国内において、登録されている犬の狂犬病予防接種義務化や、検疫の強化などのおかげで、狂犬病は過去の病気だ、という誤った認識が広がってしまっていますが、前述した通り、世界に目を向けると、現在でも年間で5万人以上の人が狂犬病で亡くなっています。特にインドでは毎年3万から4万人が狂犬病により亡くなっています。
またこれも前述の通り、隣国の中国でも、2006年に大流行が起こり、5万頭以上の犬が政策として処分され、その後も厳しい飼育制限が敷かれることとなっています。中国での接種率は2割を切ってしまっている上に野犬等も存在しているため、一斉処分が選ばれてしまったのです。
世界保健機関(WHO)・国際獣疫事務局(OIE)・EUの合同会議において、平成19年(2007年)に「世界狂犬病デー(World Rabies Day)」が制定されました。
狂犬病は紛れもない「現代の病気」。撲滅されているわが国が特殊なのだと思ってください。
日本では入国する際の検疫も厳しく行っており、2000年から日本ではアライグマ、狐、スカンク、猫にも輸入時検疫を義務づけました。しかし、すべての動物や人が正しい方法で日本にやってきているわけではありません。狂犬病ウイルスが、日本に入ってくる可能性を否定することはできない状態です。
また、海外に行った際、日本と同じ感覚で飼い犬、猫、野生動物などを含む哺乳類に安易に触ってはいけません。タイ、フィリピンやインド、中国、アフリカ各国(主に途上国)などの狂犬病が特に多くみられる地域に行くときは、必ず予防接種を受けてから行くようにしましょう。
各自治体で毎年4月~6月に行われる狂犬病の集合接種は最も安価で受けやすいものです。
ただ、日にちや時間が固定されている地域もあるので都合が合わない場合もあると思います。その場合は動物病院で受けることができます。この場合は集合注射の料金とは異なることも予想され、また地域によっても違いますが、3000円~4000円くらいが相場だといわれています。
予防接種の義務化 |
狂犬病予防法では、犬の登録と狂犬病の予防接種は義務とされています。それは、犬のため、というだけではなく、飼い主自身、私たちの家族と未来を守るためでもあります。
登録は、初めての狂犬病予防接種時の一度だけですし、登録費用も3000円で済みます。この登録により受けた鑑札、注射済票の情報により、迷子のとき、災害のときなどに身元が判明するようなこともあります。マイクロチップも一緒にあると、さらに安心度は増します。また狂犬病予防接種は年度ごと、つまり年1回必ず受けなければならないことが法律により規定されています。もし接種しなかった場合は、狂犬病予防法により20万円以下の罰金に処せられます。
このような法律があるにもかかわらず、未登録を含め、日本に存在する犬の40%程度しか狂犬病予防注射を打っていないのが現状です。飼い主は、しっかりと責任を持ち、どうして狂犬病予防接種をしなければならないのかということをきちんと知り、大切な家族を守るため、毎年予防接種を受けるようにしてくださいね。
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東京農工大学 獣医学科卒 獣医師
都内動物病院にて臨床獣医師を経験後、製薬会社勤務。
19歳になる猫と同居中。
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