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犬と人が共に笑顔で暮らすために ~ドッグトレーニングチーム dog luck~ 第4回 犬を取り巻く社会に変化を<dog luckの活動から>

犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~

第4回 犬を取り巻く社会に変化を
<dog luckの活動から>

    


 「こんな行動に手を焼いている」と考える飼い主さんに、個々のケースに応じたトレーニングの方法を提供することで大きな力になってくれるdog luck。でもその活動はそこだけにとどまりません。インタビューを通じて伝わってきたのは、もっと大きな視野で「犬に関わる社会全体に対して力になれないか」という姿勢でした。それは既に犬と暮らしている人だけでなく、まだ犬と暮らしたことのない人たちにも向けられています。

 犬を取り巻く社会がどんなものか、皆さんはご存知でしょうか。新たに繁殖された犬たちが次々と市場に送り出される一方で、毎年多くの犬が殺処分される社会。犬種の特性を考えずに流行だけを追い、親犬たちに過酷な生活を強いる倫理観の欠けたブリーディング。全国の動物愛護センターや動物管理センターと呼ばれる施設は、無責任で心ない飼い主によって持ち込まれたり、道端に捨てられたり、迷子になっても探してもらえなかった犬たちであふれかえっています。また、動物の愛護及び管理に関する法律(通称・動物愛護法)の改正で「過剰在庫」を行政に引き取ってもらえなくなった悪徳ブリーダーによる、動物の遺棄も後を絶ちません。残念ながら日本では犬はモノ扱い。人々の意識はまだまだ低いと言えるでしょう。

 そういう現実とドッグトレーナー。一見、あまり関係のないことのように思えるかもしれません。でもdog luckは「そここそをつないでいこう」という信念を持った集団なのだと感じます。

 dog luckのトレーナーたちが、単に「トレーニングの専門家」というばかりではないことは、既にこの連載でお伝えして来ました。保護活動に積極的に関わり、犬を取り巻く社会の闇にもしっかり目を向けています。dog luckが個別の飼い主さんへのトレーニングに傾ける情熱と同じように、これからご紹介する活動にも力を入れているのは、全てはつながっているという思いがあるからなのでしょう。星野トレーナーは「“飼いたい犬”と“飼える犬”は違う」といいます。自分のライフスタイルに応じた犬と暮らすことが、お互いの幸福につながるからです。年配の方が活動的でハイパーな犬を飼ってしまったり、多忙で散歩の時間もままならない人が、運動量を必要とする犬を飼ってしまったり。それは犬にとっても人にとっても不幸なことあると同時に、飼育放棄にもつながりかねません。犬と一緒に暮らそうと思ったとき、まず考えるべきは「どんな犬を飼いたいか」ではなく「どんな犬となら一緒に暮らせるのか」であるはずなのに、そう考えるよう促してくれる人は実はあまりいないのです。繁殖の背景など、尚更です。

 犬猫の供給の問題は、システムにせよ法律にせよ、残念ながらそう簡単に変わるものではないでしょう。でも、伝えること、知らせることで回避できる問題はたくさんあります。だからこそdog luckのトレーナーたちは、トレーニングだけでなく「犬に関するどんな問題もトレーナーに気軽に相談できる土壌を作るために」今、精力的に活動しているのだと感じます。「犬と自分とのあり方、犬と社会とのあり方は、飼い主自身が気付くべきことであるはず。活動を通して繰り返し繰り返し伝える努力をすることで、十人のうちの一人でもその理解を深めてほしい。そして活動を続けることでその数を増やしていきたい」と願っています。そのために「気軽に相談できる専門家として日本におけるトレーナーの認知度をもっともっと上げたい」と考えているのです。犬を取り巻く社会が成熟することは、不幸な動物を減らすことにつながります。dog luckの活動は、そういう社会の実現のための大きな力になるはず。その活動の一端をご紹介します。

【小学生への啓発活動】(これからの社会を担う子どもたちに向けて)

 小学校で行われる学童保育に参加している、主に低学年の子どもたちを対象に、犬に関する体験学習をしています。幼い頃から動物とふれあい、さらには正しい接し方を知ることが、動物に対する倫理観を高めることにつながると考えているからです。犬と同じ空間で過ごし、実際に犬と触れ合うという経験をすることで、まずは犬に慣れるところから始めるプログラム。「犬の毛を引っ張らない」「叩かない」などの基本的な注意点を伝え、正しい接し方を教えています。参加するのは、必ずしも「犬が大好き」という子どもたちばかりではありませんが、時には犬たちの置かれた状況、保護の現状などについても話し、様々な角度から犬への理解が深まるよう心を配ります。彼らが成長する10数年後を見据えて、犬と人が幸せな関係を築くための、種をまく活動と言えるでしょう。

【セミナーの開催】(保護犬を迎えようと考える人のために)

 まだ犬と暮らした経験のない人も含め、迎える犬の選択肢として「もしかしたら保護犬も」と考える人に向けてセミナーを開催しています。セミナーでは、欧米の犬事情や、保護犬を迎えるにあたっての心構え、またどういう犬が自分達の生活環境に合致するのか、実際に迎え入れたらどのように対応して行くのか…などをレクチャーしています。保護犬と一口に言っても、犬種はもちろんそのバックグラウンドも様々ですし、まだまだ保護犬を迎えることを躊躇する人もたくさんいることでしょう。dog luckは保護活動に関わってきた経験を生かし、そこに更にトレーナーの視点を加味することで、保護犬を迎えようと考える人たちを積極的に支援したいと考えています。

【*CACIのボランティアさん対象のレッスン】(保護活動を支える人に向けて)

 dog luckのトレーナーは、全員保護活動に熱心に取り組んでいます。トレーナー同士が出会うきっかけになったCACIでは、保護されている犬たちに幸せなご縁があるよう願いながら、犬たちのお世話のために日々シェルターに通うボランティアたちをレッスンでサポートしようと「ボランティア向けの講習会」を行っています。シェルターの犬たちは特定の飼い主がいる犬ではありません。ですから自分の犬と同じように接するのは問題があります。大切なのは、新たな飼い主さんが見つかるまでの間をいかにしてつなぐかということですから、レッスンは日々のお世話の中で必要と思われることが中心。犬種は同じでも一頭一頭性格などの異なる犬たちが、それぞれどういったタイプの犬なのかをまず伝え、さらにそれぞれの犬にあった接し方を伝えます。見た目から受ける印象のみで犬たちを誤解しないよう心がけることの大切さを伝えることで、それぞれの犬たちに深く目を向けてほしいという思いがあるからです。クレートからの犬の出し方や室内でのトイレのさせ方といった初歩的なことから、人が苦手な犬に対しての接し方、興奮しやすい犬に対しての対応の仕方など、内容は多伎に渡ります。犬それぞれで必要とされるトレーニングが異なるからです。また、参加するボランティアのレベルにあわせてグループ分けをするなどの工夫をし、内容も変えて対応しています(但し問題行動の対処の仕方など、専門性が必要なものに関してはトレーナーのみが対応しています。)

*CACI(コンパニオンアニマルクラブ市川)とは?
千葉県動物愛護センターに収容された犬のうち、主に鳥猟犬の命をつなぐ活動をしているボランティア団体です。千葉県では鳥猟犬の遺棄が後を絶たず、CACIのシェルターには、センターから救い出された犬たちが多数保護されています。(陽子トレーナー、栗山トレーナーは、今もボランティアとしてシェルターのお世話に通っています。)

【グループレッスン】(既に犬と一緒に暮らしている人に向けて)

 まずは自分の犬との良好な関係を築くことが大事なのは言うまでもありません。グループレッスンは「オスワリ」「フセ」などの基本的なオビディエンス習得や、犬の経験値の底上げとなる社会化のレッスンなどを目的として、月に1度程度(季節によって変動あり)行われている講習の場です。単に飼い主のコマンドに犬が従う…という形だけでなく、「なぜオスワリを教える必要があるのか?」「オスワリひとつにしても教え方によってどう効果に違いが出るのか?」という側面までレクチャーすることで、飼い主さんの理解がより深まるような働きかけを常に心がけているそうです。参加する犬たちは本当に様々。犬種や性格はもちろん、日々の生活の背景や考え方にも当然違いのある飼い主たち。dog luckのトレーナーたちは、それぞれの犬と飼い主さんに合ったあったやり方、進め方はどういうものかを常に意識しています。“トレーニング”と聞くと、とかく構えてしまいがちな私たちですが、誰でも気軽に参加できるカジュアルな会にすることで、トレーニングというもの自体への気持ちの垣根を取り払うきっかけにしてほしいと考えているそうです。

 *他にも、犬の飼い方やマナー、基本的なトレーニング、犬と暮らす上で必要な環境作りなどをレクチャーする場として【市川市 無料しつけ教室】での指導も行っています。残念ながら千葉県市川市の住民向けのプログラムですが、市民であれば無料で参加できる教室とのこと。気軽に参加して、犬と一緒に何かを行う楽しさを知ってもらいたいと考えています。ほかの自治体でも同様だと思いますが、近年犬に対する市への苦情で多くを占めるのが、飼い主たちのマナーに関するものだそうです。そのためこの教室では、他犬との接し方や外での排泄についてなど、マナーの啓蒙にも重点を置いています。

【その他の活動】

 地方自治体の管理する「動物保護センター」でも、センターの職員さんへのアドバイスはもちろん、収容されている犬のトレーニング、センターに通うボランティア向けにセミナーなどを行っています。また、収容犬の飼い主希望の方に飼い方のレクチャーなどもしています。

最期に…

 「現在の日本の保護の世界ではシステムが確立されていないため、トレーナーの役割も明確になっていない」と話すdog luck代表の星野トレーナー。一般に、トレーナーとは個々の犬の問題に対応するのが仕事と思われがちですが、dog luckの様々な取組みを通して、それだけではないトレーナーのあり方が見えた気がしました。彼らの願いは、同時に日本の犬好きたちの願いでもあるはず。犬を迎える人たちの意識を高めていくことは、保護活動を陰で支えることにつながっています。dog luckのトレーナーたちが今後の犬社会をリードし啓蒙する存在として、その活動の場を広げていくことを願って止みません。


dog luck トレーナー プロフィール
星野貴大(ほしのたかひろ):1985年12月25日生。dog luck代表。幼少期よりの犬好きが高じてトレーナーを目指す。訓練士学校を卒業後、犬の幼稚園勤務などを経てトレーナーとして独立。CACIでのボランティア指導のほか、動物愛護センターでの指導、警備犬、災害救助犬の育成にも携わる。

星野陽子(ほしのようこ):1979年3月1日生。dog luck副代表。編集・ライターの職を経てCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。

栗山典子(くりやまのりこ):1982年6月4日生。dog luckトレーナー。幼少期をスイス・ジュネーブで過ごし、OL時代にCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。

dog luck HP : http://doglucktrainers.com/


 

犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~
第3回 トレーニングの本当の意味とは? <トレーニングの実例から>

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