イヌに教え、教えられ
第16回 家族が変わればイヌが変わる
人に撫でてもらうことが大好きで、普段とても穏やかな7歳のゴールデンレトリバーの男の子ティファニーには、苦手なことがある
それは、散歩中に撫でてくれた人と離れるとき。
もっと撫でてもらいたい、その場から離れたくない。離れようとするとリードを噛んで抵抗し、興奮してママの腕を強く咬む。さっきまでお腹を出して撫でられていたティファニーとは全く別の顔・・・誰に撫でてもらっても嬉しいのはとてもいいことだけど、ママを咬んでまでも「もっともっと」と要求することはいけない。駄々をこねている人間の幼児のようだ。
困った家族はティファニーと一緒にトレーニングを受けてくれることになった。
家族の話を聞き、ティファニーの咬む様子を見て、ティファニーに悪気は無いことはすぐ分かった。
ティファニーが構ってもらいたい時や遊びたい時、家族の腕にジャレ始めるのが、「遊び」スタートの合図だった。
家族は、ティファニーが喜ぶならとジャレ噛みされながらも構って遊んであげていた。ティファニーにとっては兄弟犬とじゃれて遊んでいるのと同じ感覚だったのだろう。楽しく大好きな時間を終わらせないためにジャレ咬みをすればいいとティファニーは経験から学んでいたのだ。
「時には思い通りにならないことがある」 それを教えることが改善に繋がる。
ティファニーは、ドッグフードだけのご飯は食べない。
食べない時、ママはウエットフードやヨーグルト、ふりかけなどをトッピングする。
それでも食べなければ、ママがお皿を手で持ってあげる。
ドッグフードを食べない
→ 美味しいものが出てくる
→ 手で食器を持ち続けてくれる
この一連の流れから、「食べない」ことで、ママに自分のワガママが通ると考えたティファニー。
僕は、この食事の躾を行うことを通し、ティファニーに「時には思い通りにならないことがある」ことを分からせることができ、それが「咬む」という行動を改善するきっかけになると判断した。
食事の躾は、飼い主自身の気持ちをコントロールすることが一番難しい。
愛犬がご飯を食べないときは、飼い主はなんとかして愛犬に食べさせなければと思う。何かをトッピングすることで愛犬が喜んでご飯を食べる姿を見れば、ついつい美味しいものを付け足したくなる飼い主の気持ちも分かる。
ティファニーは小さい頃から食が細かった為、そんな思いはなおさらだったでしょう。「食べてもらいたい・・・」ママの気持ちは痛いほど伝わってきました。
そんな飼い主が、愛犬に「主食はドッグフード」だと教え直すことは、抵抗を感じることでしょう。
頭で理解することと、受け入れ行動することは別であり、その行動を続けていくことは簡単なことではありません。
でも、家族が変わらないとイヌは変わらない。イヌだけを変えようとすると、どこかで必ず壁にぶつかる。
トレーニングを始めて1週間、一進一退の状況が続いていました。
ティファニーは、今まで自分の思い通りに食べてきたのだから、トレーニングをしたからといってそう簡単に行動は変わらない・・・
この頃、ティファニーとのトレーニングの話をしている時、ママの表情はうつむきがちでした。
愛犬の食育を始めた家族の多くは、こんな壁にぶつかる。でも、ここが踏ん張り時!
そんなママの気持ちや愚痴を言葉にしてもらい、話し合いを行った結果、トレーニングを継続することを決めた。
家族と訓練士は、二人三脚、常に一緒に歩き走りながら愛犬と向き合う。
・・・数日後、ティファニーの様子を聞こうと連絡してみると
「ドッグフードだけで、お皿を手に持たなくても食べるようになった」
とママが明るい声で話してくれました。
その頃から、ティファニーの行動に変化が現れ始めていきました。
人と犬の関係構築練習・コマンド基礎訓練
「散歩中、人に撫でてもらい、人が立ち去る」シチュエーションを作り、何度も何度も反復練習することで、撫でてもらった後に人を咬むこと無く離れられるようになった。
ティファニーが変わったのは、きっとママや家族が変わったから。
食事の躾がきっかけだったのだと思う。
あとは、この変化・行動が1年後も2年後も、そしてその後もずっと続けられるように。。。
今年のお盆に車で帰省した際、茨城の道路でたまたま見つけた看板に私は思わずブレーキをかけた。「イヌも人も同じだな~」と思い、なんとなくスマホで撮った写真。
この写真を残していたのは、この原稿のためだったのか、、、と納得。
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