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イヌに教え、教えられ 第17回 足りないものに気付かせてくれる

イヌに教え、教えられ

第17回 足りないものに気付かせてくれる


柴犬のメスで7歳の「おまめ」は、私が初めて自分の責任で飼い始めた犬です。
 
訓練の専門学校で学んでいた頃、ジャーマンシェパードを担当し、柴犬の担当をしたことはありませんでした。
しかし、ドッグトレーニングの仕事をするようになり、「人を咬む」という悩みでトレーニングの依頼が多かった柴犬に興味を持ちはじめました。本能や行動・性格面・癖など、犬種によっては個体ごとに表面化する特徴が違うことがあります。柴犬を自分で飼い、共に生活をし、経験する必要があると考えおまめを飼いはじめました。
「柴犬が好きだから」「家族の一員として」「可愛がりたい」「犬との生活を楽しみたい」という気持ちからではなく、今の自分に柴犬との暮らしが必要だと思い柴犬を選んだ・・そんな感じです。
 
飼い始めると、毎日の散歩・食事代・ワクチン代・体調が悪くなれば医療費など、時間もお金もかかるし、世話はずっと続けなければならない、しつけ以前にやらなければいけないことが沢山ありました。
 
当たり前ですが「犬を躾ける・訓練する」ことと、「犬を飼う」ことは、全く違います。
以前、ある上司が私に言った言葉、
「自分で犬を飼わないと、悩んでいる飼い主さんの気持ちは分からない」
この言葉の意味が、おまめを飼うことで分かりました。
 
社会の中で、周りに迷惑をかけず自分の責任で犬を飼うことが、とても気を使うことだということ、そして自分が疲れていようがいまいが、日々の世話をし、毎日散歩をすることを当たり前に続けることの大変さを実感しました。
それと同時に、おまめと共に暮らすことが、訓練専門学校での訓練を通して知った犬の「楽しさ」「素晴らしさだけ」でなく、「家族の一員」「パートナー」としての犬の素晴らしさをあらためて私に気付かせてくれました。
 
     *恥ずかしくても声に出してオーバーに褒める。
     *できるようになったことを当たり前と考えず、褒める。
     *疲れていても、落ち込んでいても犬と向き合う時は明るい気持ちで。
     *感情で怒らず、冷静に叱る。
     *失敗しても気持ちを切り替えて向き合う。
     *こうさせたいの前に、犬の気持ちを考えてみる。
     *誰かが見ていても、見ていなくてもルールは変えない。
     *犬の心を掴むには、自分から動き・誘い、まず自分が楽しむ。
 
これら全て、おまめや保護犬に教えてもらった。
このどれもが犬に対してだけでなく、人に対してのコミュニケーション、仕事や生活、生きていくことにそのまま繋がる。
犬たちは、今の自分に足りないものを気付かせてくれているんじゃないかと思うようになりました。
 
犬と向き合うとき必要なことは、そのままトレーナーとして飼い主さんと向き合うときに、同じように必要だと教えられた。
飼い主さんに対し、自分から「働きかけ」「楽しませ」「やり方を教え」「褒めるだけ」ではなく、必要であれば耳に痛いことも言わなければいけない。それを飼い主さんができるようになるまで続ける。人に間違いを指摘し、叱ることが苦手な私にとって、とても大きな気付きでした。
 
犬に教えたことよりも、教えてもらっていることの方が遥かに多い。
私にとって、犬は最高の先生でもある。
 
・・・お腹を出して、ぐで~っと寝ているおまめは、教えてやっているなんてこれっぽっちも考えていないと思うけれど。

 

2014年11月28日掲載

 

イヌに教え、教えられ
第16回 家族が変わればイヌが変わる

イヌに教え、教えられ 第18回
一緒にいると楽しいから、褒められたいから「聞く」耳を持つ

里見 潤

里見 潤

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(さとみ じゅん)

ドッグコーチ

1975年、横浜市生まれ。2004年、警察犬訓練校に入学、出張トレーニング会社を経て、保護活動団体「Dog shelter」の専属スタッフとして、保護犬のトレーニング、一時預かり家庭と里親家庭の間に入り、アフターフォローを担当する。
2012年7月より独立。出張、及び預託トレーニングを柱に活動する傍ら、保護犬の一時預かりを継続中。
 
日本警察犬協会公認訓練士
ジャパンケネルクラブ公認訓練士
東京都動物愛護推進員

 保護犬預かりを主に、トレーニングのことを書いている里見潤さんのブログ
 「イヌと歩けば。」http://setahachidog.blog.fc2.com

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