アメリカの動物事情
第2回 シェルター(保健所)
アメリカのシェルターは大きく分けて3つあります。
ここは、野生動物の保護や道路に放置された動物の死骸の回収、また、近隣の動物に関する苦情など動物全般の問題を取り扱う機関です。
動物管理局に通報されて収容された犬や猫、傷害事件を起こした犬などもキルシェルターに回収されます。
キルシェルターでは基本的に、収容された動物は公示期限(州や自治体によって異なる)を待って殺処分される決まりになっていますが、私の住む地域の場合は、キルシェルターの職員が他のシェルターやアニマルレスキューと連携し、適性検査(人との共生が可能かどうかの検査)に合格した動物に関しては、譲渡を中心とする殺処分のない保健所(ノーキルシェルター)に動物を移送して積極的に譲渡に回すようにしています。
キルシェルターと違い、ノー&ローキルシェルターの多くは、人々が足を運びやすく、また収容されている動物たちにとって居心地の良い環境作りが徹底されています。
シェルターでは、収容されている動物の生態に沿って、また、個体の健康状態に合わせて食餌や室内温度、運動量などが管理されています。犬舎は常に清潔を保ち、水やおもちゃ、ベッドが常備されています。
収容されている犬たちには、個体差にあわせて散歩の時間やスタッフと触れ合う時間が設けられており、さらに、激しい運動が必要な犬にはドッグランを走り回る時間やプールの時間まで用意されています。
ノー&ローキルシェルターは、施設そのものも清潔に保たれていますが、動物たちもトリミングを受け、見た目にも手入れが行き届いています。このことが、「保健所出身の動物」というイメージを払拭し譲渡数の向上に繋がっています。
ノーキル&ローキルシェルターは、単に動物を管理・保護する場所ではなく、不幸な動物たちにとって人との交流や生活を楽しめるSPAリゾートのような場所であるべきだという観点から、日頃からさまざまな試みや動物参加型のイベントが開催されています。
ノー&ローキルシェルターの仕組み
ノーキルシェルターには、州営と非営利の愛護団体のものがあります。ノーキルシェルターには、キルシェルターで適性検査に合格した動物や、殺処分を望まない飼い主からの持ち込み、迷子などが収容されています。収容された動物の中で仔犬や子猫は一定期間収容した後、譲渡に回されます。これは動物が乳児の場合、経験豊かな職員や獣医師との連携がないと飼育が難しかったり、持病の確認が遅れるのを防ぐためです。
また社会化期(後述)のために成犬や成猫よりも多くの時間と手間をかけています。
子犬や子猫の心身の発育のために、多くの州は法律で、生後8週間未満の動物を人に譲渡することは、いかなる場合も禁止しています。
多くのロー&ノーキルシェルターが獣医を抱え、病気やケガは治療をし、回復後に譲渡されます。譲渡対象となった動物の収容期間は無期限です。程度にもよりますが、無駄吠えや噛み癖など譲渡が難しい習性のある動物はトレーニングを受け、適性検査基準に満たされれば譲渡に回されています。回復が見込まれない病気の動物や凶暴な犬は殺処分されることもありますが、殺処分数が少ないためにコストに余裕があり、安価なガス殺は行なわれず(アメリカでは、ガス処分は批判されており減少傾向にあります)、麻酔吸入の後、注射で安楽死の処置がとられます。
アメリカでもわずかですが、傷害事件を起こした犬や不治の病の動物でも殺処分を行なわないシェルターがあります。傷害事件を起こした犬には、何年という年月をかけてトレーニングをしたり、それでも譲渡できない動物は施設内で一生を過ごすようになっています。
施設の中で一生涯を過ごす犬は譲渡に回される犬よりもはるかに少なく、適切なリハビリを受けた後、新しい飼い主の元で幸せに暮らすケースのほうが多いようです。
参考URL:www.bestfriends.org
次回は、アメリカの動物愛護団体について。
【Dear Paws】
「アメリカの動物事情」より 2012/8/31引用
【注意】このテキストは2010年9月の情報です。告知なく変更や訂正をする事があります。また、文中アメリカと表現していますが対象はメリーランド州に限定しています。アメリカの動物に対する取り組みや考え方は州法や自治体、生活形態により違いがあるため、内容が全米に共通している訳ではありません。
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