フィラリア対策
第2回「症状とわたしたちにできること」
初期段階、寄生したフィラリアの数が少ないなどの状況であれば、症状が出ることはほとんどない場合が多いのですが、症状の有無は個体差によるものと言われています。その差は、心臓の拍出量や、アレルギーなどの反応の起こりやすさなどで虫の量とは関係ないといわれていますが、多数の成虫寄生があるときは物理的障害を引き起こしてしまいます。また、たった1匹の寄生でも、心臓の弁に絡みついてしまった場合は、弁膜障害が起きてしまう可能性があります。
フィラリアが成長して心臓に住み着くと、虫により、心臓の室内を占有されてしまうことから、心臓がその機能に異常をきたし、血液を送り出す機能が阻害されて循環障害を引き起こします。これにより、「右心不全」の兆候、つまり肺のうっ血をおこし、空咳がでたり、疲れたり、運動時に呼吸困難になる、失神する、喀血する、食欲があっても体重が減ってゆく、ときには声が出なくなるようなこともあります。
これらの症状から、慢性的に肝臓がうっ血を起こしてしまうため、不可逆性の肝障害や肝硬変に至ります。また、フィラリアの刺激により、血栓を生じたり、これらの結果として、血中に虫体の死骸が流れたりすることで、急性症状を生じることもあります。アレルギー症状としての皮膚症状が出ることもあります。
これらの変化は徐々に起こるため、なかなか犬の異変に気づきにくいのですが、早く気づかないと大変なことになります。右心不全によりお腹に水がたまり、四肢にむくみが生じたり、虚弱になり、腹部や胸部がたまった水(腹水、時には胸水)のため、明らかな呼吸困難がでてきます。ときには失神することもあり、この時点で治療を行ったとしても、治療自体が負荷のかかるものであるために、治療自体が不可能になってしまったりします。徐々に弱っていくような形となり、死亡してしまうことも少なくありません。その死は、主に呼吸困難、酸欠からなるもののため、とても苦しいものとなってしまいます。
何らかの理由で成虫体が血流に乗り、肺動脈に詰まってしまうようなことが起こると、その部分の血流が停止し、肺に充分な血液を送ることが不可能となってしまい、10日くらいで死に至ってしまいます。これを急性イヌフィラリア症とよぶことももあります。
また、「ベナ・カバ・シンドローム(急性肝不全症候群、大静脈塞栓症、犬糸状虫性ヘモグロビン尿症、等)とよばれるショック様の症状を引き起こすこともあります。突然の呼吸困難、運動の低下、蒼白、発咳、喀血、腹水などを起こし、尿の色が赤や茶色などになり、通常24-72時間で死に至ってしまいます。心不全、呼吸困難が顕著なため、なにかを吐き出そうとするような咳をしたりします。これは、虫体の多量寄生により、後大静脈に成虫が移動し、これによる塞栓(詰まること)が起こることによります。これらの症状による死亡も、とても苦しいものとなってしまいます。
きちんとした予防ができていないとき。これらの症状が出たときは、事態は非常に深刻であると考えて、急いで病院に行ってください。心不全等の可能性もありますが、フィラリア症であった場合も、ここまで進行してしまうと一刻を争います。
「都内ではめっきり見なくなった」「そんなのもういないから大丈夫だよ」と、言われるようになり始めてしまったフィラリアですが、実際、都内ではほとんど発生していません。しかし、都内近郊、埼玉や神奈川での発生例は珍しくなく、そちらと行き来したり、引っ越しする犬がいる限りは、「都内にフィラリアの犬はいない」とはいえませんね。東京都内は、犬の数も多いのですが、予防率も他府県に比べて高いのが、あまり見ない理由かと考えられます。皆さんの努力で、安全な環境が作られているのですね。
現在では、フィラリア予防薬もかなり開発が進んでおり、負担の少ないSPOT-ONタイプ(肩甲骨の間の皮膚にたらすタイプ)の薬剤も普及してきました。ミクロフィラリアだけでなく、同時にノミの予防ができるタイプの薬剤もあります。これらのフィラリア予防薬はいわゆる「虫」と「哺乳類」の体の仕組みの違いをうまく利用した形の薬剤となっているため、「虫」には致命的な効果がでるのに、哺乳類には安全というような作用を持っています。このため、安全に犬に投与することができるのですが、血管中にいる虫を殺す薬であることは間違いないので、感染してしまっている場合は危険があります。
予防薬の投与期間は、その時の気温によって決定することができます。フィラリアは平均で17.8度の気温がある程度続かないと、成熟に向かわないことがわかっているのです。そして、その時期から決まった期間を経て成長した子虫に効く薬剤を予防薬として使っているため、不要な時期は飲まないようにプログラムが設定されているのです。アメリカでは北部、南部で、投与期間が違うばかりか、赤道近くの地域では一年中投与が必要とされていたりするんですよ?
成虫がいることが予測され、無症状の場合は、特定の予防薬の継続投与によって駆除を狙うこともあります。正直、獣医師から見ても、体重計算や投与時期の計算はちょっとめんどくさいところもあるので、しっかり病院と相談して予防していくのがいいと思います。また、薬を飲み忘れた!たらしわすれた!などのときも、その状況によって対処法が違うので(何日ずれたか、何月に忘れたのか)必ず、気づいたときに病院に相談して対処法を尋ねるようにしましょう!その日に飲んだほうが良かったり、やめておいたほうが良かったり、再検査が必要になったりします。
あの「忠犬ハチ公」の心臓からも、フィラリアの成虫が発見されている通り、予防が普及する前は、フィラリア症は犬の死因の中でもありふれたものでした。それが、予防されるようになった今ではあまり目にすることはありませんが、痩せこけているのに腹は膨れ、呼吸は苦しそうで、血痰を吐いて死んでいくその姿は、とても悲しいものです。そのような苦しい死に方をしなければならない犬が減ったのはとても喜ばしいことです。
フィラリアは感染症のため、予防している方の割合が多ければ多いほど、皆の安全度が上がります。しっかり、お医者さんと相談して、きちんとした予防を行い、自分のワンちゃん、さらには皆のワンちゃんの安全をも確保しましょう!
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