しつけ・ケア

「馬の脳」と「人の脳」- 2 馬は嫉妬する?

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
前回に引き続き、馬の脳のお話です。
今回は馬の感情的な部分を司る脳のお話です。

私たちの複雑な感情や思考を処理する脳の部分は、前頭皮質と呼ばれます。
この脳の部分は、馬と人間の両方の額にあり、前頭筋または単に額骨と呼ばれる頭蓋骨の部分のすぐ下にあります。

脳のこの部分は推論を司っています。
人間ほど前頭前野が発達した動物は他にいません。
脳のこの部分により、人間は計画を立て、比較し、過去の経験に基づいて状況を評価することができます。
状況の長所と短所を比較検討し、必ずしも同時に発生しない要因を結び付けることができます。

また、憎しみや嫉妬といった複雑な感情を感じる場所でもあります。
人間の場合、これらの複雑な機能は脳の前部 3 分の 1 のほぼ全体を占めています。
馬の場合、学習や経験への反応に関与する非常に小さな前頭葉があります。同じ領域の大部分は、感覚的印象に基づく動きを担当する、非常に拡大された領域で占められています。

人間は、馬の行動を嫉妬と解釈することがよくあります。
しかし、純粋に解剖学的に見ると、馬の前頭前野は十分に発達していないことが分かっています。
嫉妬の感情はここから生まれます。

他の馬に話しかけると、自分の馬が来て他の馬を追い払ってしまったりすると、嫉妬かな!?と嬉しくなることありますよね。
ですが残念ながらそれは嫉妬ではない可能性が高いです。
なぜ私たちは人間の感情を馬に当てはめるのでしょうか?

人間の脳の特徴としての原因

  1. 人間の前頭前野は、あらゆるものを比較し解釈することに特化していますが、誤った結論を導き出す原因にもなるため、多くの状況で障害となる可能性があります。
  2. 人間は、実際にはそうではないことをある程度認識していても、すべての生き物が私たちと同じように行動すると信じる傾向があります。
  3. もっと良い説明が見つからない場合、自分と同じだと認識できるため、脳が理解しやすい説明を選びます。

人間はついつい馬の行動を自分の感情で理解しようとしてしまいますが、馬が他の馬を押し除けて自分の所にきたのは、嫉妬ではなく自然な反応です。
では馬が嫉妬を感じていないのなら、その状況で馬の行動をコントロールするものは何でしょうか?
馬の脳は人間の脳よりもはるかに単純に構成されています。
したがって、馬があなたを見て、あなたを何か良いもの(おやつをもらえるかななど)と関連付けて、あなたのところに行きたがっているという理由以外に、複雑な理由は必要ありません。

ですのでそれは嫉妬ではなく、馬が望む何かを達成するための単純な行動です。

焼きもちではないのは少し残念ですが、、、逆に、馬が人間をバカにするとか、困らせようとするとか、試したり、憎しみを抱いたりするという事もない、と言うことができます!これらすべてには、馬にはない十分に発達した前頭葉が必要です。多くの場合、馬は脳の信号経路に基づいて、はるかに単純に行動していることを理解しましょう。

異なる信号経路

人間の脳は馬にはできないことをたくさんできます。
しかし、馬の脳も人間にはできないことをたくさんできます。
馬は総合的な運動能力に優れています。これは、獲物となる動物にとっては良いことです。
馬は子馬の頃から素早く協調して動ける必要があります。

人間の脳では、視床からの信号が脳の後ろにある視覚中枢に送られ、その後前頭葉に送られ、そこで見たものについて考え、判断します。
前頭葉が運動が必要だと判断すると、その情報は必要に応じて運動中枢に送られます。

馬の脳でも、プロセスは同じ方法で始まりますが、視床からの信号は運動中枢に直接送られます。
これにより、馬は事前に考えることなく動く事が出来ます。
何か不安な物を認識すると、視床下部と扁桃体が活性化し、ストレス反応が引き起こされて逃走します。
馬が膠着して動かなくなったり、逆に攻撃的になってそれを攻撃したりすることも起こりますがこれは非常にまれです。

このように、馬と人間では、脳の構造が違うだけでなく、脳内の信号伝達経路も異なります。それが、時折起こる、人間にとっては理解し難い馬の反応の理由です。人間は考えれば「怖くない」と理解できますが、獲物となる動物である馬の場合、本当に怖いか、逃げることが賢明かどうかを考えなければいけないと言うのがとても不便であり、命に関わることです。

一方で、馬は反復することで学習出来ることはご存知かと思います。馬がスキルを学習して洗練し、関連する神経経路を発達させるには、推定10,000 回の反復が必要だと言われています。

 

これは、馬を訓練する際には繰り返し、また人馬ともに忍耐と多様性も鍵となることを強調していると思います。新しい行動が習慣になるには何ヶ月もかかりますが、これは馬によっても個体差があります。馬の調教とトレーニングに関しては、即効性のある解決策はありません。

馬を理解し、焦ることなく根気よく続ける人間の器が大事ですね。

馬の脳と人の脳の違い、いかがでしたか。馬は人とは違うと言う大前提を心に留めて、馬の気持ちに寄り添っていきましょう。

 

「馬の脳」と「人の脳」 - 1

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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