健康・病気

狂犬病予防接種の基礎知識 第3回 狂犬病を防ぐために私たちができること

狂犬病予防接種の基礎知識

第3回 「狂犬病を防ぐために私たちができること」

    


 前回は狂犬病に対する応急処置と、事前に防ぐ方法についてお伝えしました。

 今回はこのシリーズのしめくくりとして、元獣医師の高波律子さんにお話をうかがいました。

狂犬病を発生させないために

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 「狂犬病」という疾患は、私が知っているすべての疾患の中で、とりわけ人間の疾患としては、おそらく最も悲惨で、最も恐ろしい疾患です。犬や猫、ほかの動物の感染時も同様です。種によって症状の違いこそありますが、どれもとても恐ろしい症状により、ほぼ確実に死に至ってしまいます。インターネットで検索すると、その症状の恐ろしさを記録した動画がいくつもアップされているので見ることが可能なのですが、あのように苦痛に満ちた症状をなすすべもなく、対症療法しかできずに見守る人々の悲しみもそれはそれは大きいものだと思います。

 予防手段があるのですから、日本という島国であるがゆえに土地に先人が努力で作り出し得た、狂犬病の発生しない稀有な環境を守り通さなければならないと、強く、強く感じています。繰り返します。狂犬病は、人間が悲惨な死に方をする、確実に発症するわけではありませんが、一度発症してしまうと助けることのできない、とても恐ろしい病気なのです。

 ほかの動物、と書きましたが、狂犬病は本当にすべての哺乳類に感染しうるとても珍しい病原体です。ジャッカル、狼などはもちろん、ネズミなどのげっ歯類、猫、牛、ヤギ、コウモリなどにも感染します。他国での撲滅が難しいのは、野生動物の中に蔓延してしまっているため、完全な駆除は不可能ということなのです。現在、欧米等では野生動物に対する経口ワクチン剤の空中散布が大きな効果を得ていますが、それでも「根絶」は難しいのです。

 日本は、島国であり、野犬や狼などもほとんど存在しないため、運よく、撲滅することができました。しかし私たちのこの国でも50年ちょっと前までは、狂犬病は身近に発生し、人が命を落としていた病気なのです。

必ずワクチン接種を

 もし、現在、他国から日本へ狂犬病が進入してきたとしても、ある程度の割合で犬が予防をしていれば、人間への大規模感染および、野生動物への定着化を防ぐことができます。しかし、現在の接種率では残念ながら完全な防御ができる、とはいえません。

 中国では流行の際、2000人以上の方が亡くなり、5万頭以上の犬(飼い犬が主)が国により残虐に処分されるという最悪のシナリオをたどりました。そのようなことが起こらないように、未来の安全な環境を守るためにも、ぜひとも一頭でも多くの犬へのワクチン接種をお願いします。

 現在の検疫も、ロシア等の漁船からの密入国犬(守り神として犬を乗せる習慣があり、時々ひそかに上陸している。逃げることも考えられる)の完全阻止ができていない点からも、完璧とはいえません。密入国多発地帯の北海道には、野生の狐が多数生息しており、彼らは狂犬病ウイルスに対して高い感受性を持っており、感染しやすく、発病しやすいこともわかっています。一度侵入を許してしまったら定着しやすい病原体であり、その環境にあることも指摘されています。いつ侵入してきてもおかしくない、という言い方もできてしまいます。

 しかし、皆さんが接種を実行していただくことで、日本にまた狂犬病が発生・定着するという最悪な状況は阻止することができるのです。

 海外に行かれる際も気をつけてください。犬だけではありません。海外で哺乳類と接触があったときは必ず手を洗い、咬まれたときは必ず病院に相談してください。そして、もし、狂犬病の病原体を持っている可能性のある生き物に触れてしまったときは、必ず医師の診察を受けてください。有効なワクチン療法により、万が一感染していたとしても、即座に処置を行えば発症をほぼ確実に遅らせたり、防ぐことはできます。感染自体を取り除くことはできませんが、進行を止めることはできます。残念ながら感染してしまうと除去の方法はないのですが、発症しなければ死には至りません。

 ワクチンもかつてはその強烈な副作用で敬遠されてきた部分もあるのですが、現在では改良が加えられ、混合ワクチンに比べても格段に副作用を起こしにくいワクチンとなっております。

 犬たちが安心して暮らせるように、人間が安心して、公園や川原で安心してほかの犬たちとも触れ合えるような環境を保つため、非業の死を遂げる人間を一人でも減らすために、ぜひとも極力多くの方の接種を、お願いいたします。

集合注射や血液検査のすすめ

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 集合注射も、動物病院の開院時間中を「集合注射実施期間」として規定しているため、地域によっては区切られた期間内ではありますが、通常の診察とあまり変わらない状態での接種を受けることのできる地域もあります。そうでなくても注射をするにあたっては軽い触診や視診、問診等は欠かせないものですので、年に一度の健康診断として、受診しておくのはとてもいいことだと思います。

 もし、そのような病院実施の地域であるならば狂犬病注射時に、ついでに毎年血液検査をすることを習慣にしておくのもいいかもしれません。健康時の血液データが残っていると、いざというときにとても役立ちますし、何らかの疾患の早期発見にも有効です。

 また、この機会にお医者さんにいつも気になっていることを聞いてみるのもいいですね。せっかくお医者さんに会う機会なので、しっかり利用してしまいましょう。

<その他の情報>
厚生労働省:狂犬病について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/index.html

厚生労働省:狂犬病~犬の鑑札、注射済票について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/10.html
各市区町村において現在交付されている犬鑑札・注射済票の様式(デザイン)例も掲載されています。

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校閲・監修: 高波 律子(ペンネーム)

 東京農工大学 獣医学科卒 獣医師
都内動物病院にて臨床獣医師を経験後、製薬会社勤務。
19歳になる猫と同居中。

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