健康・病気

犬と猫と人間 『皮膚のトラブルと皮膚常在菌』のお話し

常在菌とは、生き物の身体に日常的に存在する微生物(細菌)のうち、病原性を示さないものです。
その種類は、多種多様で生き物の種・身体の部位・生活環境などにより、存在する菌が違い、私たち動物は、生まれてから死ぬまでこれら常在菌の力を借りて生きています。

今回は、皮膚と関係の深い常在菌と、常在菌によってもたらされる犬と猫の代表的な皮膚トラブルと対処法について、ご紹介します。

 

常在菌の基礎知識

常在菌は、腸内に最も多く存在し、他には口腔内、皮膚表面などにいます。
誰もが聞いたことがある有名な乳酸菌・ビフィズス菌・大腸菌なども常在菌の一種です。
身体にいる常在菌の数は膨大で、腸内に100兆個、皮膚に1兆個以上いると言われています。

《善玉菌、悪玉菌、日和見菌とは》
膨大な数の常在菌は、善玉菌と悪玉菌に種類分けされます。
*善玉菌
身体に有益に働き、健康維持や生命活動に必要な栄養素を生み出すことができる。
*悪玉菌
有害な物質をつくり細胞を傷つけ、ガンなどの疾患の原因となる菌。
*日和見菌
善玉菌でも悪玉菌でもない菌。その環境で強いほうの菌に結び付く性質がある。
健康な状態では無害だが、免疫力の低下した状態では病気・感染症の原因となる。

しかし、善玉菌でも現れる場所によって害を及ぼす病原となる場合がああります。
悪玉菌は少ない方がいいが、必ずしも全てなくなってしまえばよいものでもない。
善玉菌が追い出しきれない病原菌を処理し、悪玉菌が生み出す代謝物が善玉菌のえさになるとも言われ、あくまでそれぞれの菌がいるべき場所にバランスを保って存在する事が大事なのです。

 

皮膚常在菌の種類

皮膚常在菌はその名のとおり、皮膚の上に存在する微生物のことです。
身体部位や健康状態、加齢によっても変動します。
代表される皮膚常在菌としては、プロピオニバクテリウム属(アクネ菌もこの一種)や表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、マラセチアなどがあります。

*表皮ブドウ球菌
表皮ブドウ球菌は、皮脂成分のトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解します。
そして、酸性の脂肪酸は、皮膚を弱酸性に保ち、アルカリ性を好む病原菌が増えるのを防いでいます。
*アクネ菌
にきび菌として有名ですが、通常は表皮ブドウ球菌と同じように働き、皮膚を守る大切な菌です。
思春期や食事が肉に偏ったり、ストレスで皮脂が過剰に分泌されると毛穴にいるアクネ菌が異常に増殖し、炎症を起してにきびができてしまいます。
*黄色ブドウ球菌
身のまわりのあちこちにいて、多くのヒトの皮膚にもいる菌です。
普段はおとなしくしているのですが、皮膚がアルカリ性に傾くとがぜん元気になります。
ひっかき傷やけがのじゅくじゅく、洗い過ぎでお肌がアルカリ性になると増えて、炎症やかゆみを起します。
手の傷が原因の食中毒や、とびひはこの菌が原因です。
*マラセチア真菌
酵母菌の1種。
正常な皮膚では、マラセチア菌がいても影響がありませんが、脂漏性皮膚炎やフケの原因になったり、デンプウという病気の原因になったりもします。

 

常在菌が身体に働く作用

《拮抗現象》
拮抗現象とは、数種類の菌で平衡状態を保っているところに新たな病原菌が侵入してきても定着することができないことです。
抗生物質の投与などで常在細菌を弱めた状態にすると、投与された抗生物質に耐性のある菌が異常に増殖して炎症を引き起こし感染することがあります。
平衡状態を保つことで、常在菌が他の菌から身体を守る役割を果たしています。
《免疫系刺激作用》
免疫系刺激作用とは、常在菌が免疫系を刺激して免疫能力や抵抗力を強くする作用のことです。常在菌と共生する事が、免疫力の強化につながります。

 

皮膚常在菌による皮膚トラブル

皮膚常在菌は、免疫力が正常な場合には、皮膚が異常をきたすことはありません。
免疫力の低いシニアやパピー、またストレス・栄養不足などで抵抗力が弱まっているとき、免疫不全ウイルスに感染している場合など、常在菌が感染源となり皮膚炎の症状が生じやすい傾向にあります。
そして、感染源になるのは悪玉菌に限らず善玉菌もなることがあります。

《犬にある皮膚トラブル》マラセチア性皮膚炎
マラセチアは、耳や口・指の間・内股・腹・わきの下・肛門などに常在しています。
健康な犬であれば、犬の皮脂腺から分泌される脂質を栄養分としながら悪さはしませんが、何らかのきっかけによって病原体と化してしまい、皮膚炎や外耳炎を引き起こします。
ベタベタしてフケが見られ、皮膚が赤くなり、痒みを伴います。
外耳炎を発症した場合には、外耳道に黒褐色で臭いのある分泌物や炎症が見られます。
進行すれば内耳炎や、掻きむしることで二次感染を引き起こすこともあります。

《猫にある皮膚トラブル》細菌性皮膚炎
代表的なのが、膿皮症です。
顔の周り・わきの下・内股・足に発症しやすく、皮膚の上や毛穴で細菌が異常繁殖をして化膿していきます。
赤い発疹やフケ、爛れや排膿、痒みや脱毛などが、主な症状です。
発生する皮膚の場所により、3つに分類され、その症状も異なります。
・角質層に起こる表面性
・毛包と続く表皮に起こる表在性
・毛包と真皮と皮下組織に起こる深在性
痒みの程度は様々で、発症範囲も局所的なものから全身的なものもあります。
掻きむしったり舐めたりと刺激を与えることで、さらに深部に広がり腫れや膿が生じる場合もあります。

 

皮脂と常在菌のエネルギー源

皮脂は、皮脂腺から分泌された分泌物で、皮膚常在菌のエネルギー源ともなっています。
皮膚表面にある皮脂は常在菌によって分解され、肌を弱酸性にする脂肪酸が遊離されます。
皮膚常在菌のうち、善玉菌は弱酸性の条件で増殖していきます。

 

皮膚常在菌(善玉菌)の苦手な環境

《乾燥》
菌は、乾燥が苦手です。皮膚常在菌も例外ではなく、皮脂が少ない表皮では存在(増殖)することができません。
皮脂が少ないと遊離される脂肪酸も少なく、皮膚の弱酸性を保つ事ができなくなります。
アルカリ性に傾くと黄色ブドウ球菌などが活発に働き、肌の炎症やかゆみをおこします。

 

洗いすぎに注意しましょう!

健全な皮膚環境を作るためには、まず洗いすぎない事が大事です。
洗いすぎると皮脂が過剰に洗い流されてしまう上、菌の数が足りなくなり、新たに出てきた皮脂を元に作り出される酸性物質が少ないため、肌は弱酸性にもどりづらくなり、バリア機能も保湿能力も失われてしまいます。

皮膚表面をできる限り自然な状態(弱酸性)に保ち、定着しているいくつかの常在菌のバランスを崩さず正しい方向に力を発揮してもらうために、どのような部分が足りないのか?または過剰なのか?観察し、それにあわせたケアを行う必要があります。

犬や猫の皮膚の疾患は、完治は難しく再発する場合も多いため、継続的な治療が必要になります。
人間が毎日お風呂に入るように、犬や猫のスキンケアにとっても洗浄することは大事な役割を持っています。
普段から、適度なシャンプーとブラッシング、そして表皮を滑らかに整えることできるように健康的な食事や運動ができるストレスのない環境を整え、本来備わっている皮膚のバリア機能を改善していくことが大切です。

2017年3月17日掲載

 

犬と猫と人間
『放射能と被ばく』のお話し 【その3】

吉川 奈美紀

吉川 奈美紀

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(きっかわ なみき)

ヨガ・ピラティス・空中ヨガ インストラクター
メディカルアロマアドバイザー

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