センターで亡くなる犬 |
-センターの犬たちはいずれ亡くなってしまうわけですよね。-
亡くなる前がひどいですよ。犬だけに限らず、命の尊厳とは何なのだろうとセンターに行くたびに思います。何か罪を犯してしまってあそこにいるわけではないじゃないですか。それなのに、あの子たちには命の尊厳がないわけです。こんなに汚くて不衛生な場所、ご飯も食べられないような環境の中で5日間も生きています。そして、土日をはさんで7日目は殺処分です。恐怖やいろいろな思いをさせ続けて、最後は殺処分なんてひどい仕打ちはないと思います。あの方法やシステムを変えていくのは、できないことではないと思うのですが、行政の話では財源や人手の問題で難しいとおっしゃっています。
しかし、センターを見比べていると、正直言って本当にそうなのかなと、千葉県に対しては多少疑問を抱いています。茨城県は千葉県より収容頭数が多いのですが、センターはきれいです。しっかりと管理やお世話をされている方たちもいらっしゃいます。ただ、その方達は行政の方ではなく、ボランティアから派遣もしくは委託されてお世話をされているのですが。どういう理由であれ、お世話をするという仕事なら、その仕事をきちんと全うするべきではありますよね。
千葉の場合は部屋のつくりもとても悪いんです。千葉にカジノをつくるなんて話がありますが、正直、そんな話はどうでもいいからもう少し目の前のものをきちんとやって欲しいなと思います。何十年も前から、これは改革して欲しい、改善して欲しいと決まっているにもかかわらず、それに手を付けずに県は新しいことばかりに手をだしていくような気がしています。
千葉をもっとよくするために新しい事業をすすめているのでしょうが、千葉を良くしたいのなら、住人や動物の暮らしにもっと目をむけるべきだと思うんです。人の暮らしと動物たちの暮らしは影響し合っています。動物の暮らしがよくないところで人々が過ごしやすいわけがないんですよ。野良犬の多い地域に、人にとって住み良い場所はない。千葉県はもっとよいところになるはずなのに、とてももったいないと思います。こんなにも捨て犬や捨て猫が多い県ですが、本当に緑は豊かですし、海があって川があって大自然があって。この県をちゃんとよくしていくためには人も動物もきちんと生活ができるような環境にしていかなければいけないと思います。なので、行政の方にも呼びかけていただきながら、不妊去勢を徹底するための義務化、千葉県の場合は絶対義務化をすすめていかなければ捨て犬などの頭数は減っていかないし、本当に住みよい環境はつくれないと思います。
房総の方に行かれるとわかりますが、獣医が圧倒的に少ないんです。そうすると結局、動物病院に連れて行くのが困難になってしまいますよね。だから狂犬病などは、集団で予防ワクチンを受けられますが、フィラリアの薬を買ったり不妊去勢をするには、高齢者の場合は特に自力で遠くの動物病院まで飼い犬を連れて行くことができないんです。
そうだとしたら、往診車を出すなど手だてを組んでいかなければ、県は結果的には捕獲収容頭数を減らすことはできない。現在は全体的に捨て犬の数は減ってはいますが、それはボランティアが持って行っているからだと思います。
車で走っていると実感しますが、本当に動物病院をみることがありません。私が最初に館山で活動をしていたときに、館山から木更津まで、当時車で1時間半ぐらいかけて犬を何頭もつれて往復していました。そして、不妊小屋というのを作って、東京から不妊去勢をしてくれる獣医さんを呼んで治療して頂きました。一日50頭、ご近所の方を呼んで、犬でも猫でもなんでも不妊去勢をやってあげていました。そうでもしないと、とにかくやる場所がないんです。だから捨て犬や野良犬の数が増えてしまうのです。
獣医さんにはそこに泊まっていただいて2日間にわたって朝から晩まで次々に去勢していただきました。わざわざ東京から来ていただいていますが、料金は一頭5千円ぐらいの破格です。昔は今みたいに館山道がなかったので、下から行ったら7時間ぐらい、東京からだと8時間ぐらいかかってしまうと思います。夏は渋滞もありますから、私が市川に帰ってくるまでに7時間かかったこともありました。その長い道のりを不妊日を決めてその日に来ていただくのです。
獣医の点在 |
獣医さんもやはりビジネスなので、民家が少ない場所で開業してもお客さんがとれなければ続きませんよね。市街から離れた地域では家の数なんてたかがしれているわけです。ですから、どうしても街の中心部に獣医さんが集まってしまいます。そこまで通われて来る方もいますが、中には車を運転されない方もいますのでお迎えに行ったこともありました。
-そう考えると千葉だけでなく、地方ではそういうことが多いのでしょうか。-
そうですね、でも捨て犬・捨て猫が増える原因はもっと深く掘り下げていくとそれぞれ違うんですね。地理的なものだったり、地域性のものだったり。この地域は獣医が少ないというのがわかってきたので、原因がわかればあとは方法を考えればよいのです。解決できる道というのはちゃんとどんな場合にも残されているのではないかと思います。
よく言われていることですが、飼い主のモラルがないから結局捨て犬も増えていくと・・・。でもわかっていても、新しい環境の中に犬を連れて行けない人もいるのは確かです。「それなら犬を飼うな」と言われてしまうのでしょうが、田舎の方では、農作業もあり家を留守にする時間も長いので、番犬として飼っているという方もいらっしゃいます。番犬といっても人をガブガブ噛むということはしない、昔から飼われているような家庭にも慣れている犬もいます。
こうして声に出して訴えていくことがいい案なのかどうかはわかりませんが、私が見てきた房総などはやはり獣医さんの数が少ないと感じます。あそこで事故がおきて、「あーどうしよう」と獣医さんを探しても、十分な数はいません。それで1時間半もかけて木更津まで行って、骨折したワンちゃんを診てもらうこともありましたので、やはり地域的なこともあるのかなと。
-なかなか難しいですよね。解決の仕方としては。-
ただ行政側も、殺処分頭数が少ないのであれば、民間の獣医さんでも来てくれる方がいたわけじゃないですか。私達がやっていたときのように2日間で50頭ということも可能。一人あたり5000円出せばやってくれるということは、20年前から分かっていることです。それを受ける人達も当然いるわけですから、何とか行政の施設を活用して手術部屋とするなど、もう少しうまくやっていく方法はあると思います。
体重によっても、かかる獣医さんによっても手術にかかるお金は変わるんです。この子くらいだと東京の中心部の獣医さんだとだいたい不妊手術で5万円です。でもこちらの獣医さんだと2万円だったり3万円だったり、まちまちの金額です。センターからでてきた子に関しては、ここの獣医さんがやればこの金額という形で提携していただけるとこちらも助かるわけですが、そういった制度はないんですね。
不妊・殺処分 |
センターの職員の方は、「まだ私達も走り始めたばかりです」とおっしゃっているのですが、一番最初に申し上げたように、保護している犬を里子に出せるかどうか鑑定をすべきです。危険性はあるのかないのか、そこをしっかりと見極められるプロがいるのかどうか。しっかりと鑑定しないで里子に出してしまうことが一番いけないと思います。救える頭数はたぶん減ってしまうとは思いますが、それはいたしかたないと思います。
殺処分ゼロといいますが、正直難しい話です。そうだとすれば、まず減らすためにどうしたらいいのか。たとえばボランティアさんが出す犬についても、センターの方がしっかりとテストをして、合格ラインに達した子だけを出していくという方法も必要です。そうでないとボランティアの手におえない子ばかりが増えてしまって、センターから引き取ってくれなくなってしまいます。私達のところに来てくれたら、里親さんのところに送り出せるのに、それすらもできなくなってしまう。
-確かにそうですね。確か、熊本が殺処分ゼロで有名ですよね。-
でもゼロじゃないですよ。ゼロはあり得ないです。噛む犬は必ずいますから、その子達はやはり殺処分の道をとっているわけです。どれだけトレーニングをしても噛み癖が直らない犬は直らないんですよ。確かに直らないような子も抑えることはできますし、うまく付き合っていけば一緒に暮らすこともできますが、必ず咬傷事故というのはおきているはずです。その場合には殺処分をすることはありますから、ゼロというのは嘘ですよね。
私から言わせていただくと、ただ譲渡をしようと思ったら、熊本は収容頭数が少ないので今月きた子たちは全頭引き渡せると思えば、それはみんな引き渡せるのだと思います。それでもこの一頭だけはちょっと引き渡すのは無理というのもいるでしょう。いずれにしてもやはり頭数が少ないのだと思います。
-千葉県の場合は、田舎的な部分と都会的な部分と両方あるので難しいのかもしれないですね。-
千葉には収容所が五カ所あるのですが、富里がその大元なんです。その富里に犬たちが集められて、最後に殺処分があるわけです。そう思うとすごくたくさんの子がくるように思いますが、元は一カ所一カ所なので、その段階の時にみている獣医さんが必ずいるわけです。捕獲したら富里に来る前に一週間は間をおいて、その一週間もある中で、チェックリストをきちんとチェックするなど何か決められた過程を一匹一匹にして、富里に来たときに情報源があるようにしておくといいかもしれませんね。この子は里親さんに行ける子かもしれないという判断ができるようになるんじゃないのかなと思います。
そんなに難しいことを私は言っているわけではないので、ただやる気の問題なのではないかと思います。たとえば私達のやっているシェルターもなくて、家庭もなくて、うちにいるボランティアさんを一人配置して一週間チェックする。ご飯をあげるときに、この子が行ける子かどうか確認してノートにつけていったら、確実に、里子に行ける子かいけない子かを判断できてくると思いますよ。
-本当に体制とかシステムの問題ですね。-
やっぱり私達もここに連れてきた以上、この子達を殺処分に戻すことはできないし、苦しむんです。そういう問題点を抱えたときに、その重さがあるから一生抱えていかなければならなくなります。殺処分させたくないから引き出しているので、噛んでも何してもセンターに戻すことはあり得ませんが、日本の獣医さんの場合はなかなか安楽死ができないんです。
たとえば、咬傷します、噛みます、この子は危険です、お世話ができませんと言っても、「ご飯を食べているなら、センターに戻して下さい、訓練所に戻して下さい」と言われます。それで訓練所に入れたとしても、とても高い訓練費用がかかりますし、誰にでもお渡しできる子にはなりませんよね。これでは、また問題ができるだけです。
欧米のシェルターを見学などされてきている方は、「最終的にそのボランティア組織としてやっていくのであれば、そういうこともやむを得ない」と、「そこをしない限りは救えない」とおっしゃいます。安楽死大反対、命は最後まで全うするものだと、日本の獣医さんは植えつけられてしまっているので、そこが非常に難しい。
私たちが噛まれて傷を見せて、「これだけ噛まれて危険なんです」と言っても、「じゃあ切りましょうか」とか、「訓練をして下さい」という言葉しか返ってきません。毎日の生活の中で、今触れないこの子をどうやって訓練していくというのでしょう。それでも訓練していかなければいけないので噛まれる覚悟でその子を触らなければならず、とても危険です。
結局、飼い主が、「うちの子が人を噛んでしまった」という問題を抱えていて、やむを得ず殺処分をしなければいけないと獣医に連れて行っても、獣医は安楽死をしないということがわかりました。そういうなりゆきでセンターに入ってくる子もいますから、私達も、誤って危険な犬を選ぶ交渉権を手にしてしまいます。
ですから、もう少し日本の獣医さんも、センターにいる犬のことや、ボランティアと向き合っていただけるといいなと思います。安楽死という選択は本当に病気の時ではありませんから。私達には今できることがなく、訓練所に入れたり、一緒に暮らしたりしていますけど、やっぱりこのままにしておいては危険ですよね。