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イヌに教え、教えられ 第29回 根気よく、気長に向き合う

イヌに教え、教えられ

第29回 根気よく、気長に向き合う


2015年夏、茨城県常総市で起きた洪水。
水害の後、犬と散歩をする人の後ろを付いてきたり、畑に寝転んで日向ぼっこをする野良犬がいました。
被害が残る中、人を怖がらず穏やかに近づいてくる野良犬。
近所の人たちにとって、犬が自分たちに「大丈夫だよ」と言ってくれているように感じたのかもしれません。
「今日も元気で居るかな?」と野良犬の様子を気にする人が増え、犬を慣れさせようと餌をあげるようになりました。
しかし、動物保護センターがその野良犬の存在を知るところとなり、捕獲されざるを得ない状況に・・。
 
捕獲機で保護されたその仔は、「ペガ」という名前をもらい、近くに住むMさん家族と暮らすことになりました。
 
野良犬だったペガは、仕切られた檻の中に入ったことも、首輪を付けたことも、麻酔注射をされたこともありません。
未経験のことが一度に重なったペガは、捕獲時に大暴れし、近づく人やMさんを怖がり、震えて唸るようになってしまいました。
庭の犬小屋よりもさらに奥の植え込みまで引っ込み、動かないペガ。
ご飯をあげようと近づくだけで威嚇をします。
人の姿が見えなくなるとやっと食べ始める・・
 
そんなペガとMさん家族とが信頼関係を作り、散歩に行けることを目的にトレーニングをすることになりました。

 

 

人に対する不安が強い犬は、優しく掛けられる声さえも「何かされる!?」と感じ怖がらせてしまうことがあり、無理や急いで慣れさせようとするのは禁物です。
食べ物(ご飯)をあげることを通して、まず犬が人に期待を持てるようにすることから始めます。
 
1ヶ月も経つと、ペガがママの前でご飯を食べるようになり、いつしかご飯の時間にママが姿を見せるだけでヒンヒン嬉しい声を出すようになりました。
数ヶ月を掛けて、少しづつペガの恐怖感を期待感へ変えていきました。
それでも体を触ろうとしたり、リードを持とうとすれば威嚇するペガ・・ペガとMさん家族の信頼関係作りの小康状態が続きました。
トレーニングの段階を一歩踏み込むか?このまま食べ物で根気よく関係作りを続けるのか?私も悩みました。
 
そんな時、ペガの首輪に付けていたリードが外れたとMさんから連絡が!
ペガは、庭端の植え込みでじっと動きませんが、いつ逃げ出してもおかしくない状況。
リードを着けようと近づけば家族にも威嚇するペガ・・食べ物で気を引いて付けるなんてんこともできません。
次の日、Mさん宅へ行った私がゆっくりでも近づくとペガの威嚇が始まります・・
攻撃的な威嚇ではなく「それ以上来ないで」という意思表示です。
ペガの負担を減らすために、私は寝転がり目線を下げる。そして首輪に手が届くところまで近づけたとき、ペガが手を咬んできました。
しかし、その時の噛む力の強さから、やはり怖くて咬んだしまっただけで「ペガは根底に人への信頼がある、いける!」と感じました。
少しづつリードを持つ手を近づけては、ペガに話し掛け、またちょっとだけ距離を狭めていきます。そして1時間程で威嚇はあっても咬まれることなくリードを首輪に付けられました。
 
時間は掛かりましたが、ペガと直接やり取りをしたことで、ペガの恐怖の許容範囲と人への信頼を感じられ、トレーニングの次段階「歩行訓練」にいけると直感しました。

 

 

歩行訓練の日、ちょっとでもリードが引っかかると激しく抵抗し、暴れるペガに対し、強すぎず、でも一緒に歩くようにリードで導きます。
少し歩いては、休む、、歩く、、休む、、を繰り返すうち、ペガの荒い呼吸がおさまり、尾が上がってきた。
ペガの「恐怖」が、外を歩ける「楽しさ」に変わってゆき、抵抗がグッと減りました。
このままMさんと歩けるようになれば、距離をグッと近づけるチャンス。ママにバトンタッチです。
リードの持ち方・歩き方・歩く時の態度・暴れた時の対応などを伝えてからスタート!
ペガの抵抗が出るが、ママは慌てずに毅然とした態度で歩き続ける。
数十分後、ペガに変化が現れました。
歩調をママに合わせて、ママが止まれば止まり、歩けば歩くようになってきている。ペガの表情も段々と柔らかくなり、楽しそうな様子まで見せ始めました。
 
ここに来るまで約10ヶ月が経っていました。

 

 

一緒に散歩できることが、これだけ嬉しいんだと言ってくれたママ。散歩をしているとき、ペガ以上にママが楽しそうです。
一歩踏み出せたことで壁を破り、ペガとママは本当の信頼関係を築きつつあります。
 
それから更に1ヶ月後、ママから動画が送られてきました。
そこには、散歩の準備をし始めるだけで、尻尾をブンブン振ってママの周りを嬉しそうに行ったり来たりするペガが写っていました。

 

2016年11月25日掲載

 

イヌに教え、教えられ
第28回 互いに成長する関係

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第30回 犬は今を生きている

里見 潤

里見 潤

投稿者の記事一覧

(さとみ じゅん)

ドッグコーチ

1975年、横浜市生まれ。2004年、警察犬訓練校に入学、出張トレーニング会社を経て、保護活動団体「Dog shelter」の専属スタッフとして、保護犬のトレーニング、一時預かり家庭と里親家庭の間に入り、アフターフォローを担当する。
2012年7月より独立。出張、及び預託トレーニングを柱に活動する傍ら、保護犬の一時預かりを継続中。
 
日本警察犬協会公認訓練士
ジャパンケネルクラブ公認訓練士
東京都動物愛護推進員

 保護犬預かりを主に、トレーニングのことを書いている里見潤さんのブログ
 「イヌと歩けば。」http://setahachidog.blog.fc2.com

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