イギリスとスイスの動物事情
第1回 イギリス・スイス、そして日本の犬文化
dog luck ドッグトレーナー 栗山典子
dog luck ドッグトレーナー 栗山典子
私は、幼少期をスイスのジュネーブで過ごしました。
ジュネーブでは、「犬は人のcompanion(コンパニオン)」として、交通機関をはじめ色々な場所に連れて行くことができました。バスや電車、レストラン・ホテル・街中など。
有名なアルプスの美しい山々へ登るロープウェイもそのほとんどが犬OKです。スーパーやパン屋さんの入り口には、犬を繋いでおく輪っかがよくあり、飼い主が買い物をしている間そこで犬を待たせておきます。
スイスにいた頃、犬に吠えられたり、吠えようとしている犬を必死で抑えている飼い主さんは、滅多にいませんでした。みんなとても穏やかにしていた記憶しかありません。
(もちろん例外もあり、我が家の愛犬のダックスフンドもリードに繋がれていないフリーのドーベルマンに追いかけ回され、おしりを咬まれたこともあります・・。)
基本的なしつけをきちんとされているから、そして公共の場へ犬を気軽に連れてゆき共に歩くのが日常的になっているから、人と犬が上手に一緒に暮らしている。
それがジュネーブで暮らしていた時の印象でした。
私自身の個人的な感覚ですが、帰国した日本(私が暮らしていた千葉)は、ジュネーブに比べ、犬や猫が多いと感じました。
そして、メディアなどを通して日本の保健所や殺処分の現状を知り始めた頃から、先進国と呼ばれている日本が、動物愛護の観点では多くの問題を抱えていると感じるようになりました。
しかし、その時点で私は、この問題の現状を知ろうとはせず、恥ずかしながら見て見ぬふりをしていました。
世の中にある他の数多くの問題と同じように、日本の動物愛護に関しても、「きっと誰かが問題に取り組んでいるいるはずだ」「きっとその人たちが変えてくれる」「間違っていることは、きっといつか正される」そんな他力本願も甚だしい、自分に都合の良い解釈をして、今そこにある問題から目を反らし、自分をごまかそうとしていました。
そんな私に、2011年、私の人生の大きな転機が訪れました。
愛犬を看取ったことをきっかけに、今まで見て見ぬふりをして他人任せだった動物愛護の問題に、自分なりに取り組めたらと思いはじめたのです。
しかし、一言で『動物愛護の問題』といってもどこから切り込めばいいのか分かりませんでした。
メディアや資料から得れる知識ではなく、より正確な情報・現状を知りたいと考えていたので、はじめの一歩として、近所で活動をしていた鳥獣犬を専門にレスキューしている「コンパニオンアニマルクラブ市川(CACI)」(以下、CACI)という団体に散歩ボランティアとして参加しました。
近所だったということでボランティアに参加しはじめた「CACI」でしたが、金子代表をはじめ、ボランティアスタッフや里親さま、ボランティアスタッフ向けに犬のリトレーニングを教えている星野貴大トレーナー、CACIに携わって活動をしている皆さんが、動物愛護に対してとても意識の高い方ばかりで、今となっては、私が初めて出会った団体がCACIで良かったとつくづく感じています。
そして、CACIで活動を続けていくうちに、専門的に犬のことを学びたいと考えるようになり、星野貴大トレーナー(*1)に師事し、その後転職、ドッグトレーナーになりました。
(*1 現在はドッグトレーナーチームdog luckとして共に活動中)
そして私は、今後トレーナーとして活動していくことを考えたとき、日本の動物愛護の現状に対し、これまで以上に真剣に取り組んでいきたいと思うようになっていきました。
ヨーロッパに100年遅れている日本の動物愛護。そのヨーロッパで、今どのような動物愛護が行われているのか?
これからの自分の取り組みにむけて、ヨーロッパの動物愛護を学ぶために、今回スイスとイギリスへ単身修行をしてきました。
ヨーロッパ諸国は、古くから犬に仕事をさせ、目的を持って繁殖して、共生してきた歴史があります。
主に番犬目的で犬と共生してきた日本とヨーロッパ諸国とでは、犬と人が共生してきた歴史の長さも深さも形態も異なります。
ヨーロッパ諸国に比べ、日本の動物愛護が『遅れている』とはいえ、ヨーロッパのシステムをそのまま真似ることが追いつくことだとは私は思いません。
ヨーロッパと日本とでは、歴史も違えば、環境、価値観、文化、その他多くの事が異なります。そのため、なんでもかんでもヨーロッパを「良し」として、そのシステムや手法を真似るだけではダメだと私は思います。
日本には、日本に合った動物愛護のやり方があると私は思っています。
そして、そこに「中身」が伴わないとシステムとして成り立たないとも思います。
ここでいう「中身」とは、「犬とはどういう生き物なのか」「犬の権利とは何か」という人々の考え方や知識、そこから生まれる法整備、それに対する社会的認識などのバックボーンです。
このバックボーンがしっかりしていないと、いくらシステムを作り上げたとしてもそれは見かけだけのものにすぎず、運営し続ける中でさまざまな歪みが生じるのではないかと思います。
日本は、まだこのバックボーンが弱く、人々の知識や認識の足並みが揃っていないように思います。その足並みを揃えるためにも、ヨーロッパが長い歴史をかけて培ってきたノウハウや失敗・経験から学び、日本の現状の中で活かしていくことが大切なのではないかと考えています。
ヨーロッパの数ある国の中で、今回イギリスとスイスを訪れた理由は、まず第一にイギリスのRSPCA(英国王立動物虐待防止協会)より実務体験の機会を与えていただいたこと。そして、この訪欧の目的を理解していただき、見学や訪問を快く引き受けてくださった方々がいらっしゃったことが背景にあります。
今回、私が見聞きしたのはイギリスやスイスの犬文化のほんの一部ですが、その中での動物保護団体での体験をご紹介させていただきます。
次回は、「イギリスの動物福祉『Southridge Animal Centre(サウスリッジ アニマル センター)』での実務体験」をご紹介いたします。
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