「第1回 社会のなかで働く犬 ― 身体障害補助犬―」に続き、今回は災害救助犬についてご紹介します。
災害救助犬とは、地震や土砂崩れなどの災害で、倒壊家屋や土砂等に埋もれ、ピクニックや山歩きなどで行方不明になった不特定な人たちなど、助けを必要とする人を、主にその嗅覚によって迅速に発見し、その救助を助けるように訓練された犬たちです。
災害救助犬の歴史が長い欧米では、Search&Rescue Dog(捜索救助犬)と呼ばれています。
東日本大震災では、国内・海外の多くの災害救助犬たちが活躍し、2014年8月に発生した広島大規模土砂災害でも発生から4日間で述べ84匹の災害救助犬が活動しました。
災害救助犬の歴史
17世紀頃、スイスのアルプス山脈に住む修道士たちが、雪山で道に迷った人や、動きのとれない登山者達を捜索する山岳救助のために、飼い犬を訓練していたことが始まりと言われています。
スイスの山間部で過酷な気候に耐え得る被毛・体をもち、農作業や牧畜、挽曳(ばんえい:犬荷車を曵く)犬として人の仕事を助けてきたセンタバーナードやバーニーズマウンテンドッグが、類いまれなる嗅覚で悪天候の雪道で遭難した旅人を救助したとされています。
1815年に狼と間違えられて遭難者に射殺されたと言われるセントバーナードの「バリー」は、生涯に40名の遭難者を救出したと言い伝えられています。
災害救助犬の犬種
現在、ジャーマン・シェパードやラブラドール・レトリバーやミックス犬など多種多様な犬種が災害救助犬として活躍しています。
牧羊犬や警察犬の歴史をもつ犬種が向いているともいわれますが、限定されておらず、基本的にはどのような犬でも災害救助犬になることが可能です。
「人間が大好き」「好奇心旺盛」「遊ぶのも大好き」という犬ならば、救助犬になる素質を持っているといえます。
一般には中型犬以上が望ましいとされていますが、大型犬はスタミナがあり、高低差のある場所でも捜索活動ができます。一方、小型犬は瓦礫の隙間に入っていき、機動的な捜索活動ができます。
災害救助犬になる
「人を探す」「見つけて吠える」という基本的な訓練を積み重ねたあと、年1回行われる「救助犬認定試験」に合格して災害救助犬としての活躍がはじまります。
[災害救助犬に向いている性格]
- 人や他の動物に対して、攻撃性がない
- 臭覚が優れ、動作が機敏である
- 捜索に対して強い意欲がある
- 集中力と忍耐力がある
- 体力があり持続力がある
- 突然の物音や出来事に恐がらない
- 高い所や暗い所をこわがらない
災害救助犬が働く場所は、山岳地域や原野、家屋が倒壊し瓦礫が散らばっているような足場の悪い怪我の危険がある状況です。
そして、様々なレスキュー活動の人がたくさんいて、大変混乱しています。
その現場には、救助にあたる大勢の人間の匂いや火災跡の煙や匂いなどが漂う中、消防車や救急車のサイレンやヘリコプターの騒音が響いています。
この大混乱でストレスがかかる状況の中でも、救助犬は集中して人間を捜索しなければなりません。そのために、こうした困難に直面してもあきらめない、強い気持ち持った犬でなければなりません。
捜索可能時間は1頭がおよそ20~30分。
2・3頭でチームをつくり、捜索と休憩を交代しながら数時間の捜索を続けていきます。
日本での災害救助犬の歴史
1990年代「NPO法人全国災害救助犬協会」が、救助犬育成を目的とする日本初の「救助犬協会」が設立したところから日本の災害救助犬の歴史が始まりました。
現在、災害救助犬の代表的な組織は4団体あります。
NPO法人 全国災害救助犬協会
一般社団法人 ジャパンケネルクラブ
NPO法人 日本救助犬協会
NPO法人 日本レスキュー協会
その他、国内では数少ない「IRO (国際救助犬連盟)加盟団体の救助犬訓練士協会」や、全国災害救助犬協会で中心的な会員が新たに設立した「NPO法人災害救助犬ネットワーク」などがあります。
また、都道府県レベルで独自に活動している協会も多く、最近は都道府県の警察嘱託犬に捜索救助・災害救助を行う災害救助犬を活用する都道府県警察も増えてきています。
ただ、救助犬に関する理解や認定基準が整備されておらず、欧米に比べ後進的であるという災害救助犬を取り巻く日本の現状は否めません。
災害現場で迅速かつ確実に対応するためにも、国際標準と同等レベルの国内統一基準の策定を求める声があがっています。
*災害救助犬国際基準:IRO (国際救助犬連盟)・FCI(世界畜犬連盟)
人を助ける「犬」を助けることができるのは「人」
過酷な災害現場で人と共に懸命な救助活動を続ける災害救助犬。
その災害現場では、倒壊した家屋などからのガラスや釘・危険物などが瓦礫や土砂に混じり、犬達が負傷をすることも珍しくありません。
災害救助犬の育成・活動に整備された公的な支援制度がないのが現状です。
災害救助犬の活動を知り、今の自分にできることに取り組むことが、人と犬の命を繋ぐ行動となっていく。
人を助ける「犬」を助けることができるのは「人」
人と動物が共生する社会のために、今できることを。
参照:Boston.com 2014年8月 広島大規模土砂災害