「吠えグセ」を考えてみよう
第1回目 何故吠える?
~犬の習慣と生活環境~
家庭でイヌを飼う上で「吠えグセ」の悩みは飼い主にとって非常に大きな頭痛の種です。では吠えグセは以前から大きな問題となっていたのでしょうか?いいえ、違います。
庭に係留して、または庭内を自由にさせる外飼育。そこで飼われているイヌもやはり多かれ少なかれ吠えていたと思います。家の前を他人や自転車などが通ると「テリトリーを守る」ため警戒吠えをしているイヌも多くいます。が、それは大きな問題とはならず、むしろ安全の要素「番犬」として望まれていました。以前からイヌが吠える行動はあったのです。地域によっては外飼育もまだ多くあります。
では吠えが問題となるケースとならないケースで何が違うのでしょうか?
私は2点の違いがあると思います。
1つは、住環境が変わったことでご近所との距離がより近くなったことでしょう。
都心部など壁一枚でお隣さんというマンションでの生活スタイルが増えている環境でイヌを飼うご家族が増えたことで、以前は問題とならなかった吠え声が騒音として苦情の種となっています。
また吠えグセに悩んでいる家族にとってなんといっても難しいのは、家族だけの問題に収まらないという点です。吠え声がお隣さんにも聞こえてしまうことが何よりも飼い主にとっては大変悩み深く、心理的にも飼い主に余裕がなくなり、問題をより深刻化させていることがあります。
もう1つは、室内飼育、核家族化、共働きをしながら飼うなど都心住環境での飼育事情の変化です。
外飼育では玄関の扉一枚を隔てて、外と中、イヌと人は別々に過ごす時間を持つことで家族とも適度な距離感を自然と持つことができました。イヌは独りで待つことにも慣れており留守番だから寂しくて鳴く、飼い主を呼ぶこともありませんでした。
ですが室内飼育が増え、家にいるときはずっと一緒に生活することが当たり前となり、リビングで一緒、ベッドルームで寝るときも一緒・・・。イヌはペット以上の家族に近い存在となり、関係もより深くより豊かになる一方で、家族との密着度が高くなりました。独りになったときには逆に不安を感じるようになり、鳴いて吠えて呼んでしまうことが問題となるようになりました。
ここでお伝えしたいことは、外飼育が当たり前だったころと今とでイヌが変わったわけではなく、あくまで住宅事情の変化や人間側の都合、飼い方や飼う人の愛犬へのスタンスが変わり問題が生じてきたことです。さらに、飼育事情の変化や家族とイヌの距離感や関係性の変化に伴って、室内で飼う上での家庭内ルールもまた変えていく必要があるということです。
なぜ吠えグセが問題となったかを知った上で、次はどう向き合っていくかを考えましょう。
吠えグセと向き合っていく上で大事なキーワードは3つあります。
① イヌにとって「吠える」ことは日常であり普通のことです。それはイヌが作られてきた歴史に深く関係しています。イヌが人と暮らすようになっていったのはその愛らしさや人懐っこさだけではなく、一緒に暮らすことが人にとっても都合がよかったからです。
狩猟イヌとして獲物を見つけたときに吠えて知らせる、吠えながら相手を追い詰めていく(ビーグル、M・ダックス)。王室のマスコットとしてだけでなく、部屋に入ってきた人に吠え、番犬としても重宝した小型イヌが後に家庭での愛玩犬として飼われています。
羊や馬の群れを小屋へと吠えながら追い立て誘導していた牧畜犬(コーギー、ボーダーコリー)。警戒心の強さから家庭での番犬としても使われた(柴犬)など。
イヌが「吠える」ことは人によって作為的に望まれ、求められてきた資質であり、イヌにとって「吠える」ことは普通のことなのです。この点をまず理解しておくことが必要です。
犬種によって作られてきた理由、歴史があります。すでに「吠えグセ」で悩んでいるご家族も吠えグセと向き合う前に飼っている犬種の歴史、性格、特徴を調べ、なぜ家の子がチャイムに、走り去る自転車に、他の人や犬に吠えやすいのかを知ることが大切です。このことが、イライラや失っている冷静さを少しでも取り戻した上で吠えグセに冷静に向き合うための引き出しとなっていくでしょう。
次回は、「飼い主ができること」をお送りします。
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