当サイトの企画運営を行うペット共生賃貸住宅を提供する株式会社アドバンスネットが特別協賛する『JPM「夢の賃貸住宅」学生コンテスト』
第7回となる今回のテーマは「コミュニティと賃貸住宅」です。
昨今の賃貸住宅では見られなくなった「近所づきあい」
隣人との交流が途絶えようとしている現代の日本で、もう一度コミュニティ(地域とのつながり)を復活させる、現在と近未来の社会にふさわしい、賃貸住宅だからこそ可能な「コミュニティーと賃貸住宅」の提案を求めたところ、たくさんの大学生や高校生等から自由な発想と創意工夫に満ちたアイディアが寄せられました。
今回はアドバンスネット賞を受賞された作品「猫が紡ぐ地域コミュニティ」を制作された九州大学大学院、本木光さんにインタビューをさせて頂きました。
作品名 : 猫が紡ぐ地域コミュニティ
コンセプト(作品趣旨):
猫はたくさんの場所や人と出会いながら一日を過ごす。そこには実は、一匹の猫に何人もの人が関わっており、ある種のコミュニティの基盤がある。
今回の提案は、そのコミュニティを賃貸住宅に内在させることで、希薄化しがちな賃貸住宅でのコミュニティを改善するものである。
猫と暮すことで日々の生活は豊かになるとともに、様々な人間関係を生む。猫と地域住民と町とを緩やかにつないでいく。
九州大学大学院人間環境学府都市共生デザイン専攻 本木光
-GORON:
今回のコンテストのテーマは「コミュニティと賃貸住宅」
その中で、本木さんは「猫を介したコミニティ」をテーマに提案をされましたが、そのきっかけや動機をお聞かせください。
本木さん:
発案のきっかけは、卒業研究の対象地を調査していた時に、実際に猫によって人と人のつながりが生まれた現場を見たことです。あるおばあちゃんが猫に餌をあげている所におじいちゃんが出くわしました。実はそのおじいちゃんもその猫を世話していて、その猫が立ち話のきっかけになっていました。コミュニティをテーマにした建築の設計は、ハード面に目を向けがちで「空間」を作れば、コミュニティが生まれるのではないかといった提案が多いのかと思います。
ですが私は、この状況を見たときに、コミュニティというものは実はその基盤が日常の中に潜んでいて、何かのきっかけで目に見えてくるようなものだと思いました。そこで猫が既存のコミュニティに気づかせてくれるような提案にしたいと思いました。
-GORON:
確かに、コミュニティは「場」を用意するだけで生まれるものではなく、本来もっと自発的なものですよね。猫はそこに住む人達にとって、とても身近で人々をつないでくれる存在。そこに気づかれて、焦点をあてたのですね。
それでは、敷地は北九州市の地域を選ばれましたが、その理由は何でしょうか。
本木さん:
敷地は、卒業設計で研究対象地にした地域 -北九州市若松区桜町・浜松地区- です。
実際に猫によって人と人のつながりが生まれた現場を見た場所でもあります。
ここはかつて石炭積出港として栄えた町で、古くからの長屋形式の住宅が今も残っていて、猫をよく見かけました。しかし、ここ数年では、主に長屋形式の住宅を取り壊して戸建て住宅を新築する傾向があります。そうなると、公私あいまいな狭い街路であったり、ちょっとした庇であったり、猫の好きな居場所が無くなりつつあるのではないかと思いました。
そこで、空き家、空き部屋になった既存の住宅を活用する提案とすることで、猫の居場所を残しつつも、賃貸住宅に住む人と関われる場所を取り入れることができるのではないかと思い、この地域を対象にしました。
-GORON:
なるほど、現存する空き家の活用による提案なのですね。空き家を残すと同時に猫たちの好む家と家との隙間や狭い場所といった環境を温存して生かす。猫にとってもやさしい提案ですね。
提案された賃貸住宅に住まう、入居者はどのような想定か(世代、特徴など)具体的なイメージはありますか?
本木さん:
空き家、空き部屋を活用する提案なので、既存の住宅の大きさによって入居者は様々な人をイメージしました。今回提案した4戸長屋では、入居者は3世帯の家族であったり、カフェなどを経営する2世帯家族であったり、近くの工場や病院に通勤する単独世帯であったり、大学に通う学生であったりと想定し、多様な世代が猫を介して地域とつながっていけばいいなと思いました。
-GORON:
素敵ですね。多様な世代が猫を介して交流するイメージ、とてもわくわくします。
ところで、猫達は、計画の地域を自由に動き回る想定ですか、あるいは限定したエリアに限られているのでしょうか。
また、いわゆる「地域猫」として複数の住人が面倒をみる猫、あるいは入居者が所有する猫なのか、そのあたりの想定はありますか?
本木さん:
猫の動き回るエリアは特に限定してはいません。1匹の猫がどのくらいの広さのエリアを動き回っているのかは個体差があり、あるエリアに限定して動く猫もいれば、もっと広く動き回る猫もいるのかもしれません。
ですが、どちらにしても猫は自由気ままに毎日を過ごしているイメージなので、その日その日に応じた暮らし方をしているのかなと思っています。
例えば、この日のこの時間帯には、ここの主婦は餌をくれる。晴れた日には、ここでお昼寝をする。寒い日は、狭い場所で丸くなってやり過ごすなどです。
ただ一つ想定しているのは、町を徘徊する猫であるということで、猫は地域猫でもいいし、入居者が所有する猫でもいいし、町の住人が所有する猫でもいいと思っています。見かけた猫は、首輪をしている猫もいればしていない猫もいたので、いずれの場合でも1匹の猫には多くの人が関わっているのかと思います。
-GORON:
おっしゃるとおり、猫の自由気ままに過ごすところは、猫の習性でもあり、魅力のひとつですよね。
一方で、猫と賃貸住宅の入居者と、地域の住民を含めた広いエリアで考えたとき、一定のルールは必要になるのかと思います。
例えば、どの猫はどこに帰属していてるか明確に周知させる等。猫の幸せのためには命を預かる責任も発生します。
また、自由に地域を動く猫を許容してくれる住民とそうではない住民が存在することも否めません。
その場合、例えば「猫の自由特区」のようなエリアを限定して、その範囲内では住民に許可を得るなど、地域全体でお互いが気持ちよく暮すためのルールづくりが必要になるかもしれませんね。
お話を伺っていて、本木さんの作品の魅力は、身近なコミュニティ(=猫コミニティ)の再発見、また、空き家を含めた町全体を活用するといった、既に存在している要素を生かし発展させているところだと感じます。
計画された中で、特に注力したこと、こだわったことなどは何でしょうか。
本木さん:
特に注力したところは、猫の場所と人の場所が交わる空間を作ることです。
まず始めに、猫の日常に中で気に入りそうな空間について、私が実際にみた猫の居場所やネットの情報から考えました。そして、それらの空間を人スケールに落とし込む時に、人がその空間をどう使うのだろうか、どういった空間が心地よいのだろうかと、いくつかのシーンを思い浮かべながら形にしていきました。最終的には、5つのタイプの猫と人の日常が交わるような場所を作りました。
-GORON:
本木さん自身の猫や、ペットにまつわる思い出深い経験がありましたら、お聞かせください。
本木さん:
私は、動物を飼ったことが無いのですが、強いて言えば、学部4年生の夏の日、買い物の帰りに野良猫と関わったことです。その野良猫は、私の家の前まで着いてきて、少し戯れて私は家の中に入りましたが、玄関の前でいつまでも鳴いていました。そこでお腹が減っているのかと思い、ミルクをあげました。そうすると案の定凄い勢いで飲み干して帰っていきました。
最近、猫がブームとなっている反面で、捨てられた猫たちはこういった厳しい生活を強いられているのだと改めて実感しました。
-GORON:
昨今、猫にまつわる社会問題/保護猫、殺処分ゼロ、多頭飼育崩壊、などの取り組みが活発になり、また猫が一種の社会ブームになっている風潮があります。そのことに関して、何か思うことがありますか?
本木さん:
猫は自由気ままの象徴といったイメージがあります。猫ブームは、猫が、散歩させる必要がないために犬よりも世話がかからないといった要因の他に、現代の社会に暮らす人々が自由気ままな生活を追求している結果なのかもしれません。建築のアイデアコンペでも最近では、猫の自由きままな暮らしをテーマに作品を作っている提案をよく見かけます。しかし、自由気ままな暮らしを追い求めるのは良いですが、飼い方にも自由気ままになるのはどうかなと思います。私の野良猫との実体験に基づくように、しっかりと世話されない猫がどういった暮らしを経験するのかを考えて飼ってほしいと思います。
-GORON:
そうですね、「気ままな猫」を「気ままに飼う」ことは許されないことですね。
猫も含め動物を飼うことは命を預かりその責任を負うこと、猫を不幸にしないために時間も費用もやはりかかるのです。飼育するひとりひとりがそのことをまず念頭に置き、大切にして欲しい、その結果「私は動物が好きでも今は無理だから飼わない」という選択も十分あるのだと思うのです。
今回は、作品の内容からさらに猫やペットの現状について、たくさんの魅力的なお話をありがとうございました。