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犬と猫との住まいの工夫 第3回 保護犬ルイスとの生活

月日は流れ、犬と猫と暮らす我が家も住み始めてから、4年を経過しようとしています。

その間に、我が家にも変化が訪れました。
ミニチュアシュナウツァーのルッコラが、2ヶ月余りの闘病の末に、わずか7歳10ヶ月で亡くなってしまいました。
突然訪れた悲しみに、夫も私も「ペットロス」に陥り、しばらくの間、いつもそばにいたルッコラの存在と温もりが忘れられずにいました。
そして、ごく自然にまた犬との生活を始めたいと思うようになったのです。

7歳という若さで亡くなってしまったルッコラ。
けして天寿を全うしたとは言えません。
今度また犬を迎えるときは、そのルッコラの生きられなかった分の命を引き継ぐように、恵まれない境遇で生きてきて困っている犬を引き取りたいと思うようになったのです。
そんな時に、あるご縁があり、保護犬だったルイス(ミックス犬・オス6才)と出会いました。

現在の我が家の「住まいの工夫」を紹介する前に、今回は、ルイスについて少しお話したいと思います。

 ルイスのこと

ルイスは、保護シェルターに引き取られ、新しい飼い主を探しているところでしたが、前の家庭で虐待とネグレクトを受けてきたので、人に対して不信感があり、急に攻撃的になる反面、とても甘えん坊でもあり、不安定な子でした。
飼うには難しそうなルイス、、我が家で引き取らなかったら、この仔はこの先どうなるのだろう・・。
そんな一抹の不安と、一方でルッコラと生活してきた経験から「なんとかなるだろう」という妙に楽観的な気持ちと、正直に言えばペットロスからはやく脱出したい、という自分本位な気持ちとが入り混じるなかで、ルイスを引き取ることにしたのです。

【我が家へ来た当初のルイス】どこか表情が不安気

一緒に住み始めてからのルイスは、保護シェルターにいた頃は抑えていた行動も現れ、問題でいっぱいでした。
まず、夫も私も「何かの拍子に噛まれ → 噛まれては叱り → さらに興奮して噛む」の悪循環で青あざの絶えない日々。
当然しつけもされていなかったので、家中で排泄をしてしまう、食べ物は隙あらば盗み食いする、と数々のトラブルに見舞われる日々。。

当然なのですが、過去になんらかの問題を経験した犬を飼うということが想像以上に大変なことを、生活の根幹が揺らぐほど痛切に思い知りました。
そして、安易な判断で引き取ることを決めたこと、これでもう一度ルイスをシェルターに戻したらさらに心の傷を深くさせてしまうことを思い、深く反省し、漸く事の重大さに気づいたのです。
途方に暮れていた私たちは、自身の防御のために、当然ルイスに怒り叱りで接し、決してルイスにとってよい態度を示していたとは言えませんでした。
ネットなどから情報を集め、あらゆる対策を試しましたが、一向によくなる気配はありませんでした。

そんなある日、いつものやりとりの最中、何か他にやめさせる方法はないかと思いめぐらし、先代犬のルッコラが嫌がっていたことをやってみたのです。
それは、ただ単に口で「プッ」と破裂音を出すこと。
ルッコラは、この音が嫌いで私たちがやると、そそくさと逃げたりしていました。
それをルイスが興奮して今にも噛みつこうとしているときに同じようにやってみました。
すると、今まで興奮してガウガウが止まらなかったルイスがその音に反応して、一瞬我に返って首を傾げ、キョトンとおとなしくなったのです。
その様子がなんともおかしくて、私たちもつい笑ってしまいました。
その瞬間に、怒りモードだった空気が一変して、なんだか和やかな雰囲気になったのです。

この出来事を境に、ルイスが起こす「悪いこと」に対してただただ「叱る・怒る」といった否定形をつくるのではなく、ちょっとその場の空気を変えてみる、いったん落ち着かせる、という流れにしていきました。
こちらも無駄にルイスを怒ることが減ったので、ルイスも興奮する度合いが減り落ち着いていき、次第に私たちを噛むこともなくなっていきました。
「私たちは、噛まれなくて済む」「ルイスは、噛まないでいられる」
という関係になり、お互いのストレスが徐々に減っていき、ルイスとこの先も一緒になんとか生活していけそうだという希望が持てたのです。

その後、ルイスの問題行動について、プロのトレーナーさんに相談し、トレーニングをしてもらいながら、飼い主も色々と教えられ、経験をする日々を続けています。
トレーニングを通じて、さらにルイスの性格を理解し、ルイスが苦手なこと、そしてルイスの良い面も再確認しながら、現在のルイスとの向き合い方を考えています。
ひとつひとつの問題行動への対処法も試しながら、反応をみながら続けていくことで、定着していき、ルイスも完全ではないながらも徐々に落ち着いてきました。

【現在のルイス】堂々とした風格に

さて、テーマである「犬と猫との住まいの工夫」ですが、ルイスの登場により、生活スタイルも含めて住まいのあり方も随分と変化しました。

 猫のくろちゃんとの住み分け

ルイスは、今まで猫と触れ合う経験がなかったのか、そもそも狩猟本能が高いのか、当初先住猫のくろちゃんを追いかけまわしてしまいました。
それにより、くろちゃんは、一時期かなりのストレスを受けて「引きこもり」状態になり、上の階から降りてこなくなりました。
急遽くろちゃんとルイスの完全な「住み分け」をする必要が生じたのです。
まずは、くろちゃんが絶対的に安心できる場所を確保するべく、2階より上の階にはルイスが入れないようにし、上の階にもくろちゃん用のトイレを追加しました。

階段には、進入禁止のゲートの代わりに、夫がDIYした「ついたて」を設置。
板を丁番で継ぎ合わせた折れ戸式の簡単なものですが、階段下にいるルイスからはかなりの高さに感じ、上ってくることはありません。
我々にとっても開け閉めすることなく、ついたてをまたぐだけで良いので上り下りがスムーズです。

現在は、くろちゃんとルイスの関係も改善し、くろちゃんも下の階で過ごしていますが、上下階のエリア分けは徹底して継続しています。

階段に置かれた「ついたて」
これよりエリア分け、ルイスは上の階へ進入禁止

 ルイスの行動エリアの明確化

*神経質で臆病、外界からの刺激(来客、ピンポン等)に過剰に反応するルイス。
*おそらく飢えて育ったのか、食べ物に異常に執着するルイス。

そんなルイスのために、玄関とキッチンにルイスが立ち入らないようにガードをする必要が生じました。
また、ダイニングとリビングのみをルイスの行動エリアとして明確化し、行動範囲を制限することで、興奮しやすいルイスも落ち着いて過ごすことができます。

キッチンの出入口には、試しに間に合わせで簡易的なつっぱり棒を利用したフェンスを設置してみたました。
ルイスは、これだけで一度もキッチンに入ったことがありません。
「入れない場所=自分の行動エリア外」と認識するとあっさり諦め、それ以降キッチンに興味を示さなくなりました。

一方、玄関は、簡易的なゲートだけではピンポンが鳴ったときに、ものすごい勢いで飛び越えてしまいます。
しっかりとした扉やゲートを新たに設置することも考えられるのですが、構造上設置が難しい我が家では、次に紹介する「安心できる場所」の確保で対処しています。

【左】キッチン手前のつっぱり棒のフェンス
【右】玄関へのゲートだがこちらは軽く乗り越えてしまう

 「安心できる居場所」の確保

虐待を受けてきたルイスは、人への不信感・環境への不安などが強く神経質です。
そんな性格の犬ほど「生活をシンプルにしてあげること」が大事になります。

*ルイスの行動範囲
*一日の習慣とスケジュール
*そして、ルイスの居場所

それらがしっかりと決まっていることが、ルイスにとっての安心につながるのです。
幸いにも、ルイスは、ゲージの中に居ることを嫌がらず、むしろ入ると落ち着いていられます。
前の家庭でも唯一安心できる場所がゲージの中だったのかもしれません。

それをメリットとしてとらえ、よりゲージの中が自分の居場所として好きになるように、ルイスの一日の習慣をゲージを拠り所にして修正していきました。

例えば、
・ゲージの中で朝ごはん
・日中の留守番もゲージ
・夜に寝るのもゲージ
というように。

最始は、大好きなおやつを利用したりしてゲージに入るように誘導したり、ゲージに入ったら褒めるの繰り返しで、ルイスが『ゲージに入ると楽しいことがある!』と覚え、より好きになるようにしていきました。
「安心できる居場所」=ゲージの中 とはっきり理解されることで、外界からの刺激などルイスにとってストレスの要因が起こったときも、ここに逃げ込めればよいと思うようになるのです。
(現在、まだその域まで達していませんが・・)

また、荷物の配達などはなるべく時間と曜日を指定して、その時間帯は、ルイスをゲージインしておくことをルール化。
飼い主の方でコントロールできることはなるべくして、無駄にルイスに刺激を与えないようにしています。
それにより、ルイスの一日のスケジュールが大体毎日同じになり、朝夕の十分な散歩と夜のリラックスタイム以外の日中は、ほぼゲージインをする生活。
ルイスにとっては、決まった習慣で過ごすことがむしろ安心につながっているように感じます。

リビングのゲージでくつろぐルイス

 「人」目線から「犬」目線への住まいの工夫の変化

前回までに紹介してきた我が家での「ペットと暮らす住まいの工夫」は、主に人間の使い勝手や利便性、快適性を優先した内容でした。
ルイスとの生活が始まってからは、それに加えて、ルイスが安心して暮らせるために何が必要か、ふさわしいのかを考えることが主になり、犬側からの目線で考えることが多くなりました
それにより、当初予想していなかった状況が生まれ、生活そのものもさらなる変化と工夫、ルールづくりと考えなければなりません。
また、反省点もあります。

例えば、狭小住宅の我が家のリビングは狭く、ルイスにとって十分な広さのゲージを置くとさらに余裕がない状態に。
先代犬のルッコラは、家じゅうを自由に過ごしてゲージに入る習慣がなかったので、ゲージの置き場所の計画はしませんでした。

リビングの中央に置かれたゲージ、ソファーと向き合う配置になるので
ルイスが休む時は布をかけて落ち着くようにしている

本来なら、「犬の居場所」を適切な位置に配置することも設計の計画に取り込んでおくべきだったのだと思います。

犬と猫との住まいの工夫
第2回 狭小住宅のアイディア

遠藤昌子

遠藤昌子

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(えんどうまさこ)

犬と猫を愛する一級建築士
愛玩動物飼養管理士2級

設計事務所、大学助手勤務を経て2017年アトリエエンドウ一級建築士事務所設立。
暮らしにまつわる小さなプロダクトからインテリア、建築まで住まいのトータルデザインを目指して活動している。

アトリエエンドウ一級建築士事務所ホームページ:http://at-endo.com

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