すまい

犬と猫との住まいの工夫 第1回 住宅密集地に建つ狭小住宅

東京の住宅街に建つ、夫と共に設計した小さな家での暮らしは、今年で3年目を迎えました。
都会の狭小住宅で、どのように快適に居心地よく生活できるかを考えた家づくりは、知恵や工夫が問われる作業でしたが多くの新しい発見もありました。
これからこの家を題材に、犬と猫と暮らす住まいでの気づきや反省点、取り入れた工夫やアイディアなどをご紹介していきたいと思います。

我が家には、結婚前から夫が飼っていた猫のくろちゃん(オス推定12才)と結婚後に迎え入れたミニチュアシュナウザ―のルッコラと暮らしていましたが、ルッコラは昨年亡くなり、現在は保護犬出身のミックス犬のルイス(オス6才)とくろちゃんと夫婦2人で暮しています。

《我が家のスペック》
敷地面積70㎡、床面積合計約70㎡、階数2階建て+ロフト付き

いわゆる狭小住宅です。住宅密集地での狭小住宅の設計は、
・狭さとどう付き合うか?
・光をどう取り入れるか?
・近隣との関係をどう保つか?

大きくこの3つの難題にぶつかります。

2階から中央階段をみる。斜めの天井には光を取り入れるトップライト

 

狭さとどう付き合うか?

一般的な○LDKのような間取りを壁で区切って計画すると一部屋一部屋が小さく、ただでさえ狭い家がより窮屈に感じでしまいがちです。
そこで、壁やドアは極力減らし、1階→中1階→2階→中2階→ロフト、というように半階ずつあげていく「スキップフロア」という構成にしました。
あえて段差をつくることで、部屋と部屋を壁やドアで区切らなくても、ゆるやかにゾーン分けされ、また視界も部屋から部屋へと遠くに抜けて、空間に広がりが感じられます。
よく言えば「開放的で気持ちがよい」のですが、家全体が一体的につながっているので、音や臭いや熱・温度もつながるため、その配慮や工夫が必要になります。

例えば、夜どちらかひとりが寝てしまえば、もうひとりはテレビの音を下げて、照明をなるべく落とし、騒がしくしないなど、お互いに気遣いあうことを余儀なくされます。(笑)
熱や臭いに関しては、コントロールが必要です。
空気の流れをシュミレーションしながら、開口部の位置や空調・機械設備の計画を慎重に行いました。

暮し始めてみると、この家は犬や猫にとっても案外快適なようです。
例えば、下の階に犬がいて、上の階で私が作業をしていても、なんとなくお互いの気配を感じることができ、犬は孤立感を感じることなく、安心してくつろいで寝ています。
言ってみれば、「個室がない家」
それは、犬と猫も含めた家族がひとつ屋根の下で暮らしているといった一体感があり、それぞれが一緒に暮らす上での工夫を見出し慣れてしまえば、快適なのでした。
私が、日中家で作業をしているときは、家全体でワンルームのように感じられ、それもまた居心地が良いのです。

 

光をどう取り入れるか?

周囲に隣家が迫るわが家は、日当たりがよくありません。
そこで、間取りを工夫し、思い切って階段を家の中央に配置しました。
階段の真上に天井にトップライト(天窓)を設けて、階段の吹き抜けを介して光が上から下階へ降り注ぐように計画したのです。

階段からのぞき込む2匹

 

一般的に、階段は家の隅に追いやられ、脇役的な存在ですが、家の中央にあることで、踊り場が部屋の一部となり、ステップは腰かけてテレビをみる椅子になったり、犬猫の世話をするスペースになったり、なにかと活用できる場になります。
最大のメリットは、階段がキャットタワーならぬキャットステップとなったこと。
わが家の長老猫「くろちゃん」にとっては、勢いよくかけ下りかけ上がりで運動したり、高い位置から我々の様子を眺めながらくつろいだりと、お気に入りの場所になっています。

 

近隣との関係をどう保つか?

我が家は北側が道路なので、道路側からの採光は、あまり望めません。
ただ暮らし始めて気付いたのは、お向かい側の家は南向きで日当たりがよいのに、日中ほとんど雨戸やカーテンを閉めっぱなしなのです。
なぜなのでしょうか?

理由のひとつは、道路と家の距離が近いため、窓を開け放すと家の中が丸見えで、道行く人も住人も互いに気まずい思いをしてしまい、閉じることが常習化しているのではないかと思われます。
特に、犬を飼っている家は、道路と家の距離が近い場合、犬が窓の外を歩く人や車に神経質になり吠えてしまうため、注意が必要です。


中1階のリビング、道路に面して小窓がひとつ

 

我が家の前面道路側に設けた小さな窓は、道路の高さより半階あがっているので、窓から眺める視線の高さと、外を歩く人や車の視線の高さとずれていて、視線のバッティングが起こりにくくなっています。
犬にとっても、外界からの刺激の少ない落ち着ける空間になり、安心して過ごしています。


リビングで昼寝するルッコラ

 

また、玄関の前にはアルコーブ(※1)を設けたり、プランニングの工夫で小さな中庭を確保したり、狭い敷地ながらも外部との干渉ゾーンになる小さな外部空間を取り入れるようにしました。


玄関前のアルコーブでくつろぐルッコラ

 

次回は、ペットとの住まいの工夫の実例をより詳しくご紹介していきます。

建物写真提供:遠藤義則

※1:「アルコーブ」とは
壁の一部をくぼませてつくった空間。今回は、道路から少し後退させた玄関前部分。
玄関ドア開閉時に部屋の中が見えてしまうのを防ぐ、プライベートに配慮したつくり。

遠藤昌子

遠藤昌子

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(えんどうまさこ)

犬と猫を愛する一級建築士
愛玩動物飼養管理士2級

設計事務所、大学助手勤務を経て2017年アトリエエンドウ一級建築士事務所設立。
暮らしにまつわる小さなプロダクトからインテリア、建築まで住まいのトータルデザインを目指して活動している。

アトリエエンドウ一級建築士事務所ホームページ:http://at-endo.com

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