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犬と暮らす家づくり 第3回 斜面地を活かす家づくり

犬と暮らす家づくり

第3回 斜面地を活かす家づくり

遠山 信夫(建築家)


 前回までは、遠山さん宅の3匹の犬と1匹の猫と、その暮らしについてお伝えしてきました。今回は、遠山さんの建築家としてのお話を、遠山邸やお客様の邸宅の設計などをまじえてお伝えしていきます。

 卒業文集が現実に

- 遠山さんは建築家になりたいと思ったのはいつ頃でしょうか。

 小さいときから家を作りたいと思っていました。卒業文集にも、「建築家になる」と書いていました。何でなろうと思っていたのかわからないのですけれど・・・。どこかの建物を見たという記憶もあまりないんです。ただ「住宅をつくりたい」というわけではなくて、卒業文集には「世界一高いビルを設計する」と書いていました。そういう憧れがあったのでしょうね。子どもらしいですね。

― 遠山さんの設計された物件を拝見すると、ガラスを使われたり竹を使われたり、特徴があるように感じますが、何か原点のようなものがあるのでしょうか。

 私の好みなのでしょうね。ただ、好みやデザインは、何年かごとに変わっていきます。それぞれの建築家のデザインも、時代や年代で流行があります。お互いにまねるわけではないのですが、全体的な好みや流行のようなものがあります。歴史や流れをふまえて、みんなが同時に発想するような感じです。

 犬が動き回れる家

- この家を設計するときに、犬のために考えた点などはございますか。

南庭からみた遠山邸

 そのときは、室内犬しかいなかったので、犬が室内を動き回れるように考えていたくらいなんです。平屋にして、部屋のドアをなくすことで、犬が動きやすいようにしています。

 じつは、この家は斜面地に建っていて、一番高いところから、一番低いところまでの高低差が3メートルくらいあります。それぞれの部屋を棟に分け、廊下がゆるやかな坂になっています。各棟の間を、犬が動き回れるようになっているんです。

遠山邸図面
遠山邸の平面図: 建物を平屋にすることで、小さな犬でも移動しやすいようになっている。
エントランス(図面上部)が一番高い位置にあり、南庭(図面下部)に向かって斜面地になっており、
3メートルほどの高低差がある。

3匹の犬とリビング

 床をタイルにすることで、手入れをしやすくしています。フローリングは、犬にはあまり向かないんです。滑るし、尿が浸み込んだりするとにおいが染み付いたりします。しつけがシビアになってしまいます。床がタイルだったら、モップで拭くだけで済みます。

 東庭にあるくぐり戸はあとからつけたもので、設計段階からではないんです。クーは東庭にいるのがお気に入りですが、くぐり戸はまったく使いません。ガラスの扉をガリガリやって音を立てて私たちに知らせます。そのたびに私たちが扉を開けています。

 

― 得意とされている分野や、とくにお仕事をされている分野などはございますか。

 住宅系の設計が多いですね。一戸建てや共同住宅です。

 H邸では、トイプードルを6匹飼っていらっしゃっています。犬専用のルームがあり、庭とつながっています。犬はその間を自由に動き回れます。リビング・ダイニング・キッチンとドッグルームは、床材もタイルでできています。

H邸
 H邸の外観、デッキ、キッチン: 窓からの景色は海が広がる。

 私の家が雑誌に掲載されたのをみて連絡をくださったので、床材をタイルにされたり壁色を白くされたり、希望が私の家と近いものになっています。こちらも同じように斜面地に建てています。

― このほかの物件では、どのようなものがございますか。

 千葉にお住まいのK邸は、施主の方が趣味的に作っている住宅で、工事に5年間かかっています。土地が1200坪、建物が平屋で120坪あり、かなり大きな住宅です。犬が2匹、猫が2匹おり、やはり床がタイル張りになっています。犬と猫は、リビング・ダイニング・キッチンを動き回れます。

 円乗院という納骨堂は、ペットの供養塔もあります。檀家さんからの要望もあって作ったんです。マンションのような納骨堂で、お墓をもてない事情がある方が預けられたりしているようです。

 F邸は、テレビ番組「建物探訪」に取り上げられたあとにご連絡いただいて設計をしたんです。ペットは飼われていないのですが、この家(遠山邸)と同じように斜面地に建てています。

斜面地に建つF邸
斜面地に建つF邸

 ほかには賃貸住宅、貸事務所、老人介護施設の設計なども行ってきました。明治時代に建てた家のリフォームなどもあります。

 

- テレビや雑誌に取り上げられた後の反応はいかがでしたか。

 テレビ番組「建物探訪」に取り上げられたときは、問い合わせがかなりありました。週末の番組なのですが、休み明けの月曜・火曜はかなり電話がありました。千葉のK邸や、F邸などは、このときに問い合わせをいただいたものです。

 この番組のあと、雑誌の取材依頼もありました。テレビには瞬発力がありますね。

 ペットを飼っているからこその設計

― 共生住宅の設計もされているそうですね。

 アドバンスネットのペット共生住宅の設計仕様書を作っています。床材や壁紙などの標準を決めているもので、住宅メーカーさんに「この仕様書で作ってください」と指示できるようになっています。

 床材のフローリング風のシートは、ペットの尿が床に浸み込みにくく、傷がつきにくいものです。ビニールのような素材で、滑りにくくもなっています。このあたりは、ペットを飼っているからこそ設計に活かすことができています。

- 賃貸住宅と分譲住宅のちがいのようなものはありますか。

 賃貸住宅の場合には、お客さまは建物の外観についてはあまり気になさらないんです。下見をされた方に「壁の色は何色だった?」と聞いても覚えていないくらいなんですね。「エントランスがきれいだった」というような感想はおっしゃるんですけれども。そのぶん、部屋のつくりにコストをかけるようにしています。部屋の間取りや、部屋の中の美しさなどには力を入れています。

 一方で分譲住宅の場合には、住宅の外観も重要になります。外観も含めて自分の家という意識があるんですね。ですから両者では、売り出すための作戦がちがうんですよ。

- そういえば、共生住宅には畳の部屋はないですね。

 畳の部屋があると、しつけをシビアにしないといけないんです。犬も、ここはしてもよい場所なんじゃないかと勘違いしやすいんですね。ですから、飼い主さんからみても畳の部屋はわずらわしいと思います。

 共生住宅は、ドアをなくしてペットが動き回れるようにしたいというコンセプトもありますので、ふすまやドアで仕切ってしまうと、共生住宅のコンセプトと相反してしまうのです。

犬と暮らす家づくり
第2回 ペットとの日々

犬と暮らす家づくり
第4回 人間が快適なら犬も快適

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遠山信夫

投稿者の記事一覧

(とおやま のぶお)

建築家/一級建築士

ADD都市建築事務所を経て、2007年、神奈川県相模原市に遠山信夫アトリエ設立。
 1989年新建築社主催「都市の自然を呼吸する住まい」優秀賞受賞。
 作品掲載歴・テレビ取材歴に、『建築家の自邸2』(えい出版社)、『Esquire 2003年11月号
』(エスクァイアマガジンジャパン)、『犬と住む家 Vol2』(学研)、『シンプルスタイルのインテリア』(成美堂出版)、『いつかは住みたい憧れのインテリア』(成美堂出版)、『デザインリフォーム』(芸文社)、『建物探訪』(テレビ朝日、2003年)、『イブニングファイブ』(TBS、2007年)などがある。

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