家の前でトレーニングしていると、元気よく吠えながら歩く犬の飼い主さんから、よく声かけられます。
「お宅のワンちゃんはおりこうね~
うちの子はダメだわ~全然しつけしてこなかったから・・
『血のにじむような苦労をしているんですよ~』と言いたいところですが、「ありがとうございます、犬のしつけが楽しいもので」とお返事することにしています。
すると大抵の方はぽかんとしたお顔をされ、会話が終わってしまいます。
先日は、車の中でクレートに入り熟睡する我が家の愛犬を見て驚かれた方が、
「愛犬とドライブに行きたいけど、
クレートを使ったことがないからずっと抱っこなんです。
長時間だと辛そうだけど、今からクレートに入れるのもかわいそうで・・・
しつけしておけば良かったんですよね」
と話されてました。
仔犬は、とにかく可愛らしく、もうちょっと大人になるまでは自由にのびのびと過ごさせてあげようという飼い主さんも多いでしょう。
そして、気付いたときには、色々な問題を抱えて成犬になり、それも仕方ないとあきらめてしまう方が多いように思います。
仔犬と成犬の学習のスピードには当然差がありますが、成犬だからできないと決め付けることに、大声で異議を唱えます。
「クレートに入り静かにすること」
「知らない場所に行くこと」
「他人・他犬と接すること」
これらを苦手とする犬は、確かに慣れていくのに時間と根気がいりますし、その犬の性質上、どうしても受け入れられないケースもあります。
ですがその見極めは、飼い主さん自身ではなく経験豊富なプロのトレーナーさんにゆだねてみてはどうでしょうか。
特に、犬の社会化(*1)に関しては、理解あるトレーナーさんのもとで、時間をかけて楽しく正しい経験を積み重ねることで、克服できることが多いと感じます。
ただ犬任せにしてドッグランで勝手に遊ばせているだけでは、かえってトラブルを誘発してしまい、何の社会化にもなりません。
まずは、理解ある人から飼い主が学ぶ。
そして、犬は、きちんとトレーニングされた犬から犬社会の振る舞いを学ぶ。
安全な環境の中で、飼い主と犬とが一緒にトレーニングし、経験を積み重ねることがとても大切なのです。
私も数例ではありますが、社会化に問題を抱えた成犬たちとトレーニングをした経験があります。
* 怖くて知らない場所にいられない
* 他の犬を噛んでしまう
* 他人に身体を触らせない
そんな犬たちでした。
その子達と定期的に、一緒にトレーニングし、遊び、数時間同じ空間で楽しみながら過ごすということを一年以上続けた結果、みんな徐々に変わっていきました。
* 怖がっていた犬は、自分から進んでトレーニングに来るようになり
* 噛み癖のあった犬は、気に障ることがあっても自制ことが増え
* 他人に身体を触らせない犬は、なんとおやつをねだりに来るという、劇的な変化を遂げました。
そして、最初その犬たちは、他の犬との輪に入れずにいましたが、問題を克服しだした頃から、徐々に他の犬とも触れ合えるようになりました。
とげとげしい表情も穏やかになり、優しくキラキラした目に変わったことで、他の犬も受け入れるようになったのでしょう。
犬の社会化の問題は、色々な条件が満たされないと、なかなか克服できないことも事実です。
理解あるトレーナー
飼い主さんとの楽しいトレーニングの時間
自宅以外の、拠点となる安全な空間
きちんと社会化された犬との関わり
他のトレーニングにしても、今まで自由にしていた分、少し窮屈な思いをさせるかもしれませんし、スムーズに進まないことも多いでしょう。
それでも
色々な場所に躊躇なく愛犬と行くことができる、それだけで愛犬との世界がぐんと広がります。
また、不測の事態で愛犬を他人に委ねることになった時、他人が触れない、クレートで大人しくできない犬はどうなってしまうでしょう?
そこから慌ててトレーニングしても遅いのです。
犬は学習することに喜びを覚えてくれる動物ですが、犬だけでは学習できません。
大好きな飼い主さんと一緒だからこそ、そこに楽しみを見出してくれるのです。
どうか『今さら・・・』とあきらめず、愛犬と一緒に新しい喜びを見つけ出してみてください。
*1 犬の社会化とは
人間社会で犬が一緒に暮らしていくために、社会での出来事に犬自身が対応できるよう、あらゆる環境に慣らしていくことをいいます。