愛犬が、明らかに様子が変になったり、突然倒れたりしたとき、その症状に心当たりがあれば、少しでも落ち着いて対処することができます。
今回は、犬種を問わずシニア犬が突発的に発症することがある「前庭疾患」についてお話しします。
「前庭疾患」とは、どんな病気?
前庭疾患とは、様々な原因で平衡感覚を失ってしまう病気です。
犬種は問わず、シニア犬に発症することが多く、発症してから24時間以内に病気の症状がピークになることが多く、その症状は軽度なものから重度なものまであります。
また、気圧の変化を受けたり、特定の季節に症状することもあります。
その徴候は分かりづらいこともあり、突然の発症に飼い主さんが慌ててしまうことが多くあります。
動物は、両耳にある三半規管で平衡感覚を保ちます。
「前庭疾患」は、その「三半規管」や信号を受け取る「脳」もしくは中継する「神経」が何らかの原因で機能しなくなり、平衡感覚がとれずグルグルと目が回ってしまうような感覚、乗り物酔いをしているような状態になります。
発症すると平衡感覚を保つことが出来なくなるほか、様々な脳神経異常を起こします。
「前庭疾患」の症状とは?
症状は、突然起こる場合と徐々に起こる場合があります。
体のバランスをうまく保つことが出来なくなるため、めまいやよろめきが起こります。
そしてまっすぐ歩くことが出来なくなり重症の場合は倒れてしまいます。
さらに嘔吐なども起こり重傷となることもあります。
首の筋肉の収縮力が低下することで首が傾く「捻転斜頚」、眼を見ると一定のリズムで揺れ眼球がグルグル回転する「眼振」が特徴的な症状。
歩こうとするとバランスを崩したり一方向にグルグル回ってしまったりすることが非常に多く見られる症状です。
発症後、眼振は4日間位で見られなくなりますがよろめきなどの運動失調は3~6週間続き、その後徐々に回復に向かいます。
一般的に前庭疾患は治癒する病気ですが、症状によっては回復後も後遺症がのこることもあります。
発症原因と診断方法は
【 発症原因 】
・三半規管の障害で発症する場
内耳炎、ポリープ(猫)、耳の中の腫瘍、外傷、内耳に毒性のある薬物の投与、老犬に多い特発性急性前庭障害、(甲状腺機能低下症)
・脳の障害で発症する場合
脳腫瘍、脳炎、脳梗塞、メトロニダゾール中毒、(甲状腺機能低下症)、外傷
【 診断方法 】
前庭疾患は原因不明で起こる病気のため、確定診断はありません。
病歴と神経学的検査が大切です。
他の病気を除外することで前庭疾患であると診断します。
■神経機能の検査から神経症状がないこと
■急性内耳炎・内耳ポリープでないこと
■血液検査や尿検査において、他の疾患や炎症がないこと
■病歴を調べ、頭部の外傷や中毒の可能性がないこと
■CTで脳内に腫瘍がないこと
治療方法
前庭障害は原因不明の病気で急激にひどい症状が出ることが多いですが、4日後位から徐々に改善し始め、数週間で回復することが多い病気です。
症状の状態により後遺症が残ることがありますが、通常は4日間の入院治療、その後自宅での療養で回復します。
内耳炎やポリープが原因の場合は、投薬や手術によって治療されることが多いですが、障害が重度な場合には治療をしても機能が完全には回復しないこともありますので早期の積極的な治療が大切です。
脳腫瘍、脳炎、脳梗塞などは原因の病気を治す事が大切ですが、脳幹は手術が非常に難しい部位なため、脳腫瘍の治療は一般的に非常に困難です。
前庭疾患は時間と共に穏やかに改善していくケースがほとんどですが、症状が徐々に重くなっていくようなら要注意です。その場合は脳に異常がある可能性があるため、改善は難しくなります。
また、シニアに多く発生するため、このまま痴呆の症状が出て起立不能の状態が続き、寝たきりになるケースもあります。
入院と自宅療養
「前庭疾患」は、時間が経てばほとんどが自然治癒する病気です。
前庭疾患は、目が回っている状態であり、動くことで気分が悪くならないように静かに寝かせておきながら病気の治療をできる「入院治療」と、完全に安静にすることが難しくも愛犬が安心して過ごすことができる「在宅治療」それぞれに利点はあります。
最終的には、回復するまでの間、自宅での看護が必要不可欠になります。
【よろめきが起きて転倒してしまう場合】
倒れた時に外傷を負わないように角のある家具をやわらかいものでカバーします。
また、イスやテーブルなどはできる限り置かないようにし、広い場所を設けます。
【寝たきりになった場合】
床ずれが出来てしまうことも多くなります。
寝返りをさせたり、床ずれを防止する素材を敷くことによって床ずれを軽減させます。
「前庭疾患」は、病院での治療以上に、毎日一緒に暮らす飼い主さんや家族の看護がとても大事になるのです。