犬と共に踏み出す一歩
「KIDOGS」
第3回 若者と保護犬
KIDOGS 犬の講師 里見潤
KIDOGS 犬の講師 里見潤
KIDOGSの自立支援プログラムに参加する若者は、保護犬を1頭担当する。
雑種犬のメスの「グラ」を今月から通い始めている若者が、担当することになった。
グラはシャイな性格で、人が触ろう・撫でようとすると、怖がって避けようとすることがある。
人は、可愛がりたいだけ。でも、グラは何をされるか分からない、、、だから人の行動が怖い。
グラの様子を見る限り、仔犬期に人から嫌なことをされてきたようにはみえない。けれども人とのいい経験をした体験が少ないから、人を信頼しきることができず、人から求められると不安になり、怖くなり、逃げようとしてしまう。
グラが、キドックス通い始めて約1年。
まだ、里親は決まらないが、通所当初に比べて性格は変わってきた。
スタッフ達が時間をかけて、グラの気持ちを想像し、怖がらないよう、安心しやすいような接し方を続けたことで、自分から人に近づく様子も見られるようになった。
だが、「若者」と「グラ」が会うのはまだ2回目、緊張や不安がお互いにある。
若者は、担当する保護犬の散歩・健康チェック・ケア・トレーニングを行う。
この日のドッグトレーニングでは、若者がグラに「スワレ」・「フセ」・「フセからのスワレ」を練習した。すぐにできたこともあるし、すぐにはできなかったこともある。
グラのような怖がりさんには、「スワレ」や「フセ」の形が上手にできること以上に、教えていく過程や信頼関係作りの方がより大切です。
グラにとって、人が「何かを教えようとする」=「何をされるのか分からない」ことで、不安になり怖くなってしまう。
人は、グラに教えたい。しかし、グラは、まだ人から教わる気持ちになっていない。
若者に、急ぐ必要はない、うまくいかなくても焦ったり急ぐ必要はないことを伝えた。
そしてその若者は、「どうしたらグラが怖がらないか?」「どうしたらグラに分かりやすいように伝えられるか?」グラの様子を観察しながら丁寧に向かい合っているように見えた。
プログラムの1日の終わりに、若者が感じ思ったことを書き出してもらう。
初めてトレーニングに参加したその若者の言葉にとても驚いた。
「自分の方が、グラに引っ張ってもらった気がする」
トレーニングする側である自分(若者)の方が、逆にグラに気持ちを引っ張ってもらっていた気がする・・・そういう意味で若者が記した言葉なのだと思う。
しかし、若者はまだキドックスの環境や人に慣れていないし、自分のことだけで精一杯のはずなのに、相手(グラ)の気持ちを感じ取ろうとしている言葉が出ていることに、本当に驚いた。
トレーニングは、「人の指示」で「人が求める行動」をするようにイヌに教えていくことが多い。
イヌの気持ちや心理状態に関係なく、知らず知らずのうちに、イヌをコントロールしようという意識が強くなってしまうことがある。私自身にもそういう時がある。
相手(イヌ)がどう思っているかを考え、
相手(イヌ)の気持ちに寄り添ってみてから、
自分(人)の伝えたいことを相手(イヌ)に分かりやすいように伝える。
人と人との関係も同じこと。
「自分の方が、グラに引っ張ってもらった気がする」
だから自分も犬のために何かをしてあげたい。
若者は、誰に教えられるでもなく、グラとのトレーニングを一方通行ではなく、相互のやり取りが行っていた。私には、そんな風に感じられました。
ドッグトレーニングでは、若者が保護犬に教えること以上に、保護犬から若者が教えてもらう・学ぶこと、気付かせてもらうことが多くある。私は、そう感じています。
これからグラが、どう変わっていくのか、どんな里親家族に決まるのか、とても楽しみ。
グラとトレーニングパートナーの若者が、「キドックスにもっとたくさん来たい」と言っていた。
それはグラのおかげかも。
NPO法人キドックス(KIDOGS)
http://kidogs.org/
キドックス 犬の講師 山田有紀子 Dog Training Wind Blume
http://wind-blume.com/index.html
Copyright © GORON by ペット共生アドバンスネット All rights reserved.