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絵本 『さいごのぞう』 作者 井上奈奈さんインタビュー

絵本 『さいごのぞう』
著者 :井上奈奈 絵・文
発行元:キーステージ21


 むかし、ぞうという動物がいました
 その足は、バオバブの木のように太く
     その鼻は、地平線のように長く
     その耳は、コンドルの翼のように壮大で
     その牙は、白く輝く宝石のようでした
さいごのぞうは、どこからか落ちてきたりんごに誘われて旅にでます。
行く先がどんなところだって、かまいません。
だってぞうにとって、ここはもう、かなしみばかりの場所なのですから…

■『さいごのぞう』作者 井上奈奈さん
 1月に刊行された絵本『さいごのぞう』(井上奈奈/絵・文 キーステージ21)。優しい瞳がかがやくぞうの横顔が印象的な表紙です。この世界からぞうという生き物がいなくなってしまう――それが何を意味するのか、そんなことを問いかけてくるようなこの絵本は、GORONのサイトデザインをしてくださった井上奈奈さんの絵本デビュー作です。
 横浜のギャラリー art Truthでグループ展を開かれていた井上さんに、絵本『さいごのぞう』に対する思いをうかがってきました。

———できあがった絵本を手にされて、いかがですか。

 「やっとここまでもってこられた」と、感無量です。表紙の絵が直前で変更になったので、はじめに思い描いていた絵本とは、がらりとイメージが変わったのですが、最終的には良い形にできたと思っています。たくさんの人からご意見をいただき、いろいろな方の気持ちが入ったものになったので、自分の作品でありながら、みんなで一つの作品を作り上げたという気持ちです。

———絵本の中で一番気に入っているページはどこですか?

 ぞうが月あかりに照らされて船の上で眠っているシーンです。編集者の方に、「お月さまの光を意識して、照らされているようなシーン」とリクエストをされて思い浮かんだ構図です。ストーリーの中ではとてもかなしい場面なのですが、ぞうがお月さまやりんごに見守られて、悲しいだけではなく、幸福感や心地よさも感じるシーンに描きたいなと思って、自分でもそれが表現できたように感じています。



———苦労したこと、楽しかったことはどんなことですか?

 この絵本の趣旨を理解して、思いを分かち合いながら本を作っていける、パートナーになってくださる出版社を探すのが一番大変でした。絵本というと、やはり子ども向けだからハッピーエンドに、と期待されることが多くて、でもこの話はどうしてもそういう方向にはもっていけなくて・・・。はじめてキーステージ21の方とお会いしたときに、「この絵本は、かなしくなければ意味がない絵本なんですよね」と言われた言葉がとても印象的で、ここと一緒に絵本を作りたいと思いました。出版社が決まってからは、文章を推敲したり絵を描き直したりということが重なって、はたから見るとそこからの方が大変と思われるかもしれないのですが、私はそこからの作業は楽しくて仕方がありませんでした。

———絵をずいぶん描き直されたとお聞きしましたが。

 気がつくと、最初に描いた絵は一つも残っていませんでした(笑)。元のイメージが変わってしまったのではと言われるのですが、逆ですね。元のイメージにより近づいた。表現したかったことがより際立つ形にできた、という気がしています。伝えたいことが具体化されていって、作り直していく中で見えてきたものもあります。パートナーの方と根底の部分でわかりあえているという信頼感があったので、よりよい方に変えていけると思っていたからですね。
 私がふだん描いている(絵画作品としての)絵とは違って、絵本は、言葉と相重なることで絵が引き立つ、絵と言葉の相乗効果…ということも、こうしたやりとりの中で気づかせてもらったことです。

———そもそも、この絵本を作ろうと思われた最初のきっかけは何だったのですか?

 私がアートの側面から協力をしているトラ・ゾウ保護基金(JTEF)の事務局長理事の坂元雅行さんから、もっとJTEFがアートと結びつきを強めて活動を広げていきたいのだけれど、というご相談をいただいたのがはじまりです。直接的に環境保護を訴えるだけではなく、絵と言葉で思いを伝えられる絵本というツールはとても魅力的だと思ったのです。

———トラ・ゾウ保護基金との出会いは?

 8年ほど前になります。自分の好きな絵を描くだけではなく、もっと社会的なことにからめて世界に関わっていきたい、自分の作り出すものを何かに役立てたいという思いが強くなってきて、自分が一番真剣になれるものはなんだろうと考えたとき、それが環境保護や動物保護という世界だったんです。その頃にJTEFの前身のJWCS(野生生物保全論研究会)に出合いました。トラとゾウの保護だけではなくて、生物多様性をはじめ、地球全体のバランスを考えている団体で、何か力になりたいと思ってコンタクトをとったところ、大阪で開催していた私の個展に坂元さんがが訪ねてきてくださったんです。坂元さんもちょうど、活動を広げていくために何かが必要だと考えていたところで、絵の世界観にとても共感してくださったと後から聞きました。その後、JTEFを立ち上げられる際に、ロゴのデザインの依頼を受けることに繋がりました。出会うべくして出会ったような、深いご縁を感じています。
 これまでは、私がJTEFのイベントに呼んでいただきワークショップなどを開催してきたのですが、これからは、私の方からこの絵本の原画展にJTEFの方をお呼びして講演していただくなどの活動もしていけたらと思っています。私の活動が広がってゆくことで、JTEFの活動も広がっていくといいですね。

———版元の(株)キーステージ21との出会いは?

 以前、GORONのロゴデザインとサイトデザインをさせていただいたときに、サイトの運営に関わっているキーステージ21の大久保社長にはじめてお会いしたんです。もう4年ほど前になりますね。ちょうどキーステージさんが最初の本を出版される頃で、出版も始めたのでよろしく、というようなことを仰っていたので、この絵本を出すということになったときに、絵本の出版社をご存じでしょうかと、ご相談させていただいたんです。そうしたら企画にとても興味を持ってくださって…。いま思えば、キーステージさんの理念とか、そういう部分で共鳴するところがあったんだなと感じます。


———今後の活動について

 絵の創作はライフワークとして変わらず続けてゆきますが、今回、絵本を作る楽しみを知り、可能性に満ちた表現手段だと感じたので、2作目もぜひ考えていきたいと思っています。

———最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

 『さいごのぞう』は、ぞうだけのお話ではありません。さいごのトラ、さいごの蝶、さいごの犬…もしかしたら、さいごの人になる日もあるかもしれない。
 絵本を通じて伝えたかったのは、ずっとそこにあると信じて疑うことがなかったものを失う時の喪失感と、同じ時代を共に生きられる時間のかけがえのなさ…。そんなことに想いを巡らせながら絵本を読んでいただければ嬉しいです。

———ますますのご活躍を期待しています。今日はありがとうございました。

■認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金(JTEF) http://www.jtef.jp/
『さいごのぞう』の巻末には、トラ・ゾウ保護基金の活動の紹介も掲載されています。野生のゾウが絶滅の危機にあるということ、その原因が人間による密猟や環境破壊にあるということ…。井上さんのあとがきにもある通り、こうした事実を「知る」ということがまずはじまりなのです。この絵本は、「知る」こと、「感じる」こと、そしてそのうえで私たちになにができるのかを考えていくきっかけになるでしょう。
*『さいごのぞう』の売り上げの一部は、トラ・ゾウ保護基金に寄付されます。

*****
ぞうがいて、森があって、たくさんの命がある。この地球という星の奇跡のような営みを、何気なく見過ごしてしまっていないでしょうか。いま、隣にいる人のあたたかさ。そこにある命の尊さ。そんな身近なところから、大切なことを感じてみませんか。絵本『さいごのぞう』ぜひご覧ください。

※ 取材協力 art Truth http://www.yccp.jp/art-truth/



井上奈奈(いのうえなな) http://www.nana-works.com/

京都府舞鶴市生まれ、東京都在住。猫と活字をこよなく愛する画家・アーティスト。幼少期は白と黒に囲まれた環境で育ったことから、色のついた画材を使うことがなかった。16歳のとき、単身アメリカへ留学、美術を学ぶ。主に女性や動物をモチーフとした物語性を感じる絵画を制作している。NYや上海など国内外の個展やアートフェアで作品発表する傍ら、動物をテーマにしたワークショップや、ミュージシャン・建築家など多様なクリエーターとのコラボレーションを展開している。

<今後の予定(2014年)>
3月7日~3月17日
舞鶴市赤レンガパーク(京都府・舞鶴市)http://akarenga-park.com/
「井上奈奈展」(絵本の原画を含む) 
3月末~4月
gallery COEXIST-TOKYO (東京都・木場)http://coexist-tokyo.com/home.html 
「さいごのぞう」原画展      
4月末~5月
 オーガニックレストラン&ギャラリー【星月夜】(愛知県・犬山市)http://hosizukiyo.jp
絵本の原画を中心とした建築家の大橋史人さんとのコラボレーション展示・イベント

その他、グループ展など

絵本 『さいごのぞう』特設ページ


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