進由紀

馬の心理学「驚く馬」

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は「馬の心理学」、特に驚く馬についてです。

馬がとても怖がりな動物だと知っていますか?映画に出てくる馬は勇敢に冒険していて、牧場で目にする馬は穏やかで落ち着いていて、怖がりなイメージはない方が多いかもしれません。

馬は「被捕食動物」

ご存じの通り、馬は被捕食動物です。
肉食獣からの危険を探す本能が備わっています。
馬は危険を感じると自然に逃げ出す衝動に駆られるのです。
逃走本能は馬の脳に組み込まれており、野生で生き残るためには不可欠です。
馬には捕食動物のような鋭い爪や歯がありません。
馬の防御手段はスピードです。馬は危険を察知して驚くと、立ち上がったり、噛んだり、蹴ったり闘争反応を示しますが、主な防御反応としては、常に恐怖を与えた物体から逃げる事です。

では馬は何に驚くのでしょう?

簡単にいうと、どんなものでも馬を驚かせる可能性があります。
予期していないこと、奇妙な音、初めてみる物、いつもある物が違う場所にあるだけでも驚く事があります。
何に驚いたかわからない、人間から見て、何もないと思える場合もあります。

そして、馬は驚くと横っ飛びしたり、くるっと踵を返したり、跳ねたり、走り出そうとしたりします。
馬が恐怖を感じた場合には、人間はとにかく平静を保つことが大切です。
人間が動揺したり、怒ったりすると状況は悪化してしまいます。

人間が怖がっているのでつられて馬が怖がりだす事もあります。
お化け屋敷に一緒に行った人が怖がり始めると、自分まで怖くなってくるのと同じです。
逆に、人間が落ち着いていれば、何かに驚いたとしてもすぐに馬も落ち着きを取り戻すものです。

騎乗中に馬が何かに驚いた時の対処法

ライダーが落ち着きましょう。深呼吸をします。
なだめるような優しい声で、馬に話しかけましょう。
身体の緊張をほぐし、リラックスした動きを心がけます。
 ライダーの緊張感は馬に全て伝わってしまいます。
 余計に馬を興奮させないようにリラックスします。
馬を止めずに歩かせ続けましょう。
 怖いものに正面を向いて見せて止まらせたりしない方が良いです。
 馬は逃げる時、蛇行しながら片目ずつ対象物を見て認識します。
 その為、横目で見せながら運動を続けます。
 怖いものより、ライダーの扶助に集中している場合馬は恐怖を感じません。
 馬がライダーの次の合図を待つように、単調ではない運動を組み入れると良いです。

馬が色々なものに驚かないようにトレーニングをする方法もあります

様々な経験をさせて驚く必要のないことを学んでもらいます。
ですが、完全に馬が驚かなくなる事はありません。それが馬という動物で、馬にとってそれは自分の身を守るための反応なのです。

大切なのは、自分がその馬を安心させてあげられる頼れる人間となれるよう、努力することです。
驚く馬に自分が恐怖を感じる場合、これは鍛錬で簡単ではありません。

もし馬が驚いた時に、その対象物が自分にとってこわいものか考えてみてくださいね。風で揺れる木や、急に飛び立った鳥が、もし怖くないなら、「怖くないよ」と馬に声をかけてあげてください。

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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