乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は「馬とファッション」についてです。
馬とファッション?
結びつかない方が多いと思います。
馬術は、服装規程が厳密に定められており、どんなにファッションの流行が移り変わっても、乗馬服が変わる事はありません。
馬術は、ファッションルールが厳密に指示され続けている数少ないスポーツの一つと言えます。
また馬術は、男女での区別のない競技です。オリンピックでも同じ競技に男女分け隔てなく出場します。もちろんその時も男女区別のない服装をします。
でも、ずっと昔からそうだったわけではありません。
20世紀前半までは、女性はロングスカートのドレスを着て、馬に横向きに座っていたんです。
女性にとってズボンを履いて馬に跨るということは、はしたない事とされていました。
そんな頃に、自分のために仕立てた乗馬ズボンを履き人前に出た初めての女性と言われているのがガブリエル・シャネルです。あのCHANELです。
新たな女性像を示し、ファッションの大転換のきっかけとなりました。
実は、現代のファッションは乗馬服にルーツを持つものが沢山あります。
そして、どの時代も乗馬服がファッションの流行を作ってきたという歴史があります。
現代、女性が男性と同じ服装を着て馬に跨り乗馬を楽しみ、競技に出る事ができるようになるまで、
女性の自立や社会進出のきっかけに乗馬や乗馬ファッションが大きなきっかけになっているのです。
そんなお話をお伝えしようと思います。
スーツの起源は乗馬服
自動車が開発される前のヨーロッパでは馬が移動手段でした。
その為、日常服(ファッション)は乗馬をすることを前提として進化しました。画像1は1800年代のスタイルです。
前身頃が短くなっているのは、馬に乗った時に邪魔にならないようにです。
右手には鞭を持っているし、左手にはグローブを持っています。
袖口のカフスの部分が伸ばされているのは、乗馬時に汚れないようにです。
足元はブーツ。
この絵は、乗馬がとても身近にあることがわかりますが、これは特別に乗馬時に限った服装ではなく、当時の男性の日常着でした。
1805年にはこういったライディングコートにベント(※)が付けられるようになり、1849年ごろには上着が短くなり、3つ揃いの現在のスーツが出来上がり、1868年には現在のような共布のスーツが誕生しました。
スーツとしては画像1(西洋服飾史)のスタイルから進化して、現在の形となりましたが、燕尾服としう礼服としてのスタイルは現在にも残っています。また、現在の馬場馬術競技の正装はこのスタイルです。(画像2)
この時代まで、日常の移動手段や、戦争時の騎馬兵としての乗馬でしたが、1830年代に入ると、スポーツとして乗馬が男性の間に流行するようになりました。
それまでは日常服は‘乗馬に適したスタイルで、日常服と乗馬服の境はありませんでしたが、スポーツとして男性だけでなく、女性も乗馬をする様になってから、スポーツ服として明確な乗馬服というものが誕生しました。
※ベント・・・ジャケットの後ろの切れ込み。馬に乗りやすく、風切りのためのデザインで、今日のスーツにもその名残がある。