しつけ・ケア

ペットのストレス障害 第2回.~もしもなってしまったら・・・~

ペットのストレス障害

第2回  もしもなってしまったら・・・

    

 2011年3月11日午後2時46分頃に発生した東北地方太平洋沖地震により被災された皆様、そのご家族の方々に対し、心よりお見舞い申し上げます。
 今回、日本を襲った未曽有の大震災から時間が経るにつれて、被災地の復興や身体ケア以外にも、被災者に対するの精神的ケアも大きな課題となってきています。
 特に巨大地震のような甚大で広範囲な災害後に問題となってくるのが非常に大きなストレスを受けたことにより生じる不安障害などの精神的な障害です。これらの中で特に震災後に問題になってくるものには重度ストレス反応ともよばれるASD(急性ストレス障害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などがあります。
 ヒトの場合、被災した方のみならず、時には非被災地の方であっても、テレビでの画像や情報に多くふれたことなどによりこのような症状に類似した精神的な症状を発症してしまうことがあります。今回の震災では被害の甚大さ、広範囲さから、このようなストレス障害の発症者が過去の震災よりも大幅に増えることが予測されています。
 このような状況において、震災での精神的ダメージを強く受けてしまうのは人間だけではありません。人のそばにくらす動物たちも多くが被災し、伴侶動物においても、人間のPTSDに似た症状を示す例すら報告されてきています。そこで今回はペットのPTSD等のストレス障害についてお伝えしていきます。
 東京都心などでも、今回の震災では強い揺れを感じました。動物たちには、震災の規模はわかりませんので、動物たち自身が主観的な「自分がとても怖かった!」「自分が死にそうな思いをした!」という思いを味わってしまった場合にはそのようなストレス障害を起こしてしまう可能性があります。
 今回被災されていない方も、もしものときのために、そして今後のペットとの関わり方を考えるという点からも参考にしていただければ、と思います。

障害ストレスのサインを見つけたら?!

 ではもし自分のペットにこういった症状がみられるようになったら、どのように対応すれば良いのでしょうか。

 一番大切なのは彼らを不安にさせないように、その不安を和らげるように飼い主さんが行動することです。飼い主さんが慌てたり、不安そうだったりしたらそれが伝わってしまいます。彼らは飼い主さんの行動をみて、様々なことを感じ取っているのです。しかりつけたりはせずに、まずは飼い主さん自身が落ち着いて、リラックスしているところを見せましょう。避難所などではなかなか難しいかもしれませんが、なるべく自分のそばに居させるようにして、「大丈夫だ」「気にかけてもらっている」という安心感を与えるようにすることが大事です。

 何かに怯えているようなそぶりを見せたら、スキンシップをはかり、笑顔で接し、不安にならないように繰り返し声をかけます。小さな子供に対するのと同じです。

 余裕が出てきたら、ペットの好きな遊びをしたり、好きな場所へ連れて行ったりすることでペットのストレスの解消を図りましょう。日常を取り戻しているのだという感覚を与えることも大切なことです。また、精神的に安定しているほかのペットに会わせる、という手も有効(犬の場合)です。

 動物の行動ですから、どうしても、騒いだり、パニックになるような表現になることもあるかと思います。しかし、そういったときにも決して叱りつけたりせず、優しく受け止めてあげるような寛容さも大事です。しばらく状況が緩和しないようであれば、動物病院への受診をお勧めします。軽い精神安定剤の短期間の処方で症状が緩和することも少なくありません。動物の場合のストレス性の異常行動は、不安解消のために何らかの行動をおこしているのに、解消されないためにさらにその行動を繰り返してしまうという悪循環に入ってしまっていることが多いのです。このような場合には、その循環を断ち切るための薬物療法や、行動療法による治療を必要とします。「もしかしたら?」とおもったら、病院に相談に行ってあげてください。きっと、改善する方法が見つかるはずです。

 自分に余裕のないとき、動物のことにまで細かく気を配るのは大変かもしれません。ですが、こういうときこそ信頼関係が大切になってきます。出来る範囲ででも、少しでも構いません。動物たちと向き合い、支えてあげるようにしてください。その気持ち自体が、彼らの心をいやすこともできるのですから。

監修者からのコメント

 「動物の精神医学」は、ものいわぬ彼らであるからこそ、わかりにくく、研究もしがたい分野であるため、ほとんど発達していない分野ではあります。しかし、行動医学的な方面から、分離不安や、攻撃行動、強迫神経症などに対しては、動物と人間のよりよい生活のためにと様々な研究や試行錯誤がすすめられています。

 行動療法や、薬物療法がそれらの治療には利用されるのですが、やはり、それらの治療のうちで、一番大切なのは、飼い主さんとの信頼関係、愛情、気づきなのではないでしょうか。

 私が、個人的に思っていることなのですが、このような災害において、おそらく動物たちと人間は、そのとらえ方が大きく異なってしまっているのだと思うのです。なぜなら、動物たちは「何が起こったのか、起こっているのか、わかっていない」のだと思うから。彼らはおそらく「地面が揺れているのだ」というのはかろうじてわかるかもしれない。

 けれども、人間に何が起こっているのかも、なんで人間がいなくなったり、不安になったり泣いたりしているのかも、「言葉で」わかることはできないから。情報を理解して判断することができないから。だから、彼らの不安は、とてもとても大きいものだと思うのです。その不安や恐怖感を小さな体にいっぱいに詰めて、いろいろな行動や、症状でその気持ちを緩和しようとしたり、つらさを表現したり、しています。

 その、彼らを安心させて、癒してあげられるのは、飼い主さんたち自身なのです。当然のことながら、飼い主さんたち自身もいま、とても、大変な状況にあると思います。でも、できるなら、彼らを愛して、癒してあげてください。できることなら。やむを得ず、離れて暮らさなければならない、失ってしまったという方もいらっしゃることでしょう。その方々も、ご自分を責めることなく、彼らとの優しい思い出でご自分を癒されてください。動物と人間は、おそらく、優しく笑いあうために、そのためにともに時間を過ごしているのだと、思うのです。

 強いストレス症状を起こしてしまっている動物に対しては、精神安定剤を処方したり、サプリメントを長期的に摂取すること、ときにはアロマテラピーなどをお勧めしたりしますが、かならず一番初めにお勧めするのは「なるべくそばにいてあげてください」「スキンシップを取ってあげてください」ということです(分離不安症のときは除きます)。すこしでも安心できるように、飼い主さんがよく着ている洋服や愛用のハンカチやタオルを動物のものにしてあげてもいいかもしれません。飼い主さんのにおいで彼らはとても安心します。

 彼らの声によく耳を傾けてあげてください。「気にかけてもらっている」という感覚も、安心させるためにはとても有効です。頻繁に声をかけて、触れてあげてください。よく見ていてあげてください。それだけで、とても落ち着いてくれるはずです。まとわりついても怒らないであげてください。一緒に笑ってあげてください。日常を取り戻してください。そのようなことが、彼らにはとても大切なことなのです。


takanami_icon

 コメント・校閲・監修: 高波 律子(ペンネーム)

 東京農工大学 獣医学科卒 獣医師
 都内動物病院にて臨床獣医師を経験後、製薬会社勤務。
 19歳になる猫と同居中。


[goron_pagenavi]
[Addlink_Matome twitter_text=”「ペットのストレス障害 第2回~もしもなってしまったら・・・”」”]
[Addlink_Pagetop]

 
アバター

goron

投稿者の記事一覧

GORON スタッフ

関連記事

  1. フィラリア対策 第1回.フィラリア症を予防しましょう!
  2. グループレッスンに行こう! 愛犬と一緒にいつもと違う環境でトレー…
  3. 日本と世界の狂犬病事情
 第2回 現在の日本における取り組みと対…
  4. おうち時間を犬と楽しもう! Play1:室内で犬と遊ぶ「トリック…
  5. 「吠えグセ」を考えてみよう 第1回.何故吠える?
  6. イヌに教え、教えられ 第20回 相手を知る
  7. ゆるっとワンコ薬膳のススメ ~飼い主さんも一緒に『熱中症予防』~…
  8. ゆるっとワンコ薬膳のススメ 〜冷やすだけじゃない!熱中症対策〜 …

今月の人気ランキング

PAGE TOP