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盲導犬を支援しよう ~第3回 障碍のある方にとっての補助犬との暮らし~


    


盲導犬の一生

 補助犬の中でも、目が見えないまたは見えにくい方の歩行の「安全」をサポートしている、盲導犬の一生をみてみましょう。

(1)誕生

 日本盲導犬協会の訓練センターの一つ「盲導犬の里 富士ハーネス」には設備の整った出産施設があり、ここで多くの盲導犬候補犬が誕生します。健康で盲導犬に向いている性格の両親から、盲導犬候補の子犬が誕生します。生まれた犬は、生後2ヵ月になるまで、母親のそばで兄弟姉妹と一緒に過ごします。

(2)パピーウォーカーと過ごす

 子犬は、生後2ヵ月から1歳になるまでの約10ヶ月間、「パピーウォーカー」と呼ばれるボランティアの家庭で愛情に包まれながら育ちます。「パピーウォーカー」は、盲導犬候補の子犬を約10ヵ月間、家族の一員として育ててもらう子犬飼育ボランティアです。
 この時期は、子犬の「社会化」が重要なポイントとなるので、人間と一緒に暮らすことで日常生活を経験し、マナーを学び、社会性を育てます。さらに、人間と暮らす喜びや人間との信頼関係を築くことによって、将来の、目の不自由な方との暮らしをスムーズに受け入れられるようになります。
 また、島根あさひ訓練センターでは、2009年4月から「島根あさひ社会復帰促進センター」(刑務所)内において、受刑者がパピー(仔犬)を育てる「島根あさひ盲導犬パピープロジェクト」を行っています。月曜日から金曜日までは受刑者がパピーを育てますが、週末は地域のボランティアのご家庭に協力を得て育ててもらいます。ボランティア家庭は、「ウィークエンドパピーウォーカー」と呼ばれ、動物を介在して一緒に育てることによって、「信頼され、役に立つ喜び」「達成する喜び」、また「人のつながり」を感じ、受刑者の社会復帰の促進が期待されています。

(3)訓練開始

 全国には公認の訓練施設が10か所あります。1歳を過ぎると訓練センターに戻り、いよいよ盲導犬としての訓練が始まります。訓練には、まず犬に「GOOD」の意味を教えて、人の求めることができたら「GOOD」と褒めることを繰り返す基本訓練。タウンウォークと呼ばれる誘導訓練。交通訓練。駅やエスカレーターでの訓練。ゆっくり歩く訓練。交差点や道の段差で止まることの訓練。 といった、目が不自由な人を導くための多くの訓練を受けます。
 これらの訓練期間は、約6~8ヶ月ほどです。すべての犬が訓練を受けられるわけではなく、ルールをきちんと学んだ子犬だけがテストに合格します。合格率は約60パーセントと難関です。
 訓練では3回の評価(試験)があり、その過程において盲導犬には向かないと判断された犬はキャリアチェンジをします。啓発活動の場でデモンストレーションなどを行う盲導犬PR犬や、手足が不自由な方のサポートをする介助犬として活躍するなど、それぞれの性質にあった環境のもとで暮らすことになります。また、「キャリアチェンジ犬飼育ボランティア」と呼ばれるボランティア家庭でペットとして暮らすこともあります。

(4)目の不自由な人との共同訓練

 盲導犬だけの単独訓練が一通り終わると、盲導犬使用者(ユーザー)が自分のパートナーとなる盲導犬と生活し、一緒に歩くための訓練として共同訓練が始まります。
 約4週間の共同訓練では、ユーザーが訓練センターに宿泊しながら、街の中で盲導犬(パートナー)と歩く訓練をします。ユーザーが排泄や給餌など犬の世話の仕方についても学んでゆきます。仕上げとして、ユーザーの自宅周辺などを歩行し、現地訓練を行います。日常的に利用するスーパーや銀行などの道順や、交通機関の利用法などを教えます。

(5)新しい生活

 共同訓練が終わると訓練センターを卒業します。いよいよユーザーと盲導犬との新しい生活が始まります。
 実際に生活を共にする土地での行動をチェックし、訓練士さんからアドバイスや指導をもらいます。これをフォローアップといいます。通勤や買い物などで普段使う道を、訓練士と一緒に盲導犬との歩行を確認します。その後も、定期的に担当訓練士が立ち寄り、サポートをしてくれます。それらが終わると、ついに共同生活が始まります。
 ユーザーの多くの方々は、盲導犬を得たことで「自由に歩く幸せを感じ、外出が楽しくなった」、「生活が変わった、暮らしが明るくなった、前向きな性格になった」と盲導犬の素晴らしさと喜びを語っています。

(6)盲導犬の引退(ハーネスをはずす日)

 盲導犬の多くは、2歳くらいから10歳くらいまででその役目を果たします。10歳前後で盲導犬としての仕事を終え、「ハーネス」という胴輪をはずし、引退します。10歳という年齢は、人間では60歳くらい。盲導犬を引退するということは、老齢化によって犬の視力や聴力が落ちたり足腰が弱くなったり、若くても何らかの病気になって、目の不自由な人が安全に歩くお手伝いをするのが難しくなったことを意味します。
 引退した「リタイア犬」は老犬なので、病気にかかりやすくなります。病気になった犬を真の愛情を持って介護し、そして看取るのが「引退犬ボランティア」です。

ずっと一緒に 盲導犬が老いたとき(ぶんか社,2010年)

 「リタイア犬」の多くは、ユーザーの元を離れ、一般のペット犬と同じように、訓練所の施設や引退犬ボランティアの家庭で、静かでのんびりした余生を過ごします。引退犬ボランティアの中には、訓練センターに引退犬ボランティアとして登録した人、その犬が生まれた際の繁殖犬ボランティアやパピーウォーカー、時には盲導犬ユーザーが引き続き預かることもあります。『ずっと一緒に 盲導犬が老いたとき』(ぶんか社,2010年)の著者・田中真由美さんは、引退後も盲導犬・カンちゃんと暮らしつづけ、その最期を看取りました。

引退後も変わらぬ愛情を

 ユーザーは、リタイアした犬を預かる引退犬ボランティアや施設がなければ、新しい盲導犬を貸与してもらうことはできません。数年前までは、引退犬ボランティアに対する支援は何もなくその負担は大きかったのですが、現在では、訓練所によって医療費などの一部支援があり、また、引退した補助犬を支援する団体・日本サービスドッグ協会なども設立されています。

 ユーザーの方々は、長く暮らしたパートナーを引き取ってくれた引退犬飼育ボランティアの家庭に行き、引退犬の様子を聞きに行ったり、次の盲導犬と一緒に会いに行くこともあります。以前のパートナーへの愛情と感謝の気持ちはずっと続いているのです。

一般社団法人 盲導犬総合支援センター
http://www.goguidedogs.jp/

日本盲導犬協会(日本盲導犬総合センター)
http://www.fuji-harness.net/

厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/


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