乗馬インストラクターによる馬のお話。
今回はホースセラピーについてです。
ホースセラピーという言葉、耳にした事がある方も多いと思います。
ホースセラピーは、乗馬や馬のお手入れや管理、馬の観察などを通じて、障がい者の精神機能と運動機能を向上させ、社会復帰を早めるリハビリテーションの方法の一つです。
医療面で犬や猫によるセラピー効果が認められるのは、心理面とその波及効果としての生理面に限られているそうですが、ホースセラピーの場合は、医療、教育、スポーツ・レクリエーションの3つの要素を併せ持ち、しかも心身両面への直接的なセラピー効果が認められると言われています。
ホースセラピーの歴史
馬は古代ギリシャの時代から治療目的で使用されてきました。
「医学の父」として知られるギリシャの医師ヒポクラテスは、乗馬の治療の可能性について書きました。戦争で負傷した兵士のリハビリに乗馬を用いたといいます。
欧米では1950年代から主に身体的リハビリ目的で乗馬が用いられ、日本では1980年代から少しずつ導入されてきました。
ホースセラピーのアプローチ法
アプローチ方法は、3つあります。
- 理学療法的アプローチ
乗馬による身体機能、運動機能の向上 - 作業療法的アプローチ
様々な感覚の刺激や馬とのコミュニケーションを通じた作業、認知能力の向上 - 心理社会的アプローチ
馬との非言語コミュニケーションを通じた社会性の向上
ホースセラピーの効果
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身体的効果
乗馬によって腹筋や背筋などを効率的に強化できます。
馬の上で身体を安定させるためには、体幹の筋力やバランス力が重要です。
日常生活でも良い姿勢を保ちやすくなり、結果的に精神面に良い影響を及ぼします。
また、下半身の筋力を強化できます。
筋肉を機能的に使う事が苦手な脳に障がいがある人にとって、効果的に下半身の筋肉を鍛えられるトレーニングです。
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精神的効果
馬とのコミュニケーションには、不安を軽減する効果が期待できます。
馬に乗ることで非日常の高い目線、スピード感を得る事ができ、満足感や、大きな馬を操れたという自信が生まれます。
また、馬に自分の意思や感情を伝え、馬とコミュニケーションをとる事で、自身の意思や感情を十分に表現できるようになります。
馬はとても繊細に敏感に相手の感情を受けとめて、偽りのない反応をします。馬の反応を受け止めることで、他者の気持ちを考え思いやるという事ができる様になります。
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教育的効果
乗馬だけでなく、お手入れやお世話を行います。
馬のお世話を通じた労働や、馬の健康状態への意識により、責任感や自立心を培う事ができます。
また乗る際のインストラクターとのコミュニケーションも欠かせないため、自らの意思を伝える必要があり、その様なことを通じて社会性が向上し、達成感を得る事ができます。
ホースセラピーは障がい者だけでなく、誰にでも同様の効果をもたらします。
不安感の強い人は、警戒心が強く行動や感情に敏感な馬が、危険を察知し意識を高めて行動する様子を見て共感する事ができます。
人間関係や様々な出来事でPTSDを患ってしまった人は、馬と一対一の繋がりを深めることで、再び人間関係で繋がりを感じる事ができる様になります。
海外では退役軍人の人のPTSDの治療にホースセラピーが多く取り入れられているそうです。
依存症の治療では、馬とのやりとりを通じて、信頼感を育む方法を学び、安心感を得て、関係を構築していきます。
精神疾患やストレスに苦しむ人が増加傾向にあると言われる現代、ホースセラピーはメンタルヘルスカウンセリングの方法としてとても注目を浴びています。
近年、ホースセラピーができる施設がすごく増えてきたと感じます。そういった施設の多くでは、引退競走馬の第二の人生としてリトレーニングしたサラブレッドが活躍しており、人への癒しだけでなく、馬が人と生きるための場所としての役割も担っています。
馬のセラピー効果は、触れ合ってみたらすぐに感じる事ができますよ。
もしストレスを感じていたら、ただ乗るだけでなく、少しの時間を一緒に過ごしてみてください。