【質問4】 帝王切開を何度も行うブリーダーの犬の場合、特殊な技術を用いれば何度行っても問題ない、と聞いたことがあります。本当でしょうか?
帝王切開の手術手技には、3つの方法があります。
・1つ目の方法は、Y時型をした、2つある犬の子宮のうち、両方の子宮をそれぞれ切開して、子犬を取り出す方法です。
この方法は、子宮の切開口が2か所になります。
この場合「子犬を素早く取り出せる」「比較的出血が少ない」「安全に胎児を取り出すことができる」ため、最もスタンダードな方法です。
・2つ目の方法は、Y時型の子宮の「子宮体」部分のみを切開する方法です。
この方法は、2つの子宮の根本にある「子宮体」を切開し、各子宮にいる胎児を子宮内で動かして「子宮体」の切開口から取り出す方法です。
この場合、切開する子宮体がかなり肥厚し、出血が多く、止血が難しいという難点があります。
そして、子犬も子宮から動かすため、胎盤から子宮内膜が傷つかないように注意しなくてはなりません。
将来、帝王切開をする犬・猫の場合、この方法で行うと確かに子宮と腸間膜などの癒着は、避けられるでしょう。
しかし、「子宮体」部分が膀胱と近いために、「膀胱マヒ」や「尿失禁」「膀胱炎」になりやすくなる、という泌尿器疾患のリスクが高くなります。
また、長い子宮で胎児を動かすために取り出すのに時間がかかるというのも欠点です。
それゆえ「子宮体」を切る方法は、一般には奨励されていません。
・3つ目の方法は、帝王切開と同時に、子宮・卵巣も一緒にとってしまう、いわゆる『帝王切開―卵巣子宮全摘出の同時手術』です。
将来、妊娠を望まない場合は、この方法が一般的で、胎児も安全に取り出せます。
不妊手術を一緒に行うこのタイプの帝王切開をしても、母親は、子犬・子猫に正常どおりに授乳することができます。
【質問5】 犬や猫は、発情ごとに交配させ、毎回妊娠、出産させても問題ないのでしょうか
犬は年2回、猫は年3回、発情することができると言われています。
(気候や日照時間や栄養状態、ブリードによる)
一般に、獣医師および責任感のあるブリーダーは、続けて毎回交配出産させるのではなく、少なくとも1年間あけることを勧めることが多いようです。
しかし、中には、犬の偽妊娠や子宮蓄膿症などのリスクを考えて、毎回のほうがよい、と言うブリーダーもいます。
結論からすると、毎回続けて妊娠出産させても、大丈夫な個体もあれば、大丈夫ではない個体もいます。
一般的に、大型犬ほど、出産や帝王切開の後の回復が早く、小型犬ほど、時間がかかるというのが、臨床獣医師が一般的に感じている事実かと思います。
科学的なエビデンスがしっかりと報告されている訳ではありませんが、多くの繁殖経験者、そして獣医師は、毎回の発情ごとに出産させることに関して、母体への負担を懸念しています。
それゆえ、毎回出産させず、最低でも1年から1年半待ってから、次の妊娠出産を奨励しているブリーダー、獣医師が一般的です。
ロサンゼルスでは、犬猫の繁殖をするのに、繁殖許可を取得しなくてはなりませんが、基本は1年に1回のみ、出産を許可しています。
ただ、例外的に認める場合もあるようです。
これは、正常分娩の場合も、帝王切開の場合の両方を含みます。
【質問6】 犬の妊娠出産は、何歳までが安全でしょうか?
これに関しては、やはり科学的な報告が乏しく、また、あっても局所的なもので、包括的なデータがありません。
業界で一致している意見は、『最初の発情(通常1歳未満)の時は、妊娠を避けたほうがよい』ということです。
これは、母体がまだ成長期なので、この時に妊娠すると、母体の健康な成長が阻害あるいは負担がかかるという理由からです。
しかし「何歳まで安全か?」というのは、獣医師もブリーダーも、ある程度意見が分かれています。
こちらも、非常に個体差が多く、犬のブリード・サイズ・体格・妊娠頭数・帝王切開の有無・過去の分娩時間などの複数の要因により、何歳までが安全か、という判断が異なってきます。
同じラブラドールでも、同じトイプードルでも、個体差があります。
ただ、一般的には「1歳から6歳くらいまでが「適齢期」である」と考えられ、それ以上の年齢の場合は、獣医師と相談した上で、個別に判断するべきと言われています。
こちらは、法律ではなく、ガイドラインや一般的な奨励として、ブリーダーの集まりやケンネルクラブなどから出ることが多いように思います。
ロサンゼルスでも、昔、シェルターで安楽死数が多かった頃は、1歳未満6歳以上の犬に繁殖許可証を取得するのが難しい時期がありました。
しかし、今年(2020年)の1月に、行政のシェルターを取材した時は、「今は、子犬の供給が減ってむしろ子犬不足なので、ケースで判断し、高年齢による制限はゆるくしている」と言っていました。
7歳・8歳・9歳でも、問題なく妊娠出産できる犬は確かに存在します。
それゆえ、高齢の犬の妊娠出産に関しては、一律年齢で制限をするのではなく、個体によって判断するのが理想だと感じています。