アニマルライツ
イヌに教え、教えられ 第15回 自らの命で何かを伝える
犬は人間より寿命が短く、愛犬は家族より先に旅立つ。
私は、訓練士であり、一人の飼い主でもある。
保護団体のスタッフをしていたこともあるし、今は里親が見つかるまでの間、保護犬を自宅で預かる一時預かりボランティアもしている。
保護譲渡される犬の多くは2歳〜6歳位だが、シニア年齢の仔も少なくない。年齢が高くなるほど、新しい家族は見つかりづらくなる。
長い保護期間の後、ようやく新しい家族に迎えてもらってたが、家族と一緒に過ごせる時間を長く持てずに旅立つ仔もいる。
保護譲渡した仔が亡くなる
保護活動に関わることで、そうした仔を見送ることも必然的に増えた。
自分が関わった仔が亡くなった時、里親家族から連絡があれば、できるだけ時間をつくり、ご家族のもとへ伺う。立派な祭壇と花、写真・・・
「もっと一緒に居たかった」
「もっとやってあげられることがあったのでは」
と話すご家族。
今の日本の現状は、飼育放棄され、行政施設に収容された犬たちのすべてが保護譲渡できるわけではない。
病気や高齢、行動の問題、収容できる限度頭数などから、殺処分になる犬がまだまだ多い・・
新しい家族が迎えてくれて、一緒に暮らし、可愛がってもらい、その家庭の中で旅立ったのなら、それが短い時間だったとしても、彼らは幸せだった、よかったなと思える。
だから見送りにうかがった時、私は悲しいではなく、生涯を全うできてお疲れさまという気持ちで手を合わせる。
何歳で迎えても大事な家族の一員。
そう考えてくれる家族の元で、旅立つ・・そんな当たり前のことが犬にとって、とても幸せなことなのだと私は思う。
今年1月、私が生まれて初めて飼った雑種のアンが17歳で旅立ちました。
実家で暮らしていた10年前までは、よくアンの世話をしていた。
人が大好きないい仔でしたが、散歩では引っ張り、ブラッシングなど嫌なことをすると咬んでくる、ご飯を食べている時に近づけば唸る・・自己主張が強く、言うことは聞かず手を焼くこともよくあった。
そんなある日、アンのことが本当に嫌になり、散歩途中の公園で「お前なんかいらない」と離して、1人で家に帰ったことがあった。すぐ後悔して公園へ戻ると、何事も無かったように尻尾を振って寄ってきたアン。
こんなことをした自分が悲しく情けなく思うが、そんな人の弱さも含め、アンを通して、犬を飼うことは命に関わり、預かることであり、可愛いだけでは出来ないと何度もいろんなことを教えられた。
アンがいなければ、犬の訓練のことを知ることもなかったし、仕事にすることもなかった。
「アンが、あぶないかもしれない・・」と父から連絡が入った日、仕事を終え急ぎ車で向かったが、間に合わなかった。
死後硬直が始まったアンの身体はまだ温かかった。
身体からでた汚物を取り、全身を拭き、ブラッシングをする。
硬直した身体は重く、身体を反対側に変えるのも大変で体を整え終わるまで時間が掛かったけれど、きれいな死に顔をしていました。
17年。
散歩したり、走ったり、遊んだり、怒って咬んだり、叱られたり、でもめげなかったり・・何事にも一生懸命だったアンは、十分に可愛がられ、父親に見守られながら大往生で旅立っていった。
そのアンを見送る最後の時まで、私から涙は流れなかった。
「あっちでも走り回って楽しめよ」と心でつぶやき見送った。
普段、泣く姿をほとんど見せたことがない父が、あれだけ泣いていたから泣けなかったのかもしれない(笑)
何事も自分にとって当たり前になっていることは、普段そのことが「大切」だと気付くことが難しい。むしろ、そのことがなくなった時、大切さに気付くことの方が多い。
命は無限ではない、いつか必ず終わりがくる。
健康な身体であることは、とても恵まれていること。
当たり前に感じる今の生活は、とても幸せなこと。
だからこそ、1日1日を大切にしなければいけない・・初めて飼ったイヌ、アンに沢山のことを教えられ、経験させてもらった。
家族の元から旅立つ命があれば、繋がって新しい家族に迎えられる命もある。約1年3ヶ月間、自宅で一時預かりをしていた保護犬つとむにお見合い話があり、トライアル(実際に一緒に暮らし、今後10年以上を飼うことができるかを判断する)をすることになった。
ご家族、つとむ、共にいいご縁でありますように。
アンへの感謝は、アンの仲間たちに少しづつ返すことで勘弁してもらおう。