みんなの夢、猫の未来
第2回 「地域の力」
竹ノ塚里親の会
前回は飼い主のない猫たちの保護、避妊・去勢や里親探しに取り組む竹ノ塚里親の会の活動について、神戸代表と堀川さんにお話をうかがいました。今回はお二人に猫をめぐる地域の問題について、活動の体験談もまじえてお話しいただきます。
「53匹の猫」事件 |
「お金がないから手術をしない」
という言葉に、憤りを感じることもあります。ある人が周囲の情報を聞き、訪ねて行ったところ、3DKに住む飼い主の家の一室の中でなんと53匹の猫が飼われていたことがありました。その飼い主は猫たちに避妊手術を全くしておらず、糞尿の臭気で近隣から苦情が起こり、黒いバッグに猫を入れて捨てに行っていました。全部で53匹もいるということすら把握していなかったのです。椅子は猫のフンで汚れ、壁も汚れ、電気も壊れていて座ることができないような家でした。
大家さんから立ち退きを宣告され、期限までの間、ボランティアで部屋を掃除して3日間だけという約束で猫を預かりました。壁も溶けていて、床のフローリングは腐っている状況でした。預かった猫のうち、戻せる猫はきれいに掃除したこの家に戻っていきました。現在もボランティアが通い続け、怠りなく管理を行っています。
猫の発情期は通常年2回ですが、温かい環境でエサを充分にもらっていると、年に3回、7匹ほど子どもを産むことができます。6か月ぐらいで繁殖年齢になりますので、どんどん増える生き物です。次の発情を早めるために、オス猫が子猫を食べたりすることもありますが、それでも家の中で53匹にも増えていたとのことです。
飼い猫に避妊・去勢手術をしないで飼っている人が、とても多くみられます。屋内で飼うなら避妊手術はいらないだろうと思われるかもしれません。しかし、手術していない猫を室内で飼っていると、発情により猫がストレスを感じてしまいます。オス猫は外で子どもを作りますし、メス猫はホルモン分泌により子宮がんや乳がんにかかりやすくなります。「病気じゃないから」、「お金をかけたくない」、「避妊手術をすると肥満になる」といったさまざまな理由で、飼いネコの手術をしない人もいます。
地域の力で解決を |
里親会の場も充分でなく、ウェブサイトの里親募集中のサイトをみると、関東地区には1800匹以上の猫が行き場を探しています。
この活動をしていて、声を大にして言いたいことは、「飼い猫は必ず手術を受けさせること、飼い主のいない猫には地域で手術を受けさせること」です。野良猫が増えると、発情時の鳴き声、猫の糞尿が環境問題にもつながります。
昨年は155匹の猫に手術を施し、ワクチン接種や、医療費などで、かなりの費用がかかりました。協力要請に対しては可能な限り出向きますが、そうした場で突発的に保護することもあり、費用の面だけでなく細かな配慮や人手も必要です。
東京には飼い主のいない犬は、狂犬病予防法による収容義務があるため少ないのですが、飼い主のいない猫は多く、増加を続けています。殺傷処分を受ける猫の80%が、このような猫たちが生んだ子猫です。公園や路上などに捨てられた猫が増えると、たいていエサをあげる人(エサやりさん)がでてきます。
そこで、「エサをあげるな」という看板が立てられました。それを見た人は、本来は、いい加減な飼い主の責任であるはずなのに、「エサをあげちゃいけないんだ、猫は居なくなった方が良い動物なんだ」と感じてしまいがちです。その結果、子どもたちは、猫がゴキブリやネズミのように汚い、殺したり傷つけたりしてもよい生き物だと感じてきているように思うのです。猫は居ないほうがよい生き物なんだという風潮が、広がってきているとさえ感じます。
耳カットされている猫たち
(避妊手術済みのしるしとして猫に施される)
-本来の解決に向けて-
私たちはこの「エサをあげるな」の看板を、「エサをあげるなら、後片付けもして、全て避妊手術を受けさせよう。近隣に迷惑をかけないようにしよう」という看板に立て替えてほしいと訴えました。交渉を続けてきてようやく、保健所と公園課への依頼が通じてきたところです。行政は苦情対応が中心で、実情がつかみきれないのはやむを得ないと思います。本来の問題解決よりも目の前の苦情処理のことに向かってしまいます。時間はかかりますが、エサをやらない、よそへ追いやるという対処法でなく、本当の本来の解決に向けて動いてほしいものです。
ただ、里親会や地域猫の会が発足し、嘆願や署名運動などの活動を通して、行政も避妊手術の助成金制度を設けたり、猫に関する問題解決のために協力を申し出てくれるようになってきました。何とか猫を助けたいという気持ちが通じてきたのか、私たちの心情を理解してくれて、そのうえで中立的な立場で一緒に考えてくれるようになってきたことは心強く思います。
-モラルを持って-
ただ、モラルのない人がいる限り、この問題の根本的な解決は難しいのかなと感じることもあります。猫が嫌いなら嫌いでもやむを得ないですが、猫を虐待することはしないでほしいのです。野良猫にエサをあげる人たちにも、それを始めたからには途中でやめないで避妊手術をし、近隣住民の理解を得て、地域における猫の地位向上のために頑張ってほしい。エサが急になくなると、猫たちは生きるためにゴミをあさるようになって、ますます地域の迷惑になってしまいます。
腹を空かせた団地のノラ猫が、人間の持っている買い物袋に飛びかかってくることもあります。それを追い払おうとした人間に、熱湯をかけられてやけどを負った猫や、目が見えなくなった猫もいます。
地域の協力 |
私たちの会で保護した猫は、すべて避妊・去勢手術をして、子猫は里親に出しています。団地や人の集まる場所には猫がたくさんいますので、自治会の会長などにもお願いしていますが、そのときの会長の好き嫌いや人柄で対応が変わってしまいます。非協力的な環境のもとでは、ますます問題は悪化してしまうのです。
やはり、地域の協力がなければ、問題は解決できません。
次回は、ペットの殺処分をめぐる日本の現状についてお話しいただきます。
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