進由紀

馬と触れ合う手の選択|乗馬インストラクターが語るグローブの本当の意味

乗馬インストラクターがお伝えする馬の話。今回は「グローブ」の話。

馬に関わるとき、私はいつも手袋をしています。
それは冬の寒さ対策ではなく、自分の身を守るため、そして馬のためにもなることだからです。

グローブをつけるのは、ルールというだけでなく、私にとってはごく自然な“馬との向き合い方”になっています。
ただ、実は昔の私は、素手で馬に触れることにこだわっていました。
その温もりを、毛の感触を、直接の距離で感じたくて。
グローブ越しだと、何かを隔てているような気がして、騎乗時以外は素手のままでいたこともあります。

でも、ある日大きな怪我をしました。
注意していたつもりでしたが、わずかな気の緩みや判断の遅れが、瞬時に大きなアクシデントにつながったのです。今でもその名残が少し残っています。

それ以来、私は手袋を“自分と馬を守るための道具”として受け入れるようになりました。
それがあることで生まれる安心感、余計な力みを軽減できること、何よりトラブルを未然に防げること。「素手の温かさ」より、「安全な関係性」の方がずっと尊く、大切だと気づいたのです。

でも、手袋を“外す”と決めている瞬間もあります。

たとえば、
・馬体をゆっくり丁寧にチェックするとき
・ただ、そっと触れたいとき
・顔を拭くとき
・おやつを手からあげるとき

それからもうひとつ、私にとって何より大切な“素手で向き合う瞬間”があります。

それはハミをつけるときです。

ハミ(馬の口にくわえる金属のパーツ)は、騎乗の際にとても重要な道具です。
馬との意思疎通を助けるためのものですが、同時に、金属を粘膜にくわえさせるというデリケートな行為でもあります。

私は、この瞬間だけは必ず手袋を外して、素手で向き合うようにしています。
それは、どんなに寒い日も、どんなに急いでいても、毎回欠かしたことのない、私なりのこだわりです。粘膜に金属を触れさせる前に、こちらが素手で向き合うこと。
それは私にとって、「乗る人と馬との繋がりが始まる瞬間に敬意を払う」という、ひとつの礼儀でもあります。

ハミをつけるとき、私はいつもそっと手のひらで口元に触れ、馬の表情を確認します。
「今日もよろしくね」と心の中で声をかけながら。冬はハミが冷えきってしまうので、事前にお湯につけたり手のひらで温めてから口に入れます。
つけ終えたらすぐにまたグローブをしないと、今度は自分の指が冷え冷えになってしまうので、それも毎冬のルーティンです。

手袋をつける。
手袋を外す。

その行為には、それぞれ意味があります。
そして何より、選ぶのは“気持ち”です。

馬と関わる施設やクラブでは、「グローブ必須」とされていることも多いですが、それにはちゃんと理由があります。
それはルールだからというより、人と馬の安全を守る“知恵”として受け継がれてきたものなのです。

素手で感じたくなる気持ちもよくわかります。でも、グローブがあるからこそ防げること、冷静に対処できることもたくさんあります。それは決して「感覚を失う」のではなく、「信頼の土台をつくる」ための一手だと、私は思っています。

「馬のために」そう思って始めたことが、いつの間にか「自分のため」になり、「自分のために」選んだことが、「馬のため」にもなっていく。

そんな循環が、たった一枚のグローブから始まることもあるのです。

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

関連記事

  1. 春になると馬は元気になる?理由と安全に乗るためのポイント
  2. 馬と仲良くなろう part1
  3. エリザベス女王と馬〈前編〉
  4. 馬の“食欲の秋”にご用心?
  5. 夏に観たい、馬が主役の名作映画 第1弾 
  6. 馬の安楽死
  7. 一生忘れることない馬『カザン』の話
  8. ストレスが馬の健康と栄養に及ぼす影響〈 前編 〉

今月の人気ランキング

PAGE TOP