健康・病気

馬は立ったまま眠る?犬や猫との寝方の違いと睡眠の秘密

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は、馬と犬と猫の寝方の違いについてのお話です。


犬や猫がくつろいでいる姿って、見ているだけで癒されますよね。
お気に入りのクッションで丸まったり、日向ぼっこしながら仰向けに寝そべったり。無防備なお腹を見せて眠っている様子は、「安心してくれてるんだな」とこちらまで嬉しくなってしまいます。

では、馬はどうでしょう?
「馬が寝ているところって見たことないかも」と思った方もいるのではないでしょうか?
実はこれ、よくある感想なんです。

馬は、犬や猫とはまったく違う“寝方”をする動物です。
今回はそんな馬の寝姿にスポットを当てて、ちょっとした秘密をひもといてみましょう。

■ 馬は“立ったまま眠れる”生き物

まず驚かれるのが、馬は立ったまま眠れるということ。
しかもそれは「うたた寝」程度ではなく、体の構造として“本当に眠れる”ようになっているのです。

馬の脚には、「休息靭帯装置」という特殊なしくみが備わっていて、関節がロックされたような状態になり、筋肉をほとんど使わずに体を支えることができます。
つまり、立ったままでも力を抜いて眠れるような構造になっているんですね。

この仕組みは、もともと草原で暮らす野生時代に身につきました。
天敵からすぐに逃げられるよう、横になる時間を最小限にしていた名残です。

■ 横になるのは、ほんの短時間だけ

では、馬は一度も横にならないのか?というと、そうではありません。
実は、馬も深い眠り(レム睡眠)をとるときには、横になる必要があります。

ただ、その時間は1日にほんの数十分程度。しかも、完全に安心できる環境でないと、馬はなかなか横になりません。

犬や猫のように「スヤスヤ」「ぐでーん」と寝そべっている姿を見かける機会が少ないのは、こうした習性が理由です。

中には、長時間まったく横になれないことで、深い眠りが取れず「睡眠不足」になってしまう馬もいます。
ひどい場合は、立ったまま一瞬意識を失い、崩れるように転んでしまうケースもあるほど。
「眠れているかどうか」は、実は馬の健康管理でも重要なポイントなのです。

■ 犬や猫は“寝るプロ”?

ここで、犬や猫の睡眠スタイルにも少し目を向けてみましょう。
彼らはとても“よく眠る”動物です。
犬の平均睡眠時間は1日12〜14時間程度、猫に至っては15〜20時間ほど眠ると言われています。
特に猫は「寝子(ねこ)」の語源になるほどの寝坊助で、活動時間は意外と短く、1日の大半を寝て過ごします。
犬も同様に、日中でもよく寝ていて、起きている時間は人よりもずっと短いのです。

この違いは、動物としての“ルーツ”にあります。
犬や猫は肉食動物のグループに属していて、短時間で狩りをして長時間休むというスタイルが基本。
いわば「集中して動いて、あとはひたすら休む」という生き方をしてきた動物です。

一方で、馬は草食動物であり、敵に狙われやすい立場の「被食動物」。
生きるためには、常にまわりに気を配りながら、こまめに動き、こまめに休むという生き方をしてきました。

だから、犬や猫のように長時間ぐっすり眠ることは、馬にとっては本能的に“危険”なのです。

■ 群れで寝る?「見張り役」がいることも

野生の馬は群れで暮らしていたため、寝るときも完全に全員が同時に横になることはありません。
数頭が横になるあいだ、他の馬は立ったまままわりを見張っている——そんな習性が、飼育されている馬にも今なお残っています。

複数の馬が同じ放牧地にいるとき、1頭がリラックスして横になっていると、そばにもう1頭が立っていて“見守っている”ような場面に出くわすことがあります。
これも、人間にとってはちょっと感動的な光景ですよね。

■ 犬や猫との違いから見えてくる、馬の“警戒心”

こうして比べてみると、犬や猫の寝姿は「安心しきった証拠」として当たり前に見られるものですが、馬の場合はそのハードルが少し高めです。

同じように人と暮らしていても、生き抜いてきた歴史や本能によって、「眠る」という行為に対する考え方がまるで違うんですね。

犬や猫は「お気に入りの寝床」や「人のそば」など、ある程度パターン化された安心ゾーンを持っていますが、馬の場合は日々の体調やまわりの状況に大きく左右されます。

たとえば、環境に変化があったり、音や匂いなどで少しでも不安を感じると、たとえ疲れていても横になることを避ける馬もいます。
つまり馬にとって「横になる=とても信頼している」「安心している」のサインとも言えるのです。

■ 馬の寝姿を見かけたら、それは特別な瞬間

馬が横になって眠っている姿は、日常的に馬と関わっている人でも、そう頻繁に見られるものではありません。
もしあなたが馬の寝姿に出会えたとしたら、それは馬がその場所を“心から安心できる環境”だと感じている証拠かもしれません。

犬や猫とはちがって、馬の安心にはちょっと時間がかかる。
だけど、そのぶん信頼関係が深まったときに見せてくれる表情やしぐさには、なんとも言えないあたたかさがあります。

もし馬と出会う機会があったら、「ちゃんと寝てるかな?」「リラックスできてるかな?」と、そっと見守ってあげてくださいね。

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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