犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~
第2回 人と犬と社会をつなぐトレーニング
まだまだ「特別なこと」と思われがちな犬のしつけやトレーニング。多くの人が、何か手に負えない問題が生じてから初めてトレーニングを検討する、というスタンスのように思います。積極的なトレーニングが必要なのは「余程の問題がある場合」と考えているのです。でも、それでいいのでしょうか?
犬の飼養について細かく法律で定められている、いわゆる“ペット先進国”では人々の意識が高く、日本に比べてしつけや社会化などが浸透していることから、犬が社会の一員として受け入れられているといいます。そのため、犬が人から見て好ましくない振る舞いをするのは、しつけを怠っている飼い主の責任と考えるのが一般的。「ダメな犬」などと、犬のせいにすることは稀です。
日本では法的に、人間社会の中にしか犬が生きる場所はありません。愛犬が社会の中でいかに人と協調して生きられるか、どうしたら上手く地域社会に溶け込めるか、その方法はまず飼い主自身が学ぶ必要があると感じます。それによって初めて、犬も学ぶことが出来るのです。多くの人が“犬のために飼い主が学ぶ”ことを当たり前と考えるようになれば、犬が苦手な人も“犬のいる社会”を受け入れやすくなるでしょう。それは犬を取り巻く社会全体の意識を底上げすることにもつながります。
dog luckのトレーナーたちの思いもそのあたりにありそうです。「問題のあるなしに関わらず、犬との関係をより良いものにするためにこそトレーナーを活用してほしい」というのがdog luckの願い。今回はdog luck代表の星野貴大トレーナーにお話を伺いました。
‐なぜ日本ではトレーニングが一般化しにくいのでしょう?
犬は自由気ままに生きることが幸せというイメージがあるのでしょうか。しつけ、トレーニングにはむりやり言うことを聞かせるという印象があるのかもしれません。でも犬に社会的マナーを教えることが、実は犬を“より自由にする”ということをわかってほしいと思います。
‐犬を“より自由にする”とはどういうことですか?
犬を自由にさせたいという人はたくさんいますが、その“自由”が、いつの間にか犬の自分勝手な行動になってしまっていることが多いように思います。それは単なる無責任。そういった振る舞いは結果的に犬の社会的な立場を奪うことにもつながりかねません。しつけ、トレーニングとは端的に言って、犬に社会的な自由を与えることも含まれていると考えています。そもそも今の日本では、犬が望むと望まないとに関わらず、人間社会で生きることが前提にあります。そのため例え犬にとっては意味のある行動だったとしても、その行動が人間社会の中では問題行動となる可能性もあるのです。だからこそ人のルール上において行動することを教えることで、より犬の行動範囲が広がり、飼い主と犬の世界を広げてくれると考えます。そしてそれは、犬の社会的な地位を上げることにもつながっていくのではないでしょうか?
‐ではトレーニングのポイントとはどういったことでしょうか?
まずは犬を人のルール上に置くことでトラブルや危険を未然に回避できるということが重要なポイントです。もう一つ非常に大事なことは、しつけやトレーニングを行う過程で飼い主が自分の犬を理解し、正しく見る目を養うことができるという点にあると思います。簡単に言えば犬の気持ちがわかるようになるということですが、その行動の裏に犬のどんな気持ちがあるのか、犬が何を求めているのかが理解できれば、どんなときも飼い主が適切に犬に働きかけることができるのです。
‐トレーニングですぐに犬の気持ちを理解できるようになりますか?
もちろん、簡単ではありません。はじめは「こういう行動の裏には犬のこういう気持ちがある」ということをトレーナーが解説しながらトレーニングを進めます。さらに飼い主がトレーニングなどの経験を積み重ねることで、犬の気持ちをより深く理解できるようになっていきます。犬が何を求めているのか、自分は犬にどうしてほしいのか、犬と自身の気持ちを知ることで、犬とより深くつながれるようになります。それがトレーニングの一番大事なところかもしれません。
‐トレーニングをする上で気をつけなければならないことはなんでしょう?
「犬を犬として見る」ということです。飼い主が犬を擬人化し、人間目線で犬を見ていることは少なくないと思います。犬が好ましくない行動を取ったとき、そこで人間側の感情だけで怒ったりしてしまえば、犬の感情を無視してしまうことになりかねません。その時その犬がなぜその行動に至ったのかをきちんと理解できれば、もっとほかにベストな対応が出来るのではないでしょうか。出来ないのは犬に届いていない可能性があるからだと思います。私たちdog luck のトレーニングでは一頭一頭の個性を見ながら、そこをしっかりお伝えすることを大切にしています。
‐dog luckは特定のメソッドを柱としていませんね。
犬のトレーニングには本当に様々なやり方があります。そしてどんな方法論にもそこに至る何かしらの意味があるはずです。だから“これは正しい”“これは間違っている”という線引きはしたくありません。まずは目の前の飼い主と犬を見て、その子の良さを最大限引き出せるように目標までの道筋を考えたい。そのために持っている知識と技術、経験の全てを総動員するのです。決まったやり方や考えにこだわることが、必ずしも犬の利益にはなりません。トレーナーからの押し付けになってはいけないと考えています。
‐その子に合ったオリジナルのプロセスでトレーニングするということですね。
はい。そしてそこには当然飼い主さんの意向も反映されるべきだと考えています。だから、一頭一頭全く違ったものになるのは当然なんです。同じように見える問題行動でも、アプローチの仕方は犬によって違います。褒め方ひとつ、撫で方ひとつとっても、それぞれ適した方法は違うのです。さらにはその時の状況や犬の状態によっても、これらの対応はまた変わってきます。dog luckのトレーニングは事前のカウンセリングに充分な時間を取っています。その犬に合った方法を提案させていただきながら、飼い主さんの考えや気持ちも充分に考慮してトレーニングを組み立てていきます。その家族、その犬にとってのベストを提示させていただくことを心がけています。
‐「人が変われば 犬が変わる」というのが活動の信念と伺いました。
はい。犬は人をよく見て、感じています。例えば、ウチの奥さんの機嫌が悪いとき、我が家の犬たちは絶対彼女に近づきません(笑)。近づくことが危険だとわかっているのです。逆に僕たちがリラックスしているときは犬もリラックスしています。人間側が気持ちや行動を変えてみることで、犬の行動も変わっていくのです。
‐それをトレーニングに生かすということですか?
例えば吠えの問題がある子は、もしかしたら運動が足りていないだけかもしれない。今まで叱っても全く変化がなかったのに、散歩の時間を増やしたら吠えなくなったということがあります。今までビクビクしていた子が、穏やかに接するように心がけただけで落ち着く場合もあります。こちらがアプローチの仕方を変えてあげれば、犬はどんどん変わってくれます。犬は人の映し鏡のようなものだと思います。
‐犬に変化を求めるだけでなく、飼い主も犬に対する姿勢を変えるということなんですね。ありがとうございました。
トレーニングとは、犬への働きかけであると同時に人の気持ちにも影響を与えるもの、更には社会的な役割も担っていることを実感しました。dog luck のトレーナーたちは、全員が保護活動経験者。犬が生きる社会の負の側面も理解した上で、日本の犬を取り巻く状況を俯瞰する視野をお持ちです。単に「この問題行動をどうにかしてください」という以上の、もっと大きな目でトレーニングをリードしてくれる存在。飼い主自身の犬に対する姿勢を根本から変えてくれそうな、ワクワクするような期待感を持つことが出来る集団だと感じました。
次回はトレーニングの実例をご紹介します。
dog luck トレーナー プロフィール
星野貴大(ほしのたかひろ):1985年12月25日生。dog luck代表。幼少期よりの犬好きが高じてトレーナーを目指す。訓練士学校を卒業後、犬の幼稚園勤務などを経てトレーナーとして独立。CACIでのボランティア指導のほか、動物愛護センターでの指導、警備犬、災害救助犬の育成にも携わる。
星野陽子(ほしのようこ):1979年3月1日生。dog luck副代表。編集・ライターの職を経てCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。
栗山典子(くりやまのりこ):1982年6月4日生。dog luckトレーナー。幼少期をスイス・ジュネーブで過ごし、OL時代にCACIのボランティアに参加。そこで星野貴大トレーナーに出会い師事。その後トレーナー学校を卒業し、現在に至る。
dog luck HP : http://doglucktrainers.com/
犬と人が共に笑顔で暮らすために
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第1回 dog luckのはじまり
犬と人が共に笑顔で暮らすために
~ドッグトレーニングチーム dog luck~
第3回 トレーニングの本当の意味とは?<トレーニングの実例から>
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