前回は、里見さんが活動を通して経験した苦労や失敗、犬との共生生活についてお伝えしてきました。
今回は、本連載の締めくくりとして、飼い主につたえたいことや、社会にうったえたいこと、今後の活動についてのお話をお送りします。
犬を知る -飼い主に伝えたいこと-
日本では、犬のことをあまり知らなくても飼うことができます。単にかわいい、というだけで飼えてしまうんです。性格や犬の習性を知ったうえで飼えれば、あとで失敗して捨てることを未然に防ぐことにもつながります。飼い主にもラクなはずです。ショップは商売ですので、そういう情報はなかなか出せない事情もあるんだと思います。 ただ、少しずつですが、トイレトレーニング、社会化トレーニングをしてから販売をするペットショップも増えてきています。自分が飼おうとする犬が、噛むかどうか、性格はどうか、などの情報は必要です。
子犬のときにトレーニングが行われればよりよいですが、大人の犬でも学習はできます。やや頭が固くなり、カラーが決まってしまっていますが、それでも学習はできます。
子どもたちへ -社会にうったえたいこと-
犬の殺処分が減ればよい、という思いはあります。ただ、それを直接うったえよう、というよりも、このような問題について子どもに教えたり、伝えていきたいと考えています。「総合的な学習の時間」の調べ学習で、ドッグシェルターの活動を知りたがっている小中学生が増えています。子どもたちはこれからの飼い主になります。里親になります。
いまのところ、ドッグシェルターの里親は年輩の方や夫婦の方が多いんですね。学生や子どもとのつながる場が限られていますが、殺処分の問題や里親活動について伝えていきたいと考えています。何ができるか、具体的な考えはまだ漠然としていますが、学生のみなさんがお越しくださったときには積極的にお話しするようにしています。
今後の活動 -老犬と大型犬の課題-
活動そのものはあまり広げたくないんです。組織や自分のキャパシティを超えてしまうのはうまくいかないと思うんです。1頭でも多くの命を助けるのは大事ですが、むずかしいところです。仕事としてのキャパシティは超えない、破綻しない。現在の8頭の同時保護頭数は超えないようにするつもりでいます。
いまの活動状況で、年間50頭くらいの保護数です。店舗があったときには、年間100頭くらい保護していました。保護数する犬の頭数にこだわりはないんです、無理に増やそうとは考えていません。
それよりも、7~8歳くらいの老犬をなんとかしてあげたいんです。なかなか貰い手が現れないんです。現在ドッグシェルターでは、老犬の保護は1頭までと決めています。5頭入れてしまうと、他の犬を入れてあげられない。回転率というと語弊があるかもしれないのですが、回転させていかないといけません。ずっと保護しておくわけにもいきません。
動物愛護保護センターには老犬が多いです。そこで老犬を見るたびに、どうしたものかと考えてしまいます。
老犬を飼うことは、デメリットもあるが、メリットもあります。「一緒にいる期間が短い」「病気のリスク」などはデメリットですが、「運動量が少なく、おだやかで落ち着いている」「性格が丸くなっている」「散歩の回数が少なくてすむ」など生活メリットがあります。年輩の方や会社をリタイアされた方にも、老犬の飼いやすさ、老犬との暮らしやすさをアナウンスしていきたいですね。
特定犬種を専門として保護活動を行っている団体では、その特徴を熟知しているため老犬の引き取りをしてくれることもあります。私の知っている範囲ですが、ラブラドール、シーズー、ボーダーコリー、ジャックラッセルテリア、アメリカンコッカースパニエルを扱っている団体があるようです。
大型犬を飼うことは、一般の家庭では、抵抗があるかもしれません。ドッグシェルターと預かりさんの関係で、これまで扱いやすい子を入れてきましたが、預かりさんのスキルも上がってきました。それによって預かりさんのキャパシティも広がっています。今後は、中型犬・大型犬も引き取っていけるようにしていきたいと考えています。
大型犬は単純な体重や大きさ、パワーから飼育がむずかしいこともありますが、性格は1頭1頭ちがいますし、逆に小型犬のほうがむずかしいことも多々あります。しつけをするのに小型、大型のどちらがむずかしい、というのは一概には判断できない面がたくさんあります。大型だからむずかしい、なかなか飼えないということはなく、その犬の性格によるところが大きいと思います。
これから -将来の私-
今の生活がとても楽しいんです。このような活動で生計を立てられている人は少ない。始めた当初は葛藤がありました。ボランティアで生計を立ててよいのだろうか、という葛藤が・・・。しかし、生計が立たないと活動もできません。悪いことをやっているわけではない。べつにいいんじゃないかと思うようになって、楽しくなりました。
いつか、もし、この形の活動が必要でなくなることがあるかもしれません。たとえば、犬の殺処分が減るとか、プラスの意味も含めてです。ですから、しつけ教室でもある程度生計を立てられるように、バランスを取って続けていけるように準備をしておきたいと考えています。
※Goron編集部注:本連載のタイトル「小さな力が社会を変える」は、ドッグシェルターのパンフレットに記されたキャッチフレーズ「A little help will make a difference.」からいただいたものです。