おでかけ

カルーセルエルドラドがつないだ記憶 ~ドイツからとしまえんへ 100年以上をめぐる旅~

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回はあるメリーゴーランドのお話です。

「ドイツからとしまえんへ 100年以上をめぐる旅」

子どものころ、地元にあった「としまえん」は特別な存在でした。
だけど私にとって“遊園地”そのものよりも、いちばん心に残っているのは、園内にひっそりと佇んでいた一台のメリーゴーランド、カルーセルエルドラドという名前の、ちょっとクラシックな回転木馬です。

あの場所へ、私は父と一緒に、そして自分の子供と一緒に行きました。
 それが、としまえんが閉園する前の年。奇跡のように訪れることができたその日、私はあの回転木馬に子供と乗り、売店で一冊の絵本を買いました。

『カルーセル・エルドラド』というその本には、メリーゴーランドの長い旅路が、子どもでも読める優しい言葉で綴られています。

■ ドイツで生まれた、アール・ヌーヴォーの芸術

このカルーセルが作られたのは、なんと1907年。
 ドイツの技師ヒューゴー・ハッセの手によって、アール・ヌーヴォー様式の美しい装飾と、精巧な機械技術を融合させた「移動式のカルーセル」として誕生しました。

大きくて、華やかで、まるで絵画の中から抜け出してきたようなその姿は、当時のヨーロッパ各地で巡回興行として人気を博し、人々を魅了していたそうです。

けれどやがて、戦争の時代が訪れます。

■ 戦火を逃れて、アメリカへ

ヨーロッパを巡ったこのカルーセルは、1911年にアメリカへ渡り、ニューヨーク・コニーアイランドのスチープルチェイス・パークという遊園地で稼働するようになります。

そこでも多くの子どもたちを乗せて回り続けたものの、1964年に遊園地が閉鎖。
 長く倉庫で保管されたあと、その存在は忘れられかけていたといいます。

■ 日本へ。そして、としまえんでふたたび動き出す

この回転木馬が再び日の目を見るのは、それからしばらく経った1969年。
 日本の遊園地「としまえん」がこのカルーセルを約1億円で購入し、2年の修復を経て1971年に稼働を開始します。

当時は設計図もなく、国内の職人たちが「見よう見まね」で修復に取り組んだそうです。
 宮大工、電気技師、塗装の専門家…たくさんの人の手で、ただの遊具ではない“動く芸術”としての姿がよみがえったと聞きました。

■ 世界に認められた“動く遺産”

カルーセルエルドラドは、2010年に日本機械学会によって「機械遺産」に認定されます。
 100年以上を生き延び、3つの大陸を旅してきたメリーゴーランドとして、世界的にも貴重な存在。

としまえんの閉園にともなって解体され、現在は保管されていますが、またどこかで回る日が来ることを、願わずにはいられません。

■ 絵本の中に、父との記憶がある

私はこのカルーセルに、たった一度だけ、子供と一緒に乗りました。
 父と私と、そして子供。三世代で行ったあの日の景色は、今でもはっきりと心に残っています。

としまえんもなくなり、父ももういないけれど。
 絵本のページをめくるたびに、あのメリーゴーランドが静かに回り続けているような気がするのです。

■ 想い出の中で、まだ回り続けている

大人になってから知ったんです。あのカルーセルが、世界最古級の回転木馬だったなんて。

馬に関わるようになってから、ふと調べて知ったその事実に、なんとも言えない気持ちになりました。

子どもたちが小さかった頃、あちこちの遊園地でメリーゴーランドに夢中になっていました。
 正直、子どもには本物の馬に無理に乗せたいとは思わなかったけれど、
 回転木馬に乗って笑う顔を見るたびに、「やっぱりうれしいな」って、こっそり思っていたんです。

カルーセルエルドラドは、ただの遊具ではありません。
 100年以上の歴史をもち、異国の空気をまとい、人々の笑顔をのせて回り続けた、“動く物語”のような存在です。

そしてそれは、私たちの人生の中にふっと入り込んで、ひとつの記憶として大切に残るものなのだと思います。

絵本に描かれたその物語と、私自身の記憶が重なって、今日もそっと心の中で回っています。

 

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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