進由紀

馬って撫でられるとうれしいの?

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は、犬や猫とのちがいから見えてくる、馬とのふれあい方についてです。

犬や猫と暮らしていると、ついつい撫でたくなってしまいますよね。
 頭をなでたり、背中をとんとんしたり、なかには「もっと〜」と身を寄せてくる子もいます。

では、馬はどうでしょう?
 「馬にも頭をなでると喜ぶのかな?」「撫でられたらうれしいの?」
 そう思って手を伸ばしてみたくなる方も多いのですが、実は馬とのふれあいには、ちょっとしコツがあるんです。

■ 馬は撫でられるのが好き…とは限らない?

犬や猫とちがって、馬は「撫でられる=うれしい」と感じるとは限りません。
もちろん、人の手に慣れている馬は落ち着いて受け入れてくれますし、「気持ちよさそうに目を細める」ような姿を見ることもあります。

でもそれは、馬が「それを心地よいと感じる条件がそろっているとき」だけ。

そもそも馬は、犬猫よりも触覚が敏感で、皮膚の上を一匹のハエが歩いた程度でも感じ取れるほどなんです。
だからこそ、強すぎたり、雑だったり、気分じゃなかったりすると、「やめてほしい」という反応をすることも。

■ 馬は撫でるより“掻いて”あげるほうが喜ぶ?

馬とのスキンシップのなかで、よく見られるのが「相互グルーミング」です。
 これは、馬同士が首や肩まわりを“カジカジ”し合って、お互いを気持ちよくさせる行動のこと。

人間との関係でも、馬によっては「やさしく撫でる」よりも、「ちょっと爪を立てて掻いてもらう」ほうが好きだったりします。

特に、首の根元や肩のあたりをポリポリと掻いてあげると、気持ちよさそうにする馬は多いです。
 「もうちょっと下!そこそこ!」とばかりに体を動かす姿は、見ていてほっこりしてしまいます。

■ 触っていい場所・嫌な場所がある

馬も犬猫と同じように、個体差があります。
 触られるのが好きな場所、嫌がる場所は馬によってさまざま。
 ただ、一般的に「避けたほうがいい場所」はいくつかあります。

たとえば、

  • 顔まわり(特に目の近くや鼻)
     → 神経が集中していて敏感。いきなり手を伸ばすとびっくりさせてしまうことも。
  • お尻のまわりや後肢
     → 死角になりやすく、驚いて蹴る動作につながる危険もあるので注意。

最初に触れるなら、首の側面や肩まわりなどが安心です。
ゆっくり近づいて、相手の反応を見ながら距離を縮めていくのがポイントです。

■ 撫でられてうれしいときのサインって?

「撫でられてうれしい」かどうかを判断するには、馬の反応をよく観察することが大事です。
 たとえば、

  • 首を伸ばして、気持ちよさそうな顔をする
  • じっと動かず、まぶたがゆっくり閉じてくる
  • 頭を少し預けてくる
  • 自分からそっと体を寄せてくる

こういった反応が見られたら、その馬は今、あなたとのふれあいを心地よく感じている証拠です。

逆に、

  • 耳が後ろを向く(イライラのサイン)
  • 尻尾をバシッと振る
  • 顔を背ける、距離を取ろうとする

などの仕草が見られたときは、「今はやめてね」という意思表示かもしれません。

■ 馬とのふれあいは、「信頼のかたち」

犬や猫は、家族としての距離がとても近い存在。
 一方、馬は少し距離を置いた“パートナー”のような関係性が基本になります。

だからこそ、「撫でられて喜ぶかどうか」は、信頼の深まりや、その日の気分が大きく影響します。
「撫でていい?」「ここはどう?」と、相手の気持ちに耳を澄ませるようなコミュニケーションがとても大切なんです。

■ ふれてみたい、と思ったときに

もし、馬とふれあえる機会があったら、ぜひ“撫でる”というよりも、“そっと触れてみる”くらいのつもりで近づいてみてください。

そのとき馬が目を細めてくれたなら、それはきっと、あなたとの時間を受け入れてくれている証。
 犬や猫のようなベタベタした甘え方ではないけれど、馬は馬なりの「うれしい」をちゃんと伝えてくれる動物なんです。

 

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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