乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は『カザン』という名前のサラブレッドのセン馬のお話です。
(セン馬とは、去勢をした牡馬です)
カザンと出会ったのは、彼が18歳の頃。
競走馬として生まれ、引退後はある大学の馬術部へ。
その後、カザンを生産した方とのご縁でカザンを譲っていただきました。
私はその頃、ある試験を受けるための練習をしていて、ちょうどパートナーを探していました。
カザンで行こう!と決めるのに時間は要りませんでした。
カザンとの練習の日々。
もちろん順風満帆なんてことはなく、泣きながら乗っていました(笑)
試験当日。
カザンともちろん初めての遠征。馬はとても慎重な動物で、新しいもの、新しい場所にはドキドキしてしまったりします。怖がりな馬だと、念入りな馴致が必要です。
カザンはとても勇敢でした!何ひとつ物おじする事もなかったです。
練習では、カザンを元気に動かす事が難しくて(いわゆる、重いという状態)いかに元気よく動かせるかというのが私の課題だったのですが、本番はまさかの入れ込み状態^^;『やる時はやるよ!』といつになく元気いっぱいのカザン。
カザンが入れ込むのは正直想定外でしたが、でもむしろ頼もしかったです。
私は無事に試験に合格する事が出来ました。
カザンはその後、クラブの練習馬となり、ベテランホースとして沢山のお客様から愛されました。
カザンが虹の橋を渡ったのは26歳の時。
ほとんど最後まで初心者の方のためにお仕事をしてくれていました。
少し弱ってきた感じがあったため、のんびり過ごしてもらう中で、ひょっとすると『その時』が近いかも、と感じる兆候がありました。
その頃の私は、大きな試合を控えていて、その時には何日もクラブを空けてしまいます。
私のいない間に何かあったら嫌だな、と思っていました。ですがカザンはその試合の前に、察したかの様に亡くなってしまいました。
何頭も馬を見送ってきましたが、こういう時、馬は空気を読んでしまうと感じています。
もちろん別れはとても辛くて悲しいのですが、それよりも自分の中に残してくれる物がもっともっと大きくて、私はそれを糧に歩んでいます。
カザンは、私の乗馬人生で初めてこの子なら乗りこなせるかも?と感じた馬でした。
その位コミュニケーションが取れた、というより、カザンがいつでも私を受け入れてくれました。
そして私に自信をくれました。カザンがいなかったらインストラクターとしての今の私はいません。
みなさんには忘れられない馬はいますか?
馬との1鞍は、今日が最後かもしれません。馬はいつでも命をかけて私たちを乗せてくれています。
馬と過ごす今をどうか悔いなく過ごしてくださいね。