健康・病気

犬の自己免疫疾患に希望を~制御性T細胞(Treg)療法がもたらす新しい可能性

犬の免疫の病気、つまり「自己免疫疾患」は、免疫の仕組みがうまく働かなくなり、自分の体を自分で攻撃してしまうことで起こります。
現在は薬で免疫を抑える治療が中心ですが、副作用や再発の問題がつきまといます。
そこでいま、次世代の治療法として注目されているのが「制御性T細胞(Treg)」を活用するアプローチです。

■ 自己免疫疾患とは?免疫の「暴走」で起こる病気

免疫は本来、ウイルスや細菌といった“外敵”から体を守るための仕組みです。
ところが何らかのきっかけで、自分自身の血液や皮膚、関節などを「敵」と間違えて攻撃してしまうことがあります。
この「免疫の暴走」によって炎症や臓器障害が起きるのが自己免疫疾患です。

犬の場合、よく知られている自己免疫疾患には次のようなものがあります。


■ 代表的な犬の自己免疫疾患

① 免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

免疫が赤血球を壊してしまい、貧血になる病気です。
元気がなくなる、歯ぐきが白っぽい、黄疸が出るなどの症状が見られます。
重症化すると命に関わることもあり、早期治療が欠かせません。

② 免疫介在性血小板減少症(IMTP)

血小板を免疫が壊してしまう病気で、出血しやすくなります。
歯ぐきや皮膚に出血斑が見られることがあります。

③ 天疱瘡(てんぽうそう)やループスなどの皮膚の自己免疫疾患

皮膚や粘膜を免疫が攻撃することで、水ぶくれやただれができる病気です。
顔や耳、肉球などに症状が出やすく、治療には長期間の免疫抑制剤が必要なこともあります。

④ 関節炎・多発性関節炎

関節内で免疫反応が起き、痛みや腫れ、歩き方の異常が見られます。
慢性化すると関節が変形することもあります。


■ 現在の治療と課題

これらの病気は、主にステロイド(副腎皮質ホルモン)や免疫抑制剤を使って免疫の働きを抑える治療が中心です。
薬で症状をコントロールできることも多い一方で、次のような課題があります。

  • 長期投与による副作用(食欲増加、感染症、肝臓への負担など)

  • 薬を減らすと再発するケースがある

  • 根本的な“免疫のバランス回復”が難しい

そこで登場したのが、「免疫のブレーキ役」である制御性T細胞(Treg)を活用するという発想です。


制御性T細胞(Treg)療法がもたらす新しいアプローチ

制御性T細胞は、免疫の暴走を抑えて体を守る働きを持つリンパ球の一種です。
自己免疫疾患では、この制御性T細胞の数が減ったり、働きが弱くなったりしていることが多いと報告されています。

そこで考えられているのが、制御性T細胞を増やしたり、活性化させたりする治療法です。
方法にはいくつかの方向性があります。

① 体外で制御性T細胞を増やして戻す「細胞療法」

血液から制御性T細胞を取り出し、特別な環境で増やしてから体に戻す方法です。
人間の臨床試験では効果が報告されており、犬でも実験的に研究が始まっています。

② 制御性T細胞を助ける薬や栄養で「内側から整える」方法

ビタミンDやオメガ3脂肪酸、特定の植物由来成分などには、制御性T細胞の働きを助ける可能性が示されています。
また、腸内環境(腸内フローラ)を整えることも制御性T細胞の活性に関係しているといわれています。

③ 幹細胞療法との組み合わせ

再生医療で使われる**間葉系幹細胞(MSC)**には、制御性T細胞を誘導する働きがあることが知られています。
このため、すでに一部の動物病院では幹細胞治療が自己免疫疾患の補助療法として試みられています。


■ 安全性と今後の展望

制御性T細胞療法はまだ研究段階ですが、「免疫を完全に止めるのではなく、整える」という点で、従来の治療よりも自然な形での回復が期待できます。
一方で、次のような課題も残ります。

  • 制御性T細胞を増やしすぎると、逆に感染症にかかりやすくなる可能性

  • 犬種や体質による反応の違い

  • 治療コストや施設設備の問題

それでも、副作用を減らしながら免疫バランスを取り戻す治療として、将来の実用化に向けた研究が世界中で進んでいます。


■ 飼い主が今できるサポート

制御性T細胞療法はまだ一般的ではありませんが、免疫の健康を保つための生活習慣は日々のケアで支えることができます。

  • 良質なたんぱく質とビタミン・ミネラルを含む食事

  • 腸内環境を整える発酵食品やプロバイオティクスの摂取

  • 定期的な血液検査や健康診断

  • 適度な運動とストレスの少ない生活環境

こうした積み重ねが、制御性T細胞の働きを支え、免疫バランスを保つ土台になります。


■ まとめ

制御性T細胞(Treg)は、犬の自己免疫疾患の新しい治療法として注目されています。
これまで「免疫を抑える」ことが中心だった治療に対し、**「免疫を整える」**という考え方が加わることで、
より体に優しく、長期的に安定した治療が目指せるかもしれません。

まだ研究段階ではありますが、
近い将来、制御性T細胞療法が犬たちの健康と生活の質(QOL)を大きく改善する日が訪れる可能性があります。

吉川 奈美紀

吉川 奈美紀

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(きっかわ なみき)

ヨガ・ピラティス・空中ヨガ インストラクター
メディカルアロマアドバイザー

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