進由紀

馬のヒゲと猫のヒゲの不思議な共通点

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は馬のヒゲと猫のヒゲとの意外な共通点のお話です。

猫のヒゲって、なんだか特別な存在感がありますよね。
ピンと張って気分を表したり、狭い場所を通るときに感覚センサーとして働いたり。
ひげがあることで、猫は自分の身体やまわりの空間をしっかり把握することができます。

では、馬にはヒゲがあるのでしょうか?
 実は…あるんです。

■ 馬の「口ヒゲ」はただの飾りじゃない

馬の顔をよく見ると、鼻のまわりや口元に、細くて長い毛が生えています。
 これがいわゆる「感覚毛(かんかくもう)」と呼ばれるもので、猫のヒゲと同じように、繊細な感覚を受け取る“センサー”のような働きをしています。

特に、視界のききにくい口元まわりの位置感覚を補うためにとても重要。
 たとえば、バケツの中の水面を探ったり、飼い葉桶の中の細かいペレットを食べるときなど、感覚毛が「どこに何があるか」を探る手がかりになるのです。

■ 猫のヒゲと共通する役割とは?

猫のヒゲも、実は“神経と直結した特別な毛”で、ただの飾りではありません。
 暗闇でも周囲の障害物を察知できるのは、このヒゲのおかげ。

そして馬も、暗い馬房の中や視野の死角を補うために、この感覚毛に頼っている部分があるのです。

猫と違って馬は大きな体を持ち、目の位置も顔の側面についているため、真正面や足元が見えづらいという特徴があります。
 そのぶん、「触れて感じる」ためのセンサーとして、口まわりの毛はとても重要なんですね。

■ でも、競技馬はヒゲを剃るの?

ここでちょっと不思議な話をひとつ。
 馬術競技やホースショーの世界では、馬のヒゲを剃って“お手入れ”する文化が長らく存在していました。

見た目をスッキリさせる目的で、鼻まわりや顎の毛をシェーバーで整えるのが習慣になっていたのです。

でも近年、この風習に対して「感覚毛は大切な感覚器官。切ってはいけないのでは?」という声が高まり、
 2021年からは国際競技での“ヒゲ剃り禁止”が正式にルール化されました。

私自身、昔は競技に出る前に、当然のようにヒゲを剃って馬を“きれいに整えて”いました。

それがマナーのように思っていた時期もあります。

でも今は、感覚毛の大切さが広く認識され、馬を“より自然な状態で尊重する”という考え方が主流になってきました。

時代が変わるにつれて、私たち人の感覚も少しずつアップデートされているのだなと思います。

■ ヒゲのない馬は不便?

では、ヒゲを剃られた馬はどうなるのかというと…
 もちろん突然大きな問題が起こるわけではありません。
 ただ、足元や鼻先の距離感が少し鈍くなったり、慣れない場所で不安を感じやすくなったりするという報告もあります。

私たちで言えば、まゆげを全剃りした状態で生活してるようなものかもしれません。
 見た目はスッキリしていても、実は「顔の立体感」がつかみにくかったり、ちょっとした違和感がある…そんな感覚に近いのかも。

■ ひげを見れば、ちょっと馬通?

もし今度、馬の顔をまじまじと見る機会があったら、ぜひ口元のひげを見てみてください。

「ちゃんと伸びてるかな?」
 「ピンと張って何か探ってるみたい?」
 そんなふうに注目してみると、**今まで見えなかった“馬の感覚の世界”**が少し垣間見えるかもしれません。

猫がヒゲで感じているように、馬もヒゲで世界を感じている。
 そんな小さな共通点が、ちょっとうれしく感じられます。

 

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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