健康・病気

世界の馬たちの“夏のしのぎ方” 〜馬はどうやって暑さを乗り越えるの?〜

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
残暑、というかまだまだ暑い日本の夏。
馬たちの生活環境も年々過酷になっている気がします。
今回は、日本、また世界の馬たちがどうやって暑さを乗り越えているかのお話です。

馬は大きな体で草原を駆け抜けるイメージから、夏も元気に走り回っているような印象を持たれるかもしれませんが、実はとっても“暑がり”な動物です。

日本の夏はもちろん、世界各地の馬たちも、それぞれの気候や環境に合わせた“夏のしのぎ方”で、なんとかこの季節を乗り越えています。

今日はそんな「馬の夏事情」を、ちょっと世界旅行気分でのぞいてみましょう。

■ 日本の馬たちの夏

日本の夏は、馬にとってかなり過酷です。
高温多湿で蒸し暑く、人でもバテてしまいそうな気候の中、全身を毛に覆われた馬たちも、日々さまざまな工夫をして夏を乗り越えています。
まず多くの馬場や厩舎では、扇風機やミスト、打ち水などを活用して、できるだけ涼しい環境を整えています。馬房の中には大型扇風機が設置され、風の流れをつくることで少しでも体温を下げられるようにしている施設も。

馬はもともと草原で暮らす動物なので、日差しそのものにはある程度耐性がありますが、湿度の高さにはとても弱いのです。
特に日本のようなジメジメした夏は、熱がこもりやすく、汗が乾きにくいため、体に負担がかかりやすくなります。

暑い時間帯を避けて、早朝や夕方に運動時間をずらすことも多くなります。
夏場は“夜間放牧”を取り入れる施設もあり、日中は涼しい厩舎で休ませ、涼しい夜のうちに自由に動ける時間をつくってあげるなど、生活スタイル自体を調整することもあるのです。

また、熱中症対策として、水分補給や電解質のサプリメントを与えるケースもあります。馬は汗をかく動物なので、汗とともに失われるミネラル分を補うことも、夏を乗り切るための大事なケアになります。

■ ヨーロッパの馬たちの夏

ヨーロッパ、とくにドイツやフランスなど中・北部の国々では、夏の気候は比較的カラッとしていて、気温も日本よりは抑えめです。

そのため、馬たちにとっては日本のような「湿気地獄」ほど過酷ではなく、放牧時間を確保しやすいのも特徴です。
それでも熱中症のリスクがゼロというわけではありません。日差しの強い日は、日中の運動は控えめにしたり、森の中など木陰が多いルートを選んで外乗に出かけたりと、自然環境をうまく活用する工夫がされています。

また、長毛の馬や暑さに弱い個体には「サマーカット」と呼ばれる毛刈りをして、涼しさを保つこともあります。

牧草地でのんびり昼寝している馬の姿が見られるのも、ヨーロッパの夏ならではの光景かもしれません。

■ アメリカの馬たちの夏

アメリカはとにかく広く、地域によって気候が大きく異なります。
たとえば、カリフォルニアは乾燥した暑さ、フロリダは高温多湿、テキサスは灼熱…といった具合で、暑さ対策も土地柄に応じてさまざまです。

西部では、早朝や日没後に作業やレッスンを行い、日中は無理に動かさないスタイルが一般的です。
屋根付きのラウンドペン(円形の調馬場)や冷却機能付きの馬房など、施設自体が“暑さ仕様”になっているケースもあります。

また、馬のための“スポーツドリンク”的なサプリメントも多く、馬用のポカリスエットのようなものが販売されているのも、アメリカらしい文化のひとつです。

■ 中東・アラブ圏の馬たちの夏

中東のような高温乾燥地帯では、馬たちもまた特別な環境で守られています。

エアコン完備の厩舎や、日差しを完全に遮るトレーニングスペースなど、“人間より快適かも?”と思うような設備が整っていることもあります。

特にアラブ系の馬は、このような地域で古くから人と暮らしてきた歴史があり、暑さに対する適応力も高いですが、それでも近年の気候変動により、管理の難しさは増しているようです。

日中は完全に休ませて、早朝と夜にトレーニングする「昼寝+ナイトワーク型」も定着しています。

■ 南半球の馬たちは今、冬?

ちょっと視点を変えて、オーストラリアやニュージーランドなど南半球に目を向けてみると、今はちょうど冬の時期。

つまり、「夏=競技シーズン」という感覚ではなく、馬も人も“冬の調整期間”に入っている国もあるのです。

こういった季節のズレがあるのも、世界の馬事情を知る面白さのひとつかもしれません。

■ 暑さに敏感な馬たちだからこそ

どの国の馬たちにも共通して言えるのは、「暑さが大きなストレスになる」ということです。
馬は人よりも体温が高く、しかも全身を毛に覆われているため、体温調整がとても苦手です。
人間と同じように汗をかくけれど、その汗が蒸発しづらい環境では、体の中にどんどん熱がこもってしまいます。
だからこそ、馬たちは“夏をどう乗り越えるか”がとても大切。

それは、私たちが犬や猫の夏バテを心配するように、馬に対しても同じような想像力や気配りが必要なんだと改めて思います。

この夏、もしどこかで馬に出会うことがあったら、
「今日、ちょっと暑いね」なんて声をかけてみてください。
きっと、少し優しい気持ちになれるはずです。

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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