乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
今回は「馬のトレーニングにおいて人がどの立場でいるか?」という様なお話です。
まだナチュラルホースマンシップという言葉が日本には全くなかった頃のドイツで、馬術を習った事がありますが、その時はある段階で「支配力」が必要と言われていました。
私はあいにく支配力を身につけることなく今に至りますが(笑)、現在ではかつて言われていた支配力という言葉はもう聞かれませんね。
馬のトレーニングにおけるさまざまな分野やアプローチでは、さまざまな形や大きさの「優位性」という言葉によく遭遇します。
いくつかのトレーニング方法は、人間が馬をリードしていることを示す必要があるという考えに基づいています。
「馬は行儀よくしなければならない」または「誰がリードしているかを馬に示さなければならない」など。しかし、それは本当に意味があるのでしょうか? 優位性とは何でしょうか?
優位性とは?
「優位性」は、行動生物学から生まれた用語です。
行動生物学においての定義をいくつか紹介します。
優位性は
「群れの中の競争要素を排除することを目的としたメカニズム」
と定義されています。そして、
群れは
「一緒に生活し、時間や状況などに応じて変化する内部階層を持つ、同じ種の個体のグループ」
と定義されます。
階層とは
「優位性と優越性を通じて形成され維持される種内の順位付けシステム」です。
ここで重要なのは、定義として、それを同じ種内で行われるものとして扱うことです。
つまり優位性や階層は種を超えて存在することはできず、したがって人間と馬の間にも存在できないことになります。優位性は優越性とも呼ばれ、劣等性の正反対です。これらは、階層の中に生まれるものです。
馬の観察から、馬は優位性と劣位性の行動要素を利用して内部階層内でコミュニケーションをとることがわかっています。
例えば馬が餌を食べるときに、我先にと、他の馬を追い払い食べる様な馬は優位です。
馬が他の馬に対して優位な態度を示す場合、優位な馬は通常、前傾姿勢をとり、体重と動きの両方が他の馬に向いているボディランゲージを示します。
馬は、耳をピンと立てたり、熱心に見つめたり、蹴ったり、噛んだり、追いかけたりすることがあります。しかし、多くの場合、馬が他の馬の方向を見るだけで十分です。
馬が他の馬に対して劣等な行動を示す場合、その行動は他の馬から離れる方向を向いていることが多いです。つかみどころのない姿勢や行動、あるいは単に馬が他の馬から 1 歩か 2 歩離れるという行動は、すべて劣等なシグナルです。
優位性と劣位性
馬がフィールド上で他の馬を動かすたびに、1 頭の馬の優位性と他の馬の劣位性が相互作用します。
これらのシグナル間の相互作用は、状況、時間、群れの構成などによって異なります。
したがって、1 頭の馬が優位性を示して他の馬を干し草から遠ざけることができますが、その役割は同じ日のうちに入れ替わる場合があります。階層は固定的ではないんですね。
現在では優位性と劣位性、そして序列の関係は一日を通して変化することが分かっています。
したがって、昔考えられていたように、常に 1 頭の馬が主導権を握っているわけではありません。
これは、人間が馬を支配し、自分たちが階層の頂点にいることを示す必要があるという考えが通用しないという事です。
そもそも階層は種を超えて存在しないのです。
種を超えて階層が存在しないなら、大きな動物と安全にコミュニケーションを取り過ごすにはどうしたらいいのでしょうか?
馬が主導権を握ろうとしているように見える状況を経験することはありますよね。
しかし、これを支配と見なすのは間違いです。
馬は、獲物となる動物であり、プレッシャーを感じるような状況からは逃げるようにプログラムされています。
訓練中に馬が人を轢こうとするのは、馬が不快感を覚えたり、ストレスが高まったりしていることが多いのです。
乗馬中に馬が暴れたり、後ろ足で立ち上がったりするのは、多くの場合、身体的または精神的な不快感の反応の場合が多いです。
対立行動とは、馬が不快な状況を避けたいが避けられないため、別の種類の行動を示す状況を指します。尻尾を振ったり、暴れたり、後ろ足で立ち上がったりすることがこれにあたります。これは、騎手が馬に理解できない合図を馬に送ったり (たとえば、手綱を引いて馬を蹴ったり)、馬に痛みを引き起こすようなことを要求したりする乗馬状況でよく起こります。単に適切な訓練が不足しているという状況もあるでしょう。
後編は、自然界の馬についてもお話します。