アニマルライツ

馬と共に学ぶ〈後編〉

乗馬インストラクターがお伝えする馬のお話。
「馬のトレーニングにおいて人がどの立場でいるか?」
馬と共に学ぶの後編です。

自然界の馬の群れではどうでしょうか?

群れの中で常に固定されている役割は、リーダーの牝馬の役割です。
群れを水場、草地、休憩場所へ導く責任は常に牝馬にあります。必ずしも最も支配的な行動を示す牝馬である必要はありません。多くの場合、牝馬は支配的な行動をほとんど示しませんが、群れはとにかく牝馬に従います。

群れの他のメンバーも動きを始めることができ、他のメンバーは通常それに従います。
したがって誰もが先頭に立つことができますが、重要な全体的な責任は先頭の牝馬にあります。

これは犬の行動に関する最新の研究とも一致しているそうです。
群れのリーダー犬やオオカミが最も優位な立場にあるわけではないことが示されています。
むしろ、彼らは最大の責任を負い、食料を確保し、群れの他のメンバーの世話をするなどします。

つまり優位性の高い行動が自動的に群れの中で高い地位を与え、より多くの尊敬を集めるものではないということです。

では、なぜ私たちは馬のリーダーになることが重要だと考えるのでしょうか?

人間は捕食者であり、人生に対する基本的なアプローチとして主導権を握りたがる傾向があります。
昇進、肩書き、地位が一般的に重要視される人間社会の成り立ちの中で、主導権を握れる高い地位を目指す事が自然に組み込まれがちです。
馬にとってこれは何の意味もありませんが、人間は馬よりも高い地位に無意識レベルに思ってしまうのかもしれませんね。

プレッシャーは支配力とは違う

プレッシャー&リリースはナチュラルホースマンシップの訓練方法で自然界の馬の観察に基づいていています。
人間が馬に圧力(プレッシャー)をかけると馬が動き、その後人間が圧力をリリースします。このアプローチは、馬のトレーニングや乗馬で広く使用されており、効果があります。
馬が特定の動作を行うときに圧力をかけ、その後圧力を解除すると、馬は圧力を消すために反応しなければならないことを自然に学ぶことができます。
しかし、これは人間が馬を支配しているのではなく実際は単純な学習心理学です。
支配することと、特定の状況で主導権を握ることの間には大きな違いがあります。
馬が人間をリーダーとして認識できるという考えや、馬同士が示す支配的な行動を人間が真似してトレーニングしなければならないという考えは否定されつつあります。

でも、馬が主導権を握るわけではありませんし、ある程度は私たちが主導権を握るのが適切です。
なぜなら、馬が人間の合図に反応することを学ばなければ、危険になる可能性があるからです。
馬に協力し、私たちの合図に積極的に反応することを教えることと、支配的なリーダーになることの間には大きな違いがあります。

馬の行動は、過去に経験したことと生涯を通じて得た知識に基づいていることがわかっています。
さらに、馬の身体の状態は、馬の反応に大きな影響を与えます。

何かが危険である可能性がある場合、馬は本能的に逃げようとします。
馬に痛みを伴うことを要求したり、馬がそれを実行するのに必要な力を持っていない場合には、馬の体はとらえどころのない反射反応を引き起こします。馬を誘導し、適切な行動を示し、馬が正しい行動をしたときにそれを指示します。
適切な協力とは、明確で親切なコミュニケーションです。

馬が人間の言っていることを理解していない場合は、圧力を強めるだけではなく、戦略を変える必要があります。
馬が特定のことを実行できない場合は、痛みを感じていないか確認してみるのも良いですね。

また、馬が正しいことをしているときは、それをしっかり伝えることが大切です。
人間が伝えなければ、馬はそれを知ることができません。
私たちは、触れること、褒めること、おやつを与えること、プレッシャーを軽減することなどで、正しいことを伝えることができます。

馬への支配力はもう、過去の言葉となっています。
馬の行動に関する知識と心理学の学習、そして適切な実践に基づいて、馬と人間の関係を築いて、共に学ぶことです。

その時々で、優位性が変わる。もし常に人間がリーダーで支配しているのだったら「馬に助けられる」経験なんでできないはず。
馬に携わっている人誰しもが必ず経験した事ありますよね。
助けられたこと。馬との関係はこれだからやめられないのです。

馬と共に学ぶ〈前編〉

進 由紀

進 由紀

投稿者の記事一覧

(すすむ ゆき)
乗馬インストラクター
全国乗馬倶楽部振興協会認定指導者

2002年より乗馬クラブでインストラクターとして働く

「馬は自分を映す鏡」の様な存在です。
自分の行動に対しての答えを、いつも分かりやすく返してくれます。
だからこそ、いつでも正直に、真剣に、謙虚に、馬と向き合う事が出来ます。
それは時に苦しいけれど、そんな時にもポッと何か閃きをくれたりする。
馬はとても賢くて、優しくて、そしてどんな馬もみな、真面目で頑張り屋です。

出会った馬には、幸せを感じながら人間と仕事をしてもらえるように。
また馬の素晴らしさを一人でも多くの方に知って頂けるように。

馬と共に成長し、人々に貢献する事を目標に、日々奮闘しています。

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